もし、浮気されていても彼と別れたくない。

秋桜空白

第1話

男の恋は熱しやすく冷めやすいってどこかで聞いたことがある。

なんて夢のない言葉だろうって思う。

それじゃあ永遠に愛されていたい私はどうすればいいの?


付き合って半年の彼が最近なんだか冷たい気がする。

いつも週二、三回はデートをしていたのに、

今月に入ってからそれがぱったりと止まってしまった。


彼は私をデートに誘ってくれなくなったし、

私から誘っても彼はいつもバイトがあるからと言って断るのだ。


それだけじゃない。


毎日、暇があればスマホでメッセージを送りあって会話をしていたのに

最近は彼の返信がかなり遅い。

一日たっても返信が返ってこないことすらあるのだ。

今日も彼の返信を悶々と待ち続けて、来ないまま休日が終わってしまった。


翌日、大学の友達に相談したら浮気じゃないかと言われた。

そんなわけないって最初は思っていたけど、

話してるうちにだんだんと自信がなくなってきて、

いつの間にか彼に裏切られた時のことで頭がいっぱいになって、

お腹が痛くなった。


「もし浮気されてるかもって少しでも思うなら、

あなたももう一人くらい男の子をキープしておいたら?

そっちの方が気が楽よ。

今すごく不安で辛いでしょ?

あなたをそんな精神状態にする時点で彼が悪いに決まってるんだから」


去り際にそんな話を聞かされて友達と別れた。


私は自分のアパートに帰ると、

ベッドの上で兎のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。

小さいころから寂しい時はぬいぐるみを抱きしめて気を紛らしていた。

両親は共働きで家にいるときはいつも一人だったから、そんな癖がついた。


恋人ができたらもうぬいぐるみなんて抱きしめずに済むと思っていた。

けれど、恋人ができてからの方がぬいぐるみを抱きしめる回数は格段に増えたと思う。


こんなに苦しいなら恋なんてしなければよかった。

本当に心からそう思うのに、

それ以上に私は彼が好きだ。

もし彼が浮気していても、私は彼と別れたくない。

苦しい。苦しい。どうしたらこの苦しみは止まってくれるんだろう。


私は寝そべってため息をついた。

スマホのカレンダーを見る。

カレンダーを見て、

そういえば自分が来週誕生日だということを思い出した。


私はふと思った。

誕生日を口実にすれば、彼は私に会ってくれるんじゃないだろうか。

考えれば考えるほど、それは名案に思えた。

それで私はさっそく彼にメッセージを送った。


「来週の日曜日、誕生日なんだけど、私と会ってくれたりしないかな」


一時間、胸を焦がしながら返信を待っていると


「ずっと俺から誘おうと思ってたんだけど、誘えてなかった。本当にごめん。俺も会いたい。会おう」


と彼から返信が返ってきた。

その返信だけでさっきまでの憂鬱が嘘のように掻き消えていた。


「うん!最近忙しそうだったよね。来週は大丈夫そうなの?」


「大丈夫。誘いをいっぱい断ってごめんね。あのさ、来週会ったら伝えたいことがあるんだ。隠してたことがあって」


私はその返信を見て怖くなった。

隠してたことって何だろう。

やっぱり浮気だろうか。

私は大きく深呼吸をして文字を打った。


「うん。わかった」


私がそう返信すると


「ありがとう。大好きだよ。おやすみ」


と彼が返信してきた。

私はそれに何も返信をしなかった。




一週間後の私の誕生日。

結局彼は、約束の時間になっても待ち合わせ場所に来ることはなかった。

やっぱり浮気だったんだと思って私は悲嘆に暮れた。


けれど数日後、彼は浮気していたわけではないことを知った。

彼は私の誕生日の日に自殺をしたそうだ。

彼はうつ病で、私と付き合ってから症状が悪化していたらしい。


そんなこと私は気付きもしなかった。

私は私のことばかり考えていて彼のことを何も考えていなかった。

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もし、浮気されていても彼と別れたくない。 秋桜空白 @utyusaito

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