第2話「The Prizoner」

 ヴァンパイアキングはすぐさま勇者達に襲い掛かった。

 サッと上空を仰ぎ両手を上げると巨大な氷結の刃が凄まじい勢いで勇者一行目掛けて飛んできた。


 ヒーラーは物理バリアを展開。ヘイストを掛けられた勇者は素早い斬撃でキングに物理攻撃を与えて行く。

 タンクはヘイトを取りつつ雷撃をぶつけるがキングは感電に耐性があってほぼ効かない。


 だが勇者の攻撃は確実にキングのHPを削っていた。氷結属性のキングにはアークメイジの火炎攻撃もかなり効いている。


 このゲームの素晴らしい所はその美麗なグラフィックと臨場感溢れるバトルだ。火の粉をまき散らしながら火炎魔法が渦巻く様子は凄まじいの一言に尽きるし、キングの氷結の刃が飛んでくると思わず体が反応してしまうほどリアルだった。

 

 キングのHPが半分になった所で属性が変わり無属性になった。その上でマジックバリアが展開されアークメイジの攻撃が効かなくなった。


 タンクも物理攻撃に転向して、ヒーラーは勇者とタンクにヘイストと精度アップのバフを掛ける。アークメイジはボスに速度低下のデバフを掛けた。


 ボスの攻撃は主にタンクに向けられたが攻撃回数が減ってタンクのHPは半分以上を保っている。ヒールの回数を抑えられるヒーラーは味方にバフを掛けることに集中出来た。


 キングのHPはあと3分の1。もう少しだ! 


 キングのマジックバリアが切れた。するとキングの背中から大きなコウモリの様な翼が生え上空から左右に自由自在に攻撃してくる。羽ばたきと共にかまいたちの物理攻撃がくうを舞う。見えない刃物に切り裂かれ勇者とタンクのHPがみるみる減っていく。


 だがヒーラーがすばやく掛けた物理バリアがかまいたちを弾いた。アークメイジは再び強力な魔法でキングを追い詰める。タンクの雷撃がヒットするとキングが低空まで下がり、そこを勇者がすかさず斬撃をお見舞いした。


 キングは地に落ちた。耳をつんざく断末魔と共にその体は無数のコウモリとなり空中に舞ったがすぐ灰色の火の粉になって消えた。


 残り36秒。




「なんか・・割とキング弱くね?」


 アークメイジさえ育成すれば簡単に倒せそうだ。男はまたVRのゴーグルを付けコントローラーを握った。




_____




 もうひとつのパーティーはキングが最後に上空から攻撃を仕掛けてくることを考慮してアーチャーを仲間に入れていた。命中率に極振りしているアーチャーの攻撃にキングはあっさりと撃墜された。


 耳をつんざく断末魔。無数のコウモリと化したキングの体は宙を舞い、灰となって消えた。



 次のパーティーはバランス型。攻略サイトに動画を投稿したゲーマーと同じようなパーティー構成だ。

 時間はかかるがぎりぎりキングを倒すことが出来た。


 耳をつんざく断末魔。無数のコウモリと化したキングの体は・・・・・・・・・・・・・



 



 ヴァンパイアキングは地下100階、広いボス部屋の最奥に座している。周囲には霧が立ち込め部屋の様子が図れない。冷たくごつごつとした石の玉座はこれまでキングが倒してきた勇者たちの血のりで彩られている。


「ケツが痛ぇ」


 どうして自分はこんな薄暗く寒い部屋でまるで石の様に硬い椅子に座っているのだろう?


「まんま石じゃねぇか」


 石で出来た玉座を見下ろしたキングは毒づいた。すると玉座から対極にある扉が開くのを感じたキングはその真っ赤な舌で唇を舐め、不気味な笑みを漏らした。


「来やがったな‥」



 今度のパーティーはタンク2名、勇者とアーチャーのごり押し系パーティーだった。タンクの一人がヒールを扱えたがキングのHPを半分も削れないで撃沈した。


「未熟者め!」ヴァンパイアキングは勝利の決め台詞を吐いたが、何か違和感がある。


 ‥‥気付くとまた冷たい玉座に座っていたキングは呟いた。


「喉が渇いた」


 血への渇望はヴァンパイアの宿命だ。


「コーラが飲みてぇ」


 ――白いボトルの『コーラプラス』だな。あれはカロリーゼロだし‥ちょっと待て。コーラって何だ? ヴァンパイアが欲するものは血に決まっているだろう。


 どうもおかしい。さっきのパーティーは事もなく退けたがその前は? 我はアーチャーが放つ無数の矢に貫かれ地に落ちたのではなかったか? 


 考え込んでいるとまた扉が開く気配が感じられ、眷属のコウモリが扉目掛けて飛んでいく。その大軍勢の羽ばたきで霧が一瞬晴れ、こちらに向かってくるパーティーのシルエットが浮かび上がった。


 そうだ。その前も時間ぎりぎり一杯まで粘った勇者が我の翼を切りつけ、この高貴な肢体は地にひれ伏したのだ。


 ――ではなぜ我はまたこの玉座に座っているのだ?


 だがキングに考える暇を与えず勇者パーティーが玉座の近くまで攻め込んで来た。




 ‥‥‥‥耳をつんざく断末‥


「ハッ!」


 ――倒されたはずの我はまたこの玉座に復活している。


 今やロダンの「考える人」のような姿勢でキングは苦悶していた。


 ――これは一体‥

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る