第49話 親友同士の対決。 VS 水上 涼香 part2

先に動いたのは涼香だ。

帯をホルダー代わりに2丁の水鉄砲を挿す。


「行くよ、ゆりちゃん」


両手が空いた手を後ろ下斜めに向けて、前屈みの体勢になる。


「これはまさか……」


以前、異能が強化されてすぐに涼香と組手した際に見た光景だ。

これは一瞬で距離を詰められる。

涼香は今は遠距離攻撃が強力な選手だが、元は近接が得意で実家に伝わる武術を使用してくる。

武術の中でも武器を使わない格闘をメインに習得しているみたいだ。


その予想は的中した。

涼香は手の平から水を大量に放出する。

流水の水圧により、涼香は加速して一瞬で距離を詰める。


「思い通りにさせるか!」


糸状の粘液を生成して、グローブに付いてる疑似異能【出力強化】により糸を向かってくる彼女の足を目掛けて発射する。

しかし、腕の方向を変えるだけで加速しつつ左右に避けられる。


「その攻撃は予想出来てたよ」

「さすがっ……!」


もう糸を出して攻撃をする余裕はない。

左の盾状態の触手をそのままに、右の触手を警棒に戻す。

その警棒に撥水性の粘液を纏わせて、水対策をする。


涼香はすでに蹴りが届く間合いまで着ていた。

オレは警棒を振り下ろして攻撃をしようとするが、届かなかった。

加速として使ってた水の放出をそのまま使い、半円を描く様に腕を左右から前に出す。

すると、水は鞭の様な攻撃となった。


対処することが出来ずに、左右の両方から襲う水圧による打撃でダメージが入る。

さらに、涼香の手が前に出したことで正面に流水が襲う。


いくら、防水の盾を構えたからと言って限度がある。

手に持っていた警棒は流され、防御不能な攻撃を真面に食らう。


「くっ……、痛い」


片膝を付いた状態で胸を押さえる。

正面から受けた水により、勢いで道着が開けたからだ。

さらに、濡れたことで道着の中に来ていた薄いシャツが透けている。


「あらあら、ゆりちゃんの下着が見えそうだよ」

「誰のせいだよ!」


警棒は水に流されて遠くにあり、取りに行けば隙が大きく出来て一瞬でやられる。

すでに、さっきの攻撃によりオレのゲージが残り1割と涼香と並んだ影響で油断すら出来ない。


このまま2敗なんてさせるか。

絶対に勝って、すぐにでもシニアクラスに上がってみせる。


その決意による闘志が恥を捨てて、そのまま立ち上がる。


「闘志に燃えて、カッコいいよ私のゆりちゃん。 でも、負けてあげないよ。 私も本気で異闘をやってるから、試合では常に真剣だよ」

「少し煩悩が混じってたと思うけどっ!」


オレは腕と足に、すぐ乾燥して堅くなる粘液を纏わせて防具にする。

関節部分はゴムの性質の粘液にすることで、自由が利くデザインにする。


名付けて――


「”粘液武装スライムアームド”」

「武器を捨てたんだね。 でも、単純な格闘なら私の方が分があると思うよ」

「そうかもな」


この粘液の指先を対象に異能を発動させる。

ガントレット化した粘液が一本ごとに触手に変化している。

計十本の触手になる。


「何か宇宙人のような手をしてて怖いけど、ゆりちゃんの手だと思うと受け入れたくなっちゃう」

「業が深いよ」

「愛が深いって言ってよ。 私はゆりちゃんに何をされても嬉しいからね」

「試合が終わったら構ってあげるから、今は真剣にやろう」

「私は真剣だよ?」

「どっちの意味でっ!?」

「両方♡」


再び距離が空いたことで、涼香は2丁の水鉄砲を取り出して、撃つ。

水の弾を貫くように触手を伸ばして無効化させる。

触手が撥水性かつ、先端が針のように鋭いため水圧を気にせずに弾くことが出来た。


「とても厄介だね、それ……」

「あぁ、予想以上に強いわこれ」


涼香は再度水鉄砲を帯に挿して、手を空ける。


「水鉄砲が通用しないなら、物理で攻撃するしかないよね」

「物理もこの武装の前で、役に立てるかな?」

「いいね、その挑発。 私が初めて出したその技を突破させてもらうね」

「さぁ、来い!」


二人は意図せずに自然と笑みを浮かべていた。

お互いにゲージが一割という絶体絶命のサドンデス状態の中、試合を楽しんでいる。


涼香がこちらに近寄ろうと走る。

それを十本の触手を一本ずつを涼香に向けて伸ばして、阻止しようと攻撃する。

だがしかし、伸ばした触手は簡単に手で滑らして逸らす。


「威力もあって、少し難しいね」


さすがは武術。

この程度の攻撃を簡単に逸らすのか。


「この攻撃を逸らすのが少し難しいで済むのか」

「私も手足に水を濡らしてるからね、滑りやすいよ」

「だったら、逸らすことが出来ない攻撃をするだけだ」


今度は槍の様に突く攻撃から、鞭のように打撃攻撃に転換させる。


「それも私の前だと無意味だよ」


触手の鞭が涼香を襲っても、簡単に逸らされる。

これは完全に武術の達人の域だ。


「不思議だよね、柔よく剛を制す武術って」

「人体の不思議だな」

「ふふっ、これはただの水を利用した水上流武術による技だから、私は化け物ではないよ?」

「この年で達人の域まで達している時点である意味、人外だよ」

「うぅ、酷い。 さすがにゆりちゃんに言われると凄く傷つくよ」

「ごめん。 だけど、すごく尊敬してるよ。 オレでは絶対に出来なくて、血が滲むような努力をしたんだなって思う」

「ゆりちゃん……、しゅき♡」


涼香はすでにオレの間合いまで近寄っていた。

しかし、涼香は攻撃を仕掛けてこなかった。


「……っ!?」

「オレの勝ちだ、涼香」

「ずるいよ、ゆりちゃん……」

「ずるじゃなくて戦術だよ」


先程の触手に毒の粘液を纏わせたコーティングをしたおかげで、手足を痺れさせた。

涼香の纏っていた水の影響で少し薄れたが、水が汚染されて範囲が広がり案外早く効いたようだ。


片膝ついた涼香に向かって、触手の鞭で攻撃して残りのゲージを削りこの試合に勝った。








痺れて動けない涼香をおんぶして、結界から出る。

すると粘液、水、触手に毒が消えて残ったのは、試合による疲労感だけだ。


「一緒に休もうか、涼香」

「うん」


ベンチ向かって歩くと、遠くに縁がいた。


「二人共、お疲れ! いい試合だったよ」

「ありがとう、縁」


涼香は返事がない。

寝息が聞こえるので、疲れて寝てしまったのであろう。


「すずかっち、幸せそうに寝てるね」

「あぁ、このまま二人で休ませてもらうけど、縁は試合?」

「うん。 早く二人に追い付きたいからね」

「あんまり無理をするなよ」

「そっちもね。 ウチはまだまだ元気だから平気だよ!」

「そっか。 じゃあ、観客席で応戦させて貰うね」

「ごゆっくり~」


二人は手を振って別れた。


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あとがき


この休日、ずっと寝てて書けなかった(´;ω;`)


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