三夏ふみ

灰色の雲が

灰色の雲が飛んでいく。

私はそれを見送って、旅行鞄を持ち上げた。

「ありがとう」

青い瞳、透き通る白い肌、血色の悪いカサつく唇が、形式だけの挨拶を口にする。

片腕が取れた少女。私はそれを一瞥して、また空を仰ぐ。

世界の全てを吸い尽くすことを止められない、雲達。

ああそうか、今日がはじまりなのか。

天を仰いだまま目を閉じると、目頭から溢れ流れる。

終る。

そして始まる。

決まりきった約束を、教えられた当たり前を、どうして忘れてしまうのだろう。

雲の合間から見え隠れする、真っ赤に燃える無数の星が降り注ぐ空の下、何を待てば良かったのか。等しさを皆、抱えたままで。

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三夏ふみ @BUNZI

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