第61話:彩心真優視点『深淵に触れる』
この世界に運命の人が存在するのか。
高校時代のお昼休みに、こんな話題に巻き込まれたことがある。
現実主義な私は、運命の人なんて存在しないと心の中で思っていた。
だが、お嬢様学校に通う女の子は、勉強はできるものの、それ以外の点——特に性格に関しては、かなり脳内お花畑であった。
彼女たちは、小さな女の子がいつの日か白馬の王子様を思い描くように、この世界には必ず運命の人が存在するんだと言い張ったのだ。
私としては、そんな結論を聞きながら、「バカだなぁ」と嘲笑っていただろう。
しかし、今なら分かる。彼女たちが話していた内容が——。
「ふふふふ」
だって、今の私は、彼を一目見ただけで身も心も謎の充実感に満たされるのだから。
だけど、人生というものはややこしいもので、私に一つの難所を与えたようだ。
童話や神話でも王子様とお姫様が結ばれるには困難を乗り越える必要があるように、私にもあまりにも大きな壁が存在する。
それは——彼には、愛してやまない最愛の彼女——本懐結愛の存在だ。
「どうかした? さっきから何か様子がおかしいけど」
隣のヒノキ椅子に座る素っ裸の従姉——サユちゃんにそう訊ねられた。
「ニタニタしたり、ガッカリしたり……どうした? 真優」
物思いに耽っている一部始終を見られていたようだ。
でも、それも仕方ないじゃない。
自分をお姫様だと思っていたら、実は自分の存在が王子様とお姫様の間を引き裂く魔女だったというオチなんてさ。
私は目に泡が入らないように髪の毛をゴシゴシと洗いつつも答える。
「ちょっとした考え事」
サユちゃんは何を考えているのかよく分からないけど、頼りになるお姉ちゃん的な存在だ。私よりも人生経験豊富で自称大人の遊びというのに何度も連れて行ってもらった。
煌びやかな夜の街を散策したり、遠出して二人でキャンプしたり、R18と書かれた暖簾の中へと入ってみたり、夜中の学校に忍び込んでみたり……楽しいことも危険なことも全てを教えてくれたのはサユちゃんだった。
私が幼かった頃は自転車の荷台に乗せてくれて、大きくなるにつれて、原付きバイク、自動車と少しずつ規模を大きくして、私をいつも連れ回してくれた大好きなお姉ちゃん。
そんな彼女は洗い終えた髪の水滴を落とすために、頭をブルブルと震わせる。
それから全てを見透かしたように微笑み、私を試すように凝視してきた。
「勇太くんのことでしょ?」
彼——時縄勇太のことを考えることは多い。
毎日のように考えていると言っても過言ではない。
枕元で彼のことを思い、少し寂しく切なく感じながら。
「……そうだけど、それだけじゃない」
「なら、結愛ちゃんのこと? 真優の恋敵だもんねぇ〜」
「恋敵……別に私は——」
時縄勇太のことが好き。
そう本人には伝えたものの、他の人には誰にも話していないのだ
それは勿論、頼りになる従姉のサユちゃんにさえも。
ただ、彼女の口振りを察するに、私の恋心をもう既に熟知している様子である。
「真優、一つだけイイことを教えてあげる」
サユちゃんはボディソープをプッシュし、タオルの上で泡立てた。
程よい泡加減になったのを確認してから、彼女は白磁色の柔らかな肌へと布切れを当て、自らの汚れを落としていく。
目線を一切見せることなく、年上のお姉ちゃんは淡々と言う。
「誰かを好きになるということは、誰かを傷付けることでもあるんだよ」
「何それ?」
「全員仲良く手を繋いでハッピーエンドとは行かないって話」
誰かを好きになった時点で、誰かを傷付けることもあるか。
ならば、誰かを傷付けることを覚悟して、誰かを好きになる必要があるのか。
その覚悟さえないのならば、誰かを好きになる資格もないのかもしれない。
「サユちゃんはさ、誰かを本気で好きになったことある? 勿論、男性限定ね」
「ん〜。どうなんだろうね。誰かを本気で好きになったことなんてないのかも」
流石は美容女子とでも言うべきか、サユちゃんは足の指までゴシゴシと洗っている。
片足ずつ自分の空いている太ももの上に乗せ、手の指先と足の指先を絡ませるのだ。
すると、クチュクチュと石鹸の甘い香りが漂ってくるのだ。
「アタシさ、あんまり他人に興味ないんだよね。自分本位の人間だから」
「と言いながらも、様々な男たちと付き合ってきたじゃん!」
「まぁ〜それはそうなんだけどさ」
右足を洗い終え、お次は左足を洗うようだ。
サユちゃんはボディソープへともう一度手を伸ばした。
手のひらで泡を薄く伸ばし、程よく泡が立ったのを確認してから。
「別にそこまで好きかと問われたら、そこまで好きじゃないなんだよね」
本心をぶちまけながらも、彼女は左足を洗い始める。
先程と同様に。
「言い方が悪ければ、ただ都合が良かったから一緒に居ただけって感覚?」
都合が良かったから一緒に居ただけ。
サユちゃんの彼氏の話は、何度か聞いたことがあった。
取っ替え引っ替えする彼女を見て、節操がないとは思っていたが……。
飽き性な彼女らしいと思ったまである。
「小学校の友達、中学校の友達、高校の友達、大学の友達。こんな感じでアタシたちは様々な友達を作るじゃない?」
確認を取るかのように、サユちゃんは眼差しを向けてきた。
私が「うん」と頷くと、伝わったと安心したのか、話を進めてくれた。
「で、結局——アタシにとって、彼氏もそんな感じの存在に過ぎないって感じ。好きか嫌いかと問われれば好きだけど、本気で好きかは分からないんだよね。ただ一緒に居たから連んでいただけで、それ以上の想いはないっていうかさ」
歳を重ねるにつれて、人間関係は変化していく。
あの頃は仲が良かったが、今では完全に関係が途絶えてしまった人も居るし。
逆にあの頃は仲がすこぶる悪かったが、今では仲良しになるパターンも出てくる。
誰かを一途に想うことは、大変素晴らしいことかもしれないが……。
それと同じくらい、サユちゃんのようにそのときそのときに応じて動くことも大事かもしれない。
「で、真優はどうなの? 素敵な恋——」
サユちゃんの瞳孔が大きく広がる。
饒舌に話していた口も止まり、言葉が突然途切れてしまう。
彼女の視線は後方にある。
幽霊を見たかのように静まり返る従姉は一体何を目撃したのか。
「……二人は何の話をしてるんですか? あたしも仲間に入れてください」
宿敵。恋敵。ラスボス。
どんな表現が一番正しいのかは分からない。
だが、私が越えなければならない相手——本懐結愛が目の前に現れた。
線が異様に細く、色白な彼女の身体はタオル一枚で上から下まで隠れていた。
「…………あたしが一緒だとダメですか?」
私は彼女——本懐結愛に嫌われているのではないか。そう思っていただけに、彼女から喋りかけられてしまい、少々戸惑ってしまった。
それを察したのか、サユちゃんが笑みを浮かべて。
「恋の話だよ、恋の話。結愛ちゃんも入る?」
こういうとき、サユちゃんの性格が羨ましいと思ってしまう。
誰彼構わず仲良くなれるその明るい性格には。
勿論、引き際を見失い、大変失礼な態度を取ることも多いけど。
初対面と相手にも物怖じせずに接する部分は見習うべきかもしれない。
まぁ、ダメな部分が圧倒的に多い人なんだけどね。
◇◆◇◆◇◆
髪と身体を入念に洗った後、私たちは湯船へと浸かった。
身体に染み渡る温度に堪らず、「はぁ〜」と声が出てしまう。
他の二人も日頃の疲れを癒しているらしく、幸せな表情を浮かべていた。
ある程度、室内の温泉で身体を温めた後、私たちは露天風呂へと向かった。
夏場と言えども、肌が外の空気に触れると寒かった。
それよりも、さっきから結愛さんからジィーと見られている気がするのだが。
「どうかした? 結愛さん」
「真優ちゃんもサユさんも……あたしと全然違うなと思って」
肩を落としながら、結愛さんは自らの胸元に手を当てる。
桃色の突起部分を隠した状態で、色白な乳房を握りしめる。
もしかして、彼女は自分の身体にコンプレックスを抱えているだろうか。
「ガッハハハハ、結愛ちゃん!! 女性の価値はおっぱいでは決まらないぜ」
「サユちゃん、何を言っているのさ!!」
私の口からは絶対に言えないことを、サユちゃんはさらっと言いのける。
「いいんだよ。真優ちゃん。事実だから……うん」
本人が悩むほど小さいわけではないと思うのだが……。
コンプレックスを抱え方は、人それぞれ違うのだろう。
ニュースとかでも、可愛い女の子が整形してもっと可愛くなろうと努力しているし。
整形することを、努力と呼ぶか否かは白熱した議論が繰り広げられそうだが。
「はふぅ〜。やっぱり温泉は露天風呂に限るよ、うんうん。これだこれ」
サユちゃんは温泉が流れてくる場所を占領していた。
滝という表現は些か誇張かもしれないが、お湯が上から流れてくるのだ。
ガキ大将のように陣取り、首筋や肩などの部位をお湯で打ち付けている。
私たち以外の客が居ないから、まだ許せるものの……。
他の客が居れば、顰蹙ものだろう。
「…………勇太にもっとカワイイと言われるために頑張らなきゃ」
結愛さんは結愛さんでブツブツと何かを呟きながら、自らの胸を揉みしだいてる。
原因は、サユちゃんが「胸を大きくする方法は揉むこと!」と教えたからだ。
それから、結愛さんは洗脳されたかのように、胸を揉みしだている。
彼氏のために頑張る姿は健気というか、恋は盲目と言うべきか……。
「今更だけどさ、結愛ちゃん。胸がなければお尻で戦えばいいんじゃないの?」
サユちゃんの一言に、結愛さんの揉みしだく手が止まる。
最愛の彼氏のために少しでも可愛くなろうと努力する彼女は虚な瞳で。
「あたし……別にそれほどお尻も強くない」
「それなら脇があるじゃん。脇が!!」
「脇……?」
「そうだよ、脇だ!! 結愛ちゃん、キミの武器は脇だ!! 脇!!」
サユちゃんは声高々に言い放ち、結愛さんの元へと向かう。
茫然と眺めるだけの結愛さんの表情が「助けて」と物語る頃には、もう遅い。
一番この中で歳上のくせに一番子供っぽいお姉さんは、結愛さんの腕を掴み、頭上へと高く持ち上げたのだ。「ひゃああ」と可愛らしい声が漏れたのも束の間——。
「うん、結愛ちゃん。いいよ、いいよ。ツルツルの脇、とってもいい!」
研究者のように真剣な眼差しで結愛ちゃんの脇を眺めるバカな従姉。
舐め回すように凝視する彼女の瞳に映るのは——。
通常時では衣服に隠れて決してみることができない清らかな肌。
その部分は、まるでシルクのように柔らかそうで、光が当たるとほんのりとした艶が見える。脇の下にある小さな陰影は微細な筋肉の動きに合わせて変化していた。
今まで自分自身でも、脇を深く観察したことはなかったものの……。
こうして見ると、意外とエロい部位だなと思ってしまう。
「様々な男性を見てきたけど、脇や太ももを好きな男性は結構多いぞ!!」
興奮のあまり、サユちゃんは鼻息を荒らしている。
いつの間にか、脇だけではなく、太ももにも関心がいったようだ。
水中でサユちゃんの手が結愛さんの太ももやその付け根を触れていた。
上気した表情を残す結愛さんは唇をキュッと閉じ、その攻撃を耐えている。
と言えども、触れられることにあまり慣れていないのか、彼女の小さな口からは「ん」とか「あ……」と蕩け落ちそうな声が漏れている。ショートケーキを食べたときに出てくる幸せな声ではない。身体の弱い部位を攻められて、思わず出てきた女としての声が。
「女性には武器が一つだけあればいいのさ」
サユちゃんは得意気に続ける。
「実際にSNSを見てみなよ。一つの部位だけで戦う目立ちたがり屋も多いものだぜ」
承認欲求の塊。
多くの方々はその言葉で済ませるかもしれない。
だが、彼等の戦略は理に適っている。
「自分の得意分野だけで戦っていいんだよ。だから、結愛ちゃんは脇で戦うのだ!」
全く異なる時と場所で聞けば、イイ話になったかもしれない。
ただ、話の内容があまりにも酷すぎる。
これがアイドルならば、「歌が下手でも踊りが上手ければ活躍できるよ」と背中を押されたエピソードにできるのだが……。「胸がないなら脇や太ももで戦え!」とセクハラ紛いな発言をされた程度にしか聞こえないのだから……。
と言えども、少しでも彼氏を喜ばせたい可愛い彼女さんは呟く。
「…………あたしの武器は脇と太もも。これで巨乳美人を全員倒す」
出発五秒前の特攻隊員のような凛々しい顔を作り、結愛さんは一人でに誓うのであった。
◇◆◇◆◇◆
「……はぁ〜。これが夢にも見た恋バナかぁ〜。楽しかったなぁ〜」
MCはサユちゃん。盛り上げ役の私。
で、ゲストの結愛さんという形で恋バナは盛り上がった。
基本的には、結愛さんの恋バナに対して、私たちが深掘りする形であった。
結愛さんと彼——時縄勇太がどのようにして恋人同士になったのかと。
それから、彼のどこが一番魅力的な部分であるのかを。
まだまだこれから盛り上がりそうな気配だった恋バナだったのだが……。
「ごめん、もう無理!! 熱すぎる!!」
と、MCが言い放ち、露天風呂を去り、終了に至るのであった。
ということで、残された私と結愛さん。
サユちゃんが身勝手な人間だというのは、昔から知っていたが……。
今回のは流石に大変困る状況だ。
だって、めちゃくちゃ空気が悪いのだから。
一見、仲良し三人組に見えるが、一人が居なくなったら完全に会話が途絶えてしまうグループが存在する。それと全く一緒の状況だ。友達の友達は、友達じゃないっていうね。
「人間はさ、どうして生きてるんだろうね?」
沈黙を破ったのは、結愛さんだった。
もしかして、この空気の悪さに気遣ってくれたのかもしれない。
しかし、あまりにもこの状況でそぐわない会話の切り出しかたである。
ただ、ここはもう乗るしかない。折角、話を振ってくれたのだから。
「生きることが楽しいからじゃないかな。私は食べることが大好きで、毎日楽しいよ。美味しいものを食べるだけで、この世界が幸せだぁ〜と思えてくるし」
人間がどうして生きているのか。そんなの答えなんて存在しない。
だから、各々がその答えを自分自身で設定して生きていけばいいと思う。
「そっか。真優ちゃんは幸せ者だね。生きることが楽しいだなんて」
結愛さんの発言には、明らかなトゲがあった。
生きることが楽しいと思えるバカでよかったねと言いたげな。
「時々思うんだよね、あたしの人生は今がピークだなって」
栗色髪から滴が流れ落ち、彼女の頬を掠め、それは湯船へと入っていく。
結愛さんは痩せ型の女の子だから、横顔は彫りが深く、一層美しく見える。
正面の愛くるしさ溢れる可愛さとは別に、彫刻のような美もあるとは……。
私が呑気に彼女の可愛さを再認識していると、結愛さんは喉を震わせて。
「もしも、このピークを過ぎたら、あたしはどうしたらいいんだろうって」
彼女の不安気な声色を聞き、私は彼女が本気で言っていると今更気付いた。
結愛さんは——本懐結愛は本気で悩んでいるのだ。本気で困っているのだ。
人生のピークを過ぎた人間は、どうすればいいのかと。
「大丈夫だよ。昨日よりも今日、今日よりも明日。必ず幸せになれるからさ」
何処ぞの最愛の彼女持ちの彼氏さんならば、こんな発言をするのではないか。
彼と出会ってから、私も似たような考えを持ってしまったのかもしれない。
本当なら、私じゃなくて、これを彼女に伝えるべきなのはキミの役目なのにね。
「真優ちゃんも勇太も幸せ者だね」
ふふっと口元を歪めて、横顔が美しい少女は微笑む。
「二人は強い人間だよ。明日に希望を持って生きていけるんだから」
自分は違うと断言するように、結愛さんは淡々と語る。
「でも、あたしはその明日に希望を持って生きていけないんだよ」
「……どうして? そんな悲しいことを言うの?」
「だって、あたしの人生って……お先真っ暗じゃない?」
自分の人生を悟ったように。
自分の人生を諦めたように。
自分と同じ年齢の少女は「ふぅ」と吐息を出し、唇をキュッと結んだままに。
「真優ちゃんや勇太はさ、来年の春から大学生になるんでしょ?」
今にも涙が溢れ出てもおかしくない表情を浮かべる本懐結愛
「でも、あたしはずっとあの病院の中で過ごすんだよ。死ぬまで一生ね」
そんなことないと否定したいものの、私はそれを口に出せなかった。
実際、彼女がこんな人生を歩んでいるのは、病気が原因だからだ。
私は彼女がどんな病を抱え、どれほどまでに苦しんでいるのかを知らない。
また、それを理解し、共感することはできないと思う。
何不自由ない生活を歩む私には。
だから、肯定も否定もできず、沈黙が続いた。
「昨日よりも今日、今日よりも明日が不幸になるとしたら——」
右肩上がりの人生を歩める者は、この世の中で一部だけだ。
多くの人間が歳を重ねるにつれ、幸せのピークを超えてしまう。
もしも、その幸せのピークを過ぎてしまったら——。
「あたしたちはそれでも生きていかなければならないのかな? 明日を」
結愛さんの問いは、いつの日か、多くの人間が抱える悩みなのかもしれない。
ただ、それがあまりにも早過ぎただけで。
私には、まだ未来がある。私にはまだ今日よりも明日のほうが楽しいと思える。
だけど、いつの日か、今日よりも昨日、昨日よりも一昨日が楽しかった。
そう過去を思い返すことが増えてくるのだろう。
もしもそのときが来れば、私は彼女の気持ちを少しは理解できるのだろう。
「ごめんね、真優ちゃん。こんな難しい質問をして。気持ち悪かったよね」
本懐結愛は謝罪の言葉を述べると、湯船から立ち上がった。
水面が激しい音を立て、私の顔にお湯が当たった。
彼女は、逃げるように私の前から立ち去っていく。
その背中を追いかけていると、彼女が突然立ち止まった。
「でもね、安心して。まだあたしにも希望があるから」
背中を向けたままなので、彼女の顔色を見ることはできない。
ただ、彼女の身体がブルブルと震え、声色に光が差していた。
「勇太だけは、あたしをあの場所から救ってくれるって言ってくれてるんだよ」
それは、純粋無垢な小さな子供がサンタクロースを信じるように。
「勇太だけは、必ずあたしをあの薄暗い闇の中から助けてくれるんだよ」
彼氏を信じていると言えば、それは聞こえがいいかもしれない。
ただ、実態はもっと違うように思えてしまう。
彼女——本懐結愛は時縄勇太に縋っているのではないかと。
生きる意味を見失った人間が、変な宗教にハマって洗脳されるように。
「だからさ、真優ちゃん。あたしと勇太の邪魔だけは絶対にしないでね」
明るいような暗いような曖昧な声色で、最愛の彼氏を持つ少女は言った。
「真優ちゃんが、あたしたち二人の間に付けいる隙間なんて、全くないんだから」
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