創造的な研究
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「ユウどの。こちらが創造魔法の研究室になります」
キューケンさんは、俺たちをホールから研究室へといざなった。
研究室に入ってすぐには、書物机と無数の巻物を収められたひし形の棚がある。
部屋の奥には実験用の空間なのか、砂場とテーブルが鉄の柵で囲まれていた。
「こういった研究室は他にも?」
「はい。大抵は遊び場になってしまっていますが……」
「あの様子では研究してるか遊んでるかの区別が付きそうにないね」
「全くウルバン様のおっしゃるとおりで……」
「ところで、研究所で生物を創造したりとかは?」
「と、とんでもない! 生物の創造は研究すら禁じています!!」
「そうでしたか。生物の創造が禁じられた原因は?」
「大変な危険がともなうからです。創造魔法で作り出される生物は、危険なものが多く存在しますので」
「なるほど……」
創造研究所でさえ、生物の創造はしてないらしい。
ここに俺たちが呼び出された原因は無いのかな?
まぁ、ホールの学者がアレだしなぁ。
勝手にやってる可能性も考えられるが……。
本当のところはわからないな。
さて……どうしたもんかな。
創造魔法が弱体化している原因を研究者たちが
しかしホールでの研究者たちの様子をみると、それは期待できそうにない。
「キューケンさん。創造魔法の弱体化の原因はどの程度わかってます?」
「原因がわかって無くても仮説くらいは……」
「それが、まったく見当もつかぬのです。」
所長であるキューケンさんでもダメか。
何かしらの解決の糸口を期待していたのだが……。
いや、ママは経験則から法則を探すって言ってたな。
聞き方をかえてみるか。
「創造魔法に何がおきたのか、そこから始めましょう」
「……弱体化ですな。創造魔法が作り出す量、質が落ちてきました」
「では弱体化とは具体的にどのようにおきました? 時系列で教えてください」
「まずこれに気づいたのは私です。創造魔法の記録を始めてから次第に効果が弱まり始めたことに気づいたのです」
弱体化のなり行きを一番よく知っているのはキューケンさんということか。
「記録をはじめてから気付いた……ってことは」
「それ以前から始まっていた可能性は十分にあるね」
ママの指摘にキューケンさんが
「創造魔法は上古の時代、古代人の記録を信じれば、今よりもずっと強力だったようです。記録が本当だとすると……」
「創造魔法はゆっくりと劣化し続けていた」
「そして、いつかは消えて無くなってしまうかも知れない。そういうことだね」
「左様にございます」
「創造魔法がゆっくり劣化し続けていた。これは仮説その1だな」
「そうだね。そしてこの仮説は、僕らの存在でひっくり返された」
「と、いいますと……?」
首をひねるキューケンさんをよそに、俺はマウマウのほうに振り返った。
「マウマウ。クリエイト・ウォーターを使ってみてくれ」
「あ、そっちの砂場でね。水浸しになるかもだから」
「わかったまう!」
彼女が小さな手を天井に向けて創造魔法を使う。
すると、部屋の天井いっぱいに水球が広がってしまった。
「あ、やりすぎたまう?」
「部屋の中でやるのは失敗したかなー?」
「だね……」
水はぺしゃんと弾けて砂場に吸い込まれていった。
吸い込み切れなかった水が床を
「こ、これは……本当に同じ創造魔法なのか?」
キューケンさんはガウンを波打たせ、わなわなと震えている。
……そんなに差があるのか?
「キューケンさんもクリエイトウォーターを使ってみてください」
「は、はい……」
キューケンさんはしわがれた手を突き出して創造魔法を使った。
しかし、現れた水球はマウマウのそれと比べて異様に小さい。
人の頭くらいの大きさで、バケツ一杯を満たすこともできそうにない。
「これで……よろしいか?」
「はい、十分です」
キューケンさんの作った水球は色が濃くなった砂地に落ち、消えた。
「これで仮説1は成り立たなくなったな」
「うん。創造魔法それ自体は劣化していない可能性が高い」
「ということは……まさか!」
「劣化しているのは使い手――この世界の人々、あるいは世界か」
「世界と人々の両方っていう可能性もあり得るね」
「そ、そんな……!」
「キューケンさん、あわてるのはまだ早いです」
「ユウのいうとおり、これは仮説2ですからね。まだ決まったわけでは……」
「では他にどのような原因が?」
うーん……原因っていわれてもな。
そもそも俺たちが作ったもんでもないし、彼らが作ったものでもないからな。
そうか、古代人か!
「――弱体化の原因は、古代人側にある可能性もありますね」
「古代人に……?」
「古代人が創造魔法を作ったなら、創造魔法は彼らが使いやすいように調整されていたはずです。今の時代だけではなく、もっと昔の状況も知らないと」
「うん。ユウの判断は正しいと思う。古代人についてもっと知るべきだね」
「なるほど……でしたらこのキューケン、心当たりがありますぞ!」
「心当たり?」
「左様。古代人の遺跡で創造魔法と一緒に発掘された魔導書があります。どうやらそれには、古の世界の記録が残っているようでしてな……」
「マ……ウルバン、これって大当たりなんじゃ?」
「だね。きっとその魔導書を調べたら、解決の糸口が見つかるかも!」
俺たちがこの世界に呼び出された原因については手がかりすらない。
しかし、弱体化の原因の糸口はつかめそうだ。
「ではさっそく――」
<ズズン……ッ!!>
キューケンさんが俺たちを案内しようとしたその時だった。
地鳴りがして、部屋が激しく震えたのだ。
黄ばんだ壁の
なんだか天井まで落ちそうだ。
「な、何がおきた?」
「な、なんだ?」
「まうー!」
地震かと思ったが、それにしては揺れが短すぎる。
嫌な予感がする。これはきっと――
突然、部屋の木戸が勢いよく開いた。
扉を開けたのは学者だ。
その顔面は蒼白でロウソクみたいになっていた。
「キューケン様、襲撃です!」
「襲撃!? 一体何者だ!!」
「わかりません。旗印もなく、名乗りも上げていません」
「いったい何が……」
「襲撃者は異常に強力な魔法を使っており、護衛も太刀打ちできません脱出を!」
俺は学者のその言葉にピンときた。
こんなことをする連中に心当たりがあったからだ。
次の瞬間、俺とママの声が重なった。
「「まさか、エネルケイア!?」」
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