創造研究所(2)
学者の後をついていった俺たちは、ホールに迎えられた。
石造りの半円状のホールには階段状に机が並んでいる。
ここは会議場、あるいは討論場のような場所なのだろうか?
机にはまばらに学者が座っていた。
どの瞳も興味深そうに俺たちを見つめていて、何とも居心地が悪い。
すると、案内していた学者が俺たちのほうへ振り返った。
ねじれて
「申し遅れました。私は創造研究所の所長のキューケンと申します」
「俺はユウ。魔術師です」
「彼の補佐をしているウルバンです。」
「獣人が喋ったぞ」「なまりがない。発声器官はどうなってるのだ」
「ザワザワ……」「ガヤガヤ……」
獣人であるママがしゃべるのは、やはり物珍しいのだろう。
学者たちは好奇心の宿った瞳でママを見ると隣りあう学者と討論しだした。
「静粛に!! 客人に失礼であろう!!」
キューケンがしわがれた声でぴしゃりと打つ。
すると学者たちは、声を取り上げられたかのように押し黙った。
「失礼しました。ここにいる者たちは、こういう性分でして」
「いえ、お気になさらず。自分も学者なので気持はわかります」
「ほう、ご同業でしたか……」
「獣人の学者だと? 片腹痛い! 獣人の脳は人間に比べると――」
「脳の容量は3分の1。しかし大事なのは何を入れるかですね」
「なっ……!!」
「どれだけ脳が大きくても使わなければ、小さいのと同じことです」
「ぐ、ぬぬぬ……生意気な」
(え、調べたんだ?)
(トリオンさんの図書室でちょっとね)
(さすがママ……カッコイイ!)
「レイブ、客人に対して目に余る無礼!! お主は出ていけ!」
「くっ……」
(やーいやーい! 怒られてやんのー!)
(こらこら……でも困ったね)
(あ、獣人差別?)
(うん。この世界は獣人に対する偏見が強いみたいだね)
確かになぁ。
俺たちのクランには、獣人の姿を取ったメンバーが少なくない。
偏見や差別を目の当たりにした俺は、それが少し気がかりだった。
「すみませぬ。レイブには後でしっかりと罰を与えますので……」
「いえ、何もそこまでなさらなくても――」
「お願いします」
「ユウ!?」
「こういうのは、きちんとしよう。マ……ウルバンは俺達の仲間なんだ」
「あの、あまり重くないのでいいですから……」
「はい。
「さて諸君。ここにおわすは、異世界より来たれり勇者たち」
(勇者だってさ)
(むず痒くなるけど、確かにママは勇者かな)
(え? あぁ、火事の時の……)
(あの時俺は、本当にママのことをすごいと思った)
(そんなことないよ。やるべきときにやらなかったら意味がないんだ)
(……?)
おっといけない。
キューケンさんが何を言ってるか集中しないと。
「――そして彼らは創造魔法の異常に対し、協力を申し出たのだ」
「ユウ殿は自ら炎を生み出せる本物の魔術師だ。彼らの力を借りるべきだろう」
「ざわざわ……」「魔術師……」
「キューケン。お主は我々の知り得た秘密を全て彼らにくれてやるつもりか!」
「そうだ、何を勝手なことを!」
「では、逆に聞こう。お主らが創造魔法の何を解き明かせた!」
「ぐ、それは……」
「クリエイトフードは夏にバナナが出る!」
「そうだ、春にはイチゴだ!」
「冬にはミカンも!」
「だまらっしゃい!!」
「あの、研究らしい研究って……あんまり進んでない?」
「どうやらそうみたいだね。これは大変そうだ」
「恥ずかしながら……使うことはできても、それ以上はさっぱりなのです」
うーん……何が起きているのかわからない、か。
俺だったらどうするか……。
スマホの電源が繋がらなかったら充電を確認する。
それでも動かなかったら故障を疑う。
画面が割れてないか? SDカードが抜けてないか?
つまり、モノが動くには何らかの条件が複合しているはず。
その法則性を見つけていくのがよさそうだ。
「えーっと……創造魔法
「何をバカなことを!」「ハハッ! しょせんは素人よ」
「魔術師に学問はわかるまい! ゲラゲラ!」
イラッと来るなぁ……。
あれ? キューケンさんが、顔を真っ青にして頭抱えてる。
「その、申し訳ありません! この者たちは本当に!」
彼は祈るような顔で俺にすがりついてきた。
何であそこまで……あ。
トリオンさんの書状から、俺たちの魔法の威力知ってる?
それでか。
さすがにここで魔法はぶっ放さないよ……。
「ま、まぁ。続けていいです?」
「はいそれはもう!」
彼は学者たちに向き直ると、真っ赤になって叫んだ。
「お主ら、次勝手なことを言い出したら、その口を
キューケンさん、青くなったり赤くなったり忙しいなぁ。
さて――。
「先ほどの指摘は、季節によってクリエイトフードで出てくる食料の種類が変わるというものでしたね?」
当の学者は小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
殴りてぇ……。
「季節に応じた変化、または場所に応じた変化が存在するなら、こういった経験則から、創造魔法が必要としている要素を割り出せるはずです」
「そうだね。ユウのいうとおりだ。経験則から魔法の法則性を見つけ出して、そこから本質にたどっていくべきだ」
俺とママの言葉を聞いた学者たちはキョトンとしている。
見るからに「何言ってるのこいつら」「日本語でOK」って感じだ。
こいつら……本当に学者か?
「キューケンさん、学者は貴族の子弟や縁故で送り込まれた者が多いですか?」
ママの質問にキューケンさんはちじこまってしまった。
「恥ずかしながら……」
貴族のボンボンかー。
ま、そりゃそうなるわな。
創造魔法は一般人に触らせるわけにはいかない。
そうなると、なによりも身分優先で人材が来る。
実力関係なしで研究しているわけだ。
「こうなりゃ仕方がない。ゼロから始めよう」
「それしか無さそうだね……」
「キューケンさん、俺たちが創造魔法の研究をできる場所がありますか?」
「えぇ、ありますとも! ぜひお願いします!!」
キューケンさんは口元に笑みを浮かべる。
その様子は待ってましたと言わんばかりだ。
苦労してんなぁ……。
★★★
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一方その頃。
研究所の外では突然の訪問者に対する
護衛の兵士たちは、見慣れぬ客人について推測を巡らせていた。
「あの連中は何なんだ?」
「なんでも創造魔法の研究を手伝いにきたとか」
「どう見てもよそ者なのにか? 誰がそんな事を」
「所長のキューケンだよ。やつがそう言ってたのを耳に挟んだのよ」
「あんまりに成果が出てないからな。やっこさんも……グッ」
「おい、どうした? 何だこの
倒れた護衛の足元を黒い霧が包みこんでいた。
霧が護衛の体に触れると、糸が切れた人形のように護衛は倒れていく。
施設の外に立っているものがいなくなると、霧はすっと引いた。
黒い霧が向かう先には、奇妙な装束に身を包んだ者たちがいた。
種族も年齢も、何もかもがバラバラな集団。
しかし、一点だけ共通するものがあった。
彼らが付けている
そこには装飾されたローマ字でエネルケイアと書かれていた。
「よし、行け」
影色のローブを着た男が号令する。
そして音もなく施設の中に入っていった。
「……ふむ、あれは使えそうだ」
ローブを着た男は笑みを浮かべると「荷馬車」に向かった。
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