動き始めた悪夢
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地下墓地のような雰囲気が漂う石造りの壁に囲まれた部屋の中で、浮世離れした衣装を着た人々が雑多な品物を運び込んで手当たり次第に積み上げていた。
部屋に積み上げられていく品物はまるでとりとめがない。
ネックレスや冠といった装飾品から、ベッドやタンス、何かの動物の剥製といった家具まである。
これらの物に共通しているのは、ただ珍奇であるということだけだ。
地下墓地で開かれているこのフリーマーケットの中心には、ある男がいた。
彼の名はエイドス。エネルケイアのリーダーで、この
エイドスは金で縁取られた黒色の甲冑を身につけているが、板金の上からでもその胸板の盛り上がりがわかる。立ち上がった彼の様相は、黒い山脈のようだ。
バイザーの上がった兜には、彫りの深い彼の顔がのぞいており、意志の強さと共に、何か
「エイドスさん。見つかったのはこれが全部です」
そう話しかけたのは、エネルケイアのメンバーだ。
彼はエイドスを見上げ、いくつかの薄汚れた紙片を手渡した。
「おつかれ。まぁこんなものだろうな」
紙片を受け取ったエイドスの表情は不満げだ。
どうやら、これは彼の欲望を満足させるほどのモノではなかったらしい。
「すみません……あんまり持ってるやつがいなくって」
「逆さにして振ってみたか?」
「いや、そこまでは……さすがにプレイヤーを殺すわけにもいきませんし」
「ここが異世界だぞ? プレイヤーを殺しても『クロス・ワールド』であったようなペナルティはつかないはずだ。もっと派手にやっていいぞ」
「は、はぁ……」
「ここには運営はいないんだ。殺して奪っても何の問題もない」
メンバーはエイドスの言葉を耳にすると、その表情が固くなった。
彼らは異世界で活動する他のプレイヤーから創造魔法の書かれたスクロールを奪い取ってきて、それをエイドスに見せていたところだった。
彼らは創造魔法を持っているプレイヤーを見つけては脅かして奪った。
勝てなさそうな相手には異世界で奪った珍品と交換するなどして、比較的穏便な方法(彼ら基準で)で目的のものを手に入れていた。
だが、リーダーであるエイドスは違った。
お行儀よく、面倒なことをする必要はない、と。
そして、彼らに向かってこう言い切った。
――『奪うために殺せ』と。
クロス・ワールドでは「プレイヤーキリング」――
通称「PK」と呼ばれる行為に、厳しいペナルティがある。
プレイヤーキリングとは、戦いに同意していないプレイヤーを一方的に攻撃することだ。戦いに同意して戦う場合は「PvP」として、明確に区別されている。
プレイヤーキリングはクロス・ワールドにおいてプレイスタイルの一つとして許容されている。しかし、死亡時に貴重なアイテムを落としてしまうとか、あるいは経験値が割合で減るとか、そういった「罰」がある。
さらに特定のキャラクターを執拗に付け狙ってPKをし続けると、ハラスメント、つまり嫌がらせ行為と見なされ、アカウントが停止、あるいは削除されてしまう。
しかし、こうした罰は「クロス・ワールド」の中に限定されたものだ。
この異世界では、こうした罰はない。
罰がないなら、デメリットがないのでやっても良い。
エイドスはそう言っているのだ。
「エイドスさん、それはいくら何でもヤバいっすよ!」
「ほ、ほら! 他のプレイヤーを皆殺しにしたら、俺たちだけで集めないといけなくなっちまいますよ!」
エネルケイアのメンバーも、何か危ういものを感じたのだろう。
必死にエイドスの考えを押し止めようとした。
エイドスと違って、彼らは直に世界を見て回っている。
なので薄々、この世界が自分たちの思っているようなものではないということに気づき始めているのかもしれない。
「それもそうだな。他に何か面白いものはないか?」
「…………」
「それじゃぁ――」
「あ、あります、あります!」
「なんだ、もったいぶらずに言ってみろ」
「なんでも『創造魔法』を研究しているところがあるらしいんですよ。町や村の人からたまにその場所の話を聞いたんです」
「ほう、場所はわかるのか?」
「は、はい。この世界、まともな地図がないんで、何となくですけど……」
「わかるならいい。ちょっと見物しに行こうじゃないか。」
「だ、大丈夫ですか?」
「ビクビクするな。俺たちは『後ろ盾』を得たんだ。誰も止められないさ――」
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