最初につながる


「まぁ、こんなものかの」


「久しぶりに床が見えるようになった……」


 マイさんと家にあったゴミを分別して袋に入れたら、ようやく人が行き交うことが出来るようになった。


 いままでは俺が通れれば、それで良いっていう考えだったからな……。


 俺の部屋は若干、人間味を取り戻した。

 掃除には数時間かかったが、それだけの価値は合ったと思う。


「あとはゴミを出すだけじゃな!」

「お手数掛けます……」


「まあなんの、近頃はみんな似たような感じじゃからのー。だとしても、ここまでヒドイのはなかなか見んが」


「そうなんですか」


「NRのリモートワークで、家で仕事がでるようになったから、世間様をあまり気にする必要もなくなったからのう」


「あー……」


<ピンポーン>


「おや、来たようじゃな」

「来た? 何が?」


「そこにあるデカブツと、ゴミの回収を頼んでおいたんじゃ」


「掃除の時になんか話してたと思ったら、そんなことを……」


 ドアを開くと青色の作業服を着た人が、せっせとゴミを運び出していく。

 俺がボーッと見てると、あっという間に全てのゴミを持っていかれてしまった。


(手慣れてるなぁ。でも、ゴミはともかく宝石はどうするんだろ?)


 あのバカでかい宝石は、どう頑張っても人間の力で持ち運ぶのは無理そうだ。

 一体どうするのかと思っていたら、今度はロボットが入ってきた。


 部屋に入ってきたロボットは、ゴツゴツ角ばった厳ついやつで、黒と黄色のツートンで塗装されている。これは建設作業に使う、パワフルなやつだな。


 恐らく、さっきの作業員がNRで動かしているんだろう。というのも、入ってきたロボットの数は、ゴミを運び出した人たちの数ときっかり同じ3体だったからだ。


 ロボットは三方から宝石を取り囲むと、特に何の問題もなく持ち上げて行った。

 どうやら異世界の創造魔法に、この世界の科学が勝利したようだ。


「科学の勝利ですね」


「人に尻拭いさせといて、何ぬかしとるんじゃ、ぬ……」


 マイさんのスマホに着信が来たようだ。

 彼女はまた、誰かと話しだした。こんどは何だろう……。

 

「っと、手続きが終わったようじゃな。預金を見てみろ」


「え、もう終わったんですか?」


「調査室は独立独歩が信条じゃ。他の役所と違って、やることはサクサクやるぞ」

「はぁ」


「お主もそっちで振込を確認してくれ」


 俺はマイさんに言われるがままに、自分のネット銀行の口座を確認する。


 そうすると、スマホの画面には「神崎かんざき ゆう」という、俺の名前が書かれた貯金通帳が表示される。


 視線を下に動かし、口座の残高を示す数字を見た俺の手が、わなわなと震える。


「ゲームで稼げたらなぁ、とは思ってたけど……」


 そこには間違いなく、残高の数字が「1000万円」とかかれていた。


 日付と時間はつい先程。

 間違いなくマイさんの指示で振り込まれた1000万円だ。


「マジで稼げちゃった。しかも半端ない金額が……」


「よかったのー」


「でもなんだろう……実際にお金が入ると、プレッシャーがパない!!!」


「なんじゃ今さら気づいたのかー? そのための金じゃ!」


「スンッ……」


 お金をもらったはいいけど、やっぱりこれって餌付けだったのね。


「何かいいように使われてる気がする……」


「そっちもこっちを良いように使えるんじゃ、お互い様じゃな!」


「まぁ、ゴミの収集とか宝石の回収は助かりましたけど」


「ん、それだけで終わりと思うてか?」


「えっ」


「お主らが遊んでいる『クロス・ワールド』とかいうネットゲームが異世界につながったと言う情報は、世界中に広がっとるんじゃぞ」


「うわ、なんか嫌な予感が……」


「中国を始めとして、ロシア、アメリカ、他にも有象無象の国々が、プレイヤーの確保に動き出したという情報が、調査室に入ってきておる」


「デスヨネー」


「NRでゲームを遊んでいる最中のお主は無防備じゃ。もっとも、目が覚めていても特殊部隊が攻めてきたら、何もできんと思うが」


「その護衛も調査室はしてくれるってことですか? なにそれすごい」


「な、すごいじゃろー! 完全武装のチームがお主を護衛するぞ」


「心から税金を収めてて良かったと思います。」


 なるほど。俺たちを守ろうとするのは、政府の都合もあるわけか。


 なんてったって、異世界だからな。

 異世界にある資源や知識を求めて、何やかんや暗躍があるに違いない。


 となると、マウマウのお父さんにこちらからアクションを掛けなくても、いつか向こうからやってきたんじゃないかなぁ……。


 まぁそれについてはもういいか。論ずる意味はない。

 ともかく身の安全は確保できたんだ。


 あとは……ゲームするだけってことだよな。


「明日もゲームするんですけど、いつも通りでいいんですか?」


「うむ。今のお主はゲームが仕事じゃ。お主のテレワークに関しては、こっちでやっておくから、お主はゲームに集中せい!」


「本当にゲームが仕事になっちゃった。望んでたことだけど、ちょっと複雑……」


「なんじゃお主。プロゲーマー目指しとったのか?」


「いえ、エンジョイ勢ですけど……」


「なんじゃ、ワナビか。なりたいだけで、特に努力してないのじゃな」

「グフッ!」


 こら!

 真実をぶつけると人は死ぬんだぞ!!


「政府の人なのに、ワナビとか、よくそう言う言葉知ってますね……」


「調査官じゃからな!」


「マイさんから、なにかアドバイスとかあります?」


「そうじゃな、まず、異世界の有力者と関係は持ったか?」


「あ、今の状況についてお教えしますね。まず――」


 俺は彼女に一部始終を説明した。

 ゲームを始めてから、トリオンさんに屋敷をもらうところまで……。

 俺の話を聞いたマイさんの反応は、どこか呆れた様子だった。


「あの、何か問題とか、説明でわからないことがありましたか?」


「いや……おおよそ最善と思える行動を取っている。そう思ったんじゃ。ワシらのアドバイスとか、ぶっちゃけ要らなくね?」


「あ、でも……トリオンさんに渡すこちらの世界の知識のアテがないんです。それについて、調査室の人たちに調査をお願いできませんか?」


「なんじゃ、アテも無いのに約束したのか?」


「ネットで調べればなんとかなるかなーって……」


「食料の問題は、命が関わる問題じゃ。それを耳学問だけでなんとかしようと? 恐ろしいこと考えるなお主」


「……すみません」


「まぁ説教しても仕方がない。それはまさに調査室の仕事じゃ。専門家にあたってみよう。もちろん、お主らの協力も必要じゃが」


「協力ですか?」


「異世界の気候や土の成分がこちらと同じとは限らんからな。特に植物が必要とする栄養素が違えば、農薬や肥料のやり方も違うじゃろう」


「あっ、たしかに……」


 危ねぇぇぇぇぇぇ!!!

 下手したら、逆に食料危機起こす所だった!!!


「ま、調査はわしら調査室に任せると良い」

「ウス! お世話になります!!」


「あとは……」


 マイさんは俺のNRデバイスを手に取ると、ドライバーを取り出して、何かの機械を取り付け始めた。なになに?


「え、なんですそれ?」


「これはモニタリング装置じゃ。ポップコーン片手に異世界でのお主の活躍を見ておこうかと思ってな!!」


「……本当の目的は?」


「違法行為の監視と、機密情報の漏洩ろうえいが確認された時の強制遮断のため」


「あっはい」


 不安だ……。


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