ドンドンドン!!


「これは……ヒジョーにマズイことになったな」


 部屋に現れた巨大ダイヤ(?)を前に、俺は呆然としていた。

 こんなのどうすればいいんだろう。


 これだけ巨大だと、部屋から運び出すのも困難だ。

 俺が寝ている時に地震でも起きて転がってきたら、確実に押しつぶされる。


 いくら貴重な宝石でも、こんなにデカいとな……。

 売るってレベルじゃねーぞ!!!


「……ひとまず隠しておくしか無いな。どうにかする方法は、明日考えよう」


 今日はもう、このままにしておくしか無いな。


 ネット上をいくら探しまわったとしても、人以上の大きさの水晶を処分する方法なんて載っているはずもない。


 ……宝石のあまりの重さで、ちょっと床が沈み込んでいる。

 床が抜けないといいなぁ。


「しかし危なかった……先に『クリエイト・ウェポン』を使わなくてよかったな。もし戦車でも出てきたら、俺は部屋ごと押しつぶされてたぞ」


 その可能性が「まったく無い」と言えないのが怖い。


 クリエイト・ウェポンで大砲や戦車が出てきたら、何も言い訳できない。

 その場で逮捕されて、刑務所までドナドナされるだろう。

 

 しかし何でこんな事に……。


 少し考えたところで、俺はハッとなった。


「もしかすると、創造魔法の力って俺たちに依存してるんじゃ?」


 俺がクリエイト・ジェムを唱えた時の事を思い出す。

 あの時の俺は、皆が持つ「光」に対して強い渇きを感じていた。


 つまり、「創造魔法には俺の欲望やイメージが関係する」ということだ。


 だからこそ、これだけ大きい宝石がオレの部屋にポンッと出てきた。

 うん、なんかそれっぽい。


 まず創造魔法という名前からして、創造魔法のメカニズムに俺たちが持つイメージが何か関係しているのは間違いなさそうだ。


「――想像して創造している。そんなところか?」


 イメージから、創造につながる。

 そしてその強弱や品質には、その詠唱者が持つ欲望が関係する。


 だが、そうなるとわからないのが――


「仮に欲望が魔法の強弱や品質に関係しているとすると、異世界の方で創造魔法が弱体化していった原因の説明ができないな」


 ノトスの町では凄惨な火事が起きていた。

 なら、消火に当たっていた人には、相応に水に対する渇望が生まれたはずだ。


 その状態で使えば創造魔法は相応の威力になる。

 異世界の人間だって、経験則でそれに気づくはずだ。


 となると……弱体化の原因は、欲望の強さに無い?


 弱体化の原因は、別の何かにあるはずだ。

 そしてそれは……使い切ってしまう性質のものなんだろう。


 そしておそらく、それは世界に存在するものではない……とおもう。


 その世界に存在する何か、例えば空気中に存在する魔力的なものだとすると、俺たちが使う創造魔法も弱体化してないといけないからだ。


「うーん、わからん」


 俺は今までの経験したことや状況から、創造魔法の性質を推測してみた。

 しかし、答えが出るどころか謎がより深まっただけだ。


「いや……わかったことが、ひとつだけある」


 そう、それは……創造魔法は一体何を「消費」しているのか?

 ということだ。


 創造魔法が弱体化した原因を探るなら、ここから当たるべきだろう。

 まずは向こうの研究者と接触して、それからだな……。


 一度おかに上がった俺は、再び深い思考の海に浸ろうとする。

 すると――


<プルルルルルルル!!>


「おわっ?!」


 突然スマホが鳴り出し、足をつけた思考の海から俺は追い出された。


 深めていった思考をブチッとシャットダウンするのは好きじゃない。

 無論、現実で起きた問題に対応するのは必要だ。

 でもそれをすると、脳が一瞬チカチカして、とても不快な気持ちになる。

 誰だって、ゲームをムービー途中で切るのって、なんだかイヤじゃん?


「どれ、通話は……ママからか」


 スマホの画面にはママの名前と狼のアイコンが浮いている。

 俺に報告したいことが何かあるんだろう。


 電話機のアイコンをタッチして、通話をつなげる。

 スマホの向こうからは、すこし疲れを感じるママの声が聞こえてきた。


『こんばんは。今すぐユウに伝えなきゃいけないことができてね……』


「お、こんばん。伝えなきゃいけないことって、どうしたんだ?」


『それが……どうやら政府の人たちは、僕らみたいな連中をちょうどお探し中だったみたいでね。ぜひ協力してもらいたいと言ってるんだ』


「うん、うん……はぁ!?」


『まあ慌てないで、一つずつ説明するよ』


「あぁ、分かった……えーっと、お探し中ってどういうこと? 政府の人たちは、俺たちがコンタクトする前に、もう異世界の存在に気づいていたって事か」


『そうだね。それで異世界とコンタクトを取る方法を探してたみたい。本人たちでやらなかったのは、どうも今の「クロス・ワールド」から、異世界に行くことは出来なくっているらしいんだ』


「そういえば、バグを修正したとか何とか公式サイトに書いてたもんな……でも、それにしたって早くねぇ?」


『いやー、僕もあまりの対応の速さにびっくりしちゃった』


「いや、いくらなんでも早すぎんだろ! 政府ってもっとこう……のらりくらりと動くもんじゃないの!? ニュースとかそうじゃん!」


『実際にはもっと早く動いてて、ニュースのほうが遅かったのかもねー』


「はぁ……えーっとマウマウのパパさんが動いたってことでいいのか?」


『そうなるね。「調査室」の人たちは、異世界とどうやってコンタクトをとるか、その方法を秘密裏に探してたんじゃないかな』


「なるほど、コンタクトか……ってことは、俺たちが政府のメッセージを向こうのエラい人に伝えるってこともあり得る?」


『それは十分あり得るね。なにせ、向こうは実在する異世界なんだから』


「え、じゃあ……俺たちがやったことや、エネルケイアの行動は、もう外交問題っていうか、お国レベルの問題になってるってこと?」


『うん。そういうことだね』


「待って、待って、それはいくら何でも……」


『ちなみにもうユウのところにも、調査室の人がが送られたみたい』


「なん……だと?」


<ドンドンドン!!!>


「おいおい! どうすりゃいいんだよ!」


『落ち着いて質問に答えるだけで大丈夫だよ。悪い事をしているわけじゃないんだから、自身をもって放すだけで平気さ』


「ソウデスネー……」


『まさか……「クリエイト・ウェポン」を試してないよね』


「ままままままさか! そっちはしてない!!」


『うん……把握した。隠せるものなら隠しちゃえば?』


「か、隠すって言ってもなぁ」


 俺は一応毛布を被せてダイヤ(?)を隠したが、バッチリ下の方が見えている。


<ドンタカタッタ!! ドンタカタッタ!!>


 おい!! ドア叩く音ぉ!!

 絶対叩いてる奴、遊んでるだろ!!


 ……いや、このノリの人なら、この巨大な宝石をみても、笑って済ませてくれるかも知れない。ここは一つ、思い切って見せるのも一つの手か。


 俺はさっとドアを開ける。

 すると、ドアでリズムを刻もうとしたげんこつが、俺の顔面に飛んできた。


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