>>???サイド 未知との遭遇
ママの言葉を聞いた俺は、驚いて息が詰まってしまった。
まさかそう来るとは思わなかった。
「政府の人に知らせるって……まさか、ママに何かコネとかあるの?」
「いや、僕じゃない。本当は秘密にしてって言われていたんだけど――」
「……?」
★★★
――ダークグレイの背広を着た壮年の男が、とあるビルの一室から、灰色のビルが林立する世界を見ていた。色のない世界を覆う暗い空には、地を打つような太い雨粒が降りてきて、彼の視線が通る窓ガラスを洗っていた。
おおよそ感情というものが浮かんでいない表情で外を眺めていると、彼の背後から「コンコン」と、部屋のドアを叩く音がした。
それを聞いた彼は、背広の肩に大きなシワをつくって振り返ると、「入れ」と短く返事をした。すると、男がいる部屋にブリーフケースを持った若い男が入ってきた。
彼は部屋の中央に来ると、白色のプラスチックテーブルの上にブリーフケースの内容物――書類を広げて口を開いた。
「室長、取り急ぎ調べましたが、やはり本当のことのようです」
室長と呼ばれた壮年の男は、若者が取り出した書類をひとつひとつ改める。
出された書類を読み進めるたびに眉が曲がり、眉間にシワが寄った。
「ゲームが異世界につながった……にわかには信じられんな」
喉の奥から絞り出すようにして
「同感です。現時点では不明な点が多いですが、それだけは確かなようです」
「それでそのゲーム……『クロス・ワールド』の開発者はどうなのだ?」
「それが、開発者も意図して作ったものではないらしく再現性がないそうです」
「再現性がない?」
「はい。調査チームがゲーム会社に
「異世界にはつながらなかったと?」
「はい、その通りです」
「それではまるで……偶然ではないみたいだな」
「はい。なにかの意志が働いているようで気味が悪いですね」
「ふむ……となると異世界につながった原因はこちら側ではなく、異世界の側に存在する。――というのが、妥当な推測になる、か?」
「室長、私もそのように考えています。魔法陣の画像はグラフィッカーが自身のアイデアを元に作り上げたものですし、儀式もゲームの世界観に基づいたものです」
「なるほどな。まったくの偶然で異世界につながる本物の魔法が出来あがったというのは、結論として無理がありそうだ。しかし――危険だな」
「は?」
「それは『トンネルヴィジョン』だ。本当に異世界側に原因があるのかどうかは、もっと詳しく調べて見ないとわからない。」
「た、確かに……」
「何かしら『好ましい結果』を事前に想定して調査を始めると、その証拠ばかり集めてしまうものだ。一度結論を出せば、真実からは遠ざかる」
「ハッ、申し訳ありません室長。肝に銘じておきます」
「自分で自分に仕掛ける罠ほど、抜け出しにくいものはないからな」
「はい。先入観を持たないものを調査に加え、見直しをさせます」
「うん、それは良い判断だ。先入観を捨てるのは調査の基本だからな。調査室でヒマそうにしているやつを何人か連れていけ」
「はい。因果関係の調査は引き続き行います。後はこちらの問題ですね――」
「あー、これは実害がスゴそうだからなぁ……」
若い男が並べた書類には、とある者たちによる活動が書かれていた。
「これは異世界で活動している者たちの記録です。情報のソースは、現在までにSNSや動画共有サイト等を通した発信から確認したものです」
「情報化社会さまさまだな。貴重な情報を向こうから発信してくれるとは」
「大抵のプレイヤーは現地の人々と友好的な関係を築いています。ですが――」
「……これか。ごく一部のゲーマーが、異世界で破壊活動や略奪を行っている、と。この『エネルケイア』というのは何者だ?」
「平たく言ってしまえば、この『クロス・ワールド』というゲームに人生を捧げた者たちですね。ゲームは遊びじゃない。そういって効率を求めて、他人との
「なるほど、異世界の人間を害するのは、元の世界でもそうしていたからか」
「そういう事になりますね。」
「この連中の行動に歯止めをかけないと、いつか取り返しの付かない問題を起こしそうだな。エネルケイアの今の状況は?」
「彼らは今、異世界を略奪して回っています。その理由は、異世界にある珍奇な物を手に入れ、元のゲームの世界に持ち帰るのが目的のようです」
「普通に強盗だな。それでこの……『創造魔法』というのは?」
「この『創造魔法』というのは異世界に存在する魔法で、呪文を唱えることで物品を取り出すことができるそうです」
「さすが異世界だな。そんなモノなら、欲しがる者はいくらでもいるな?」
「はい。彼らはそれを求めて、異世界で無茶苦茶な行動をしています」
「うーむ……異世界の人間に対する暴行や略奪で逮捕するわけにもいかんしなぁ……連中がしていることは、法律上はただのゲームだ」
「それに加えて、私たちがゲームに入ることも出来ません。『クロス・ワールド』の緊急アップデート以降、新しく異世界に行った者はいないようです。逆に帰ることも出来ないようですが」
「ふむ……電子世界の孤島というわけか」
「そうなりますね。調査室の職員にこのゲームをしているものが居るとよかったのですが……現在は特にいないようです。」
「そうか。引き続き調査を頼む」
「ハッ! なにか新しいことがわかり次第、報告に上がります!」
若い男は資料を残し、部屋を去っていった。
部屋に一人残った室長は、アゴに手をやって物思いに耽るような仕草をした。
「――クロス・ワールドか。確か、娘の
室長は窓の外を見る。雨はまだ降っていた。
延々と振り続ける雨は、世界のすべてを静かに閉じ込めているようだった。
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