ちょっとまったぁ!!


「ちょっと待ってくれ……」「じゃあここって……」

「異世界って……コトォ?!」


 どうやら俺たちはNRMMOをしていたら、いつの間にか異世界に閉じ込められていたようだ。まさかこんな事が起きるなんて……。


 俺はめまいを感じて数委任のクランメンバーと一緒にその場にしゃがみこんでしまった。ママも同じようにショックを感じたようで、サイトを見ながらポカーンとしている。


 様子が変わっていないはマウマウだけだ。

 あるいは、コトの重大さをまだ理解してないのか……。


「待て、待て、待て、ユウ、冷静に考えよう……」

「お、おう」


「仮にここが本当の異世界だとして、俺たちのアバターはどうなっている? 実際にアバターがこの世界に来ているのか? ログアウトはできるのか?」


「まずそれだよなぁ……」


 俺にはこの状況に既視感がある。


 例えばライトノベルなんかだと、NRMMOで遊んでいるプレイヤーが異世界に行くと、ログアウトできなくなるのはよくあるネタだ。


 俺たちもそういった状態になっている可能性が高い。

 NRの神経接続がどう動いているかなんて、俺たちはエンジニアじゃないからわからない。いま外しても大丈夫かどうか、まったく想像がつかないぞ……。


「そういや、一度ログアウトした人いなかったっけ?」

「あ、それ俺だよママ。フツーにトイレに行って戻ってきたよ」

「「え、マジ?」」


 クランのメンバーの一人がそんな事を言ったので、俺はママと一緒になって驚いてしまった。まさかフツーに出たり入ったり出来るとは思わなかったからだ。


「ちょ、ちょっと、体に変な所とかない? 気分が悪くなったりとか、大丈夫?」

「大丈夫だって! 相変わらずママは大げさだなあ」

「ログアウトしたらキャラクターはどうなった?」

「いや、普通にゲームと同じように、ちょっとしたら光と一緒に消えたぞ」


(これはちょっと予想してなかった。俺たちはアバターを使って異世界を行き来できるってことか?)


「うーん……じゃあ、さしあたって問題になるのは、ゲームの方の元の世界に帰れなくなったってことかぁ?」


「そういうことになるね。どうする、ユウ?」

「どうするったって、何で俺?」

「一応、君がクランのリーダーだからね」

「……あ」

「はぁ。普段偉ぶらないのは良いけど、そこまで忘れる?」

「悪い悪い。」


 すっかり忘れていたが、この『デュナミス』のクランリーダーは俺だった。

 リーダーといっても、やることは、クランのバフスキルを使うことくらいだからなぁ……。誰かに指図するとか、何かを決めるってのは始めてかもしれない。


 俺は深呼吸して、周りのメンバーを見回した。みんな不安そうに俺を見ている。俺も不安だけど、ここで弱気になっても仕方ない。


(――とりあえず、情報を集めることが先決だな。)


「よし、まずはこの世界について調べよう。皆は近くの町や村に行ったと思うけど、ゲームとして見てただろ?」


「まぁ、そうだね……てっきりゲームの世界と思ってたから、内容がちゃんと頭には入ってなかった」


「うん、だから次はもっとこう……この世界の常識やルール、それを把握しよう。それから、ゲーム世界に戻る方法がないか探す。それが無理なら――この世界で俺たちが生きていけるようにする。これでどうだ?」


 俺がした提案に、クランのメンバーは一様にうなずいた。

 目的が得られたことで、不安そうな表情はいくらか和らいだように見える。


「後はこの世界の戦闘が問題だな……ここに来て最初に入った村でゲームのスキルを使ってみたけど、どうやら威力過剰みたいだった」


「うん、こっちが戦ったモンスターもあんま強くなかった。人間はどうなんだろうな。俺たちの力に気づかれたら、ちょっと不味いことになるんじゃない?」


「戦争に駆り出されるとか、ありがちだよな―」「なんかそんな漫画あったよな」「そうなったらどうするの?」


 クランメンバーが口々に不安を吐き出した。

 まぁそうなるよな。


「あー、できるだけ、現地の争いには関わらないようにしよう」


 俺は具体的にどうするかは、言葉を濁した。


 まぁ、『クロス・ワールド』にもギルド同士の戦闘や、対人戦闘のシステムはある。だけどそれはゲームキャラの話だ。


 もしこの世界で俺たちが戦争に参加するとしたら、相手はゲームキャラじゃなくて生きた人間になる。それはちょっとご遠慮願いたい。


 できることなら、戦う相手はモンスターや動物に限定しておきたい。


「なぁリーダー。この世界のえらい人に、戦争を手伝わないと戻る方法を教えないとか、創造魔法をくれてやらないとかなったら、どうするんだ?」


「そうなったら、別の手段を考える。取引相手は他にもいるはずだ」


 メンバーには言わなかったが、俺たちが死んだらどうなるのか?

 っていう問題もあるからな……。


 異世界で俺たちのアバターが攻撃を受けて死んだらどうなるのか?

 これが分からないうちは、あまりリスクを冒したくない。

 本当に死ぬ可能性もあるのに、死んで確かめるって訳にもいかないからな。


「ふう、ちょっと安心したぁ~」


 小声で呟いたのは、エミリンというレトロな人形機械のアバターの少女(?)だ。彼女は鍛冶屋だから直接的な戦闘能力がない。気が気ではなかっただろう。


「大丈夫だよエミリン。協力すれば何とかなるさ。あとはこっちの世界でのクランハウスがほしいな」


「後はユウ、現実世界にこれをどうやって伝えようか?」


「あー、その問題もあったな……」


 どうするかなぁ。

 いったん、様子を見て考えるか。


「俺たちが現実世界になにか証拠を持っていけるわけでもなし、保留かな」

「……そうだね。いろいろ試してみるしか無いかな」

「ママ、俺はいったんログアウトして来る。タバコ休憩と、あとトイレ」

「おう、いってら」


 俺はUIを操作して、ゲーム、いや、異世界からログアウトした。

 いつもの部屋に戻ってきたのに、なんだか妙な気分だ。


 そういや、『クロス・ワールド』はプレイするために月額課金が必要だが、異世界にいる間のこれってどうなんのかね?


 遊び放題なら良いけど、そう上手くはいかないかな?


 俺はそんなくだらないことも考えながら、テーブルの上に置いているタバコを手に取って火をつけた。


「しかし創造魔法か……『クリエイトフード』ねぇ……。」


<ポンッ!>


「…………?」


(ちょ、ちょ、ちょっとまったぁ!?)


 俺が何気なくメイム村で覚えた創造魔法の呪文を口ずさんだ時だった、テーブルの上にほかほかと湯気を上げる『ラーメン』が出現していたのだ。


 ゲーム内に続き、現実でもあり得ない事が起きたことに、俺の思考は停止する。


「…………………………アチチッ!!」


 どれだけボーっとしていたのだろう。

 タバコの火が指にかかったことで、俺は正気に戻った。


(まさか、まさか――ッ!)



「こっちでも『創造魔法』が使えるって……コトォ?!」

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