【クロス・ワールド】~MMOが異世界につながったらどうなるのっと…~

ねくろん@カクヨム

プレイ開始


「ゲームで稼げたらなぁ、とは思ってたけど……」


 俺は「神崎かんざき ゆう」という、自分の名前が書かれた貯金通帳を見る。

 そこには、残高の数字が「1000万円」とかかれていた。


「マジで稼げちゃった。しかも半端ない金額が……」


 ここに至るまで何があったのか?

 おれは少し前のことを思い返してみる。



「よし、準備は完璧だ!」


 俺は、自宅の部屋で専用ゲーム機の前に座り、ニューロリアリティ(NR)ゲーム『クロス・ワールド』の新拡張「異世界の門」を起動した。


 このNRとは、現実世界に仮想世界を投影する新世代のゲームシステムだ。


  VRと違い、NRには重いヘッドセットもバッテリーパックもコントローラーも必要い。なぜなら、NRはプレイヤーの脳神経ニューロンに仮想世界を投影するからだ。


 NR技術は十数年前、新型の悪性インフルエンザが世界中で発生したことが原動力になって開発された。


 なにしろ、お外にでたら凶悪なインフルエンザにかかって死んでしまう。

 だが、みんなして引きこもってばかりだと、どうなってしまう?

 店から商品が消え、電気、ガス、水道は止まり、人間の社会は滅んでしまう。


 だから、世界中のハイテク企業が超×3頑張って、このNR技術を完成させた。

 これがあれば、職場まで通勤しなくてもNRでロボットを使って働ける。


 人間はついに(労働はムリだったけど)通勤時間を克服したのだ!

 

 そして、このNRシステムは、もう一つの夢を叶えた。

 人類の夢、体感フルダイブ型のゲームを実現させたのだ。


 VRと違って、NRデバイスは爆速で普及した。

 だって、これがないと働けないからね。


 で、みんながNRを持ってるとなると、どうなるか?

 NRを使ったゲームのお客さんは、全人類が対象となるのだ!


 そして、俺が遊んでいる『クロス・ワールド』もそうしたゲームのひとつだ。

 俺はプレイを始めるため、仮想世界に感覚を同調させてログインした。


「っと、ここは……うちのクランの拠点か」


 以前ログアウトしたクランの拠点で、俺の操作キャラクターが目覚めた。


 クランとは、気の知れた者同士で作る組織のことだ。


 同じクランに属していると遠く離れていても会話ができたり、共有倉庫でアイテムを受け渡したり等、なんやかんや特典がある。


 実際、『クロス・ワールド』では、大体のプレイヤーがどこかのクランに所属しているものだ。クランに所属して得することはあっても、損することは無い。


 俺はさっそく、拡張の要素を遊んでみたかった。

 だが、ネタバレを恐れるあまり、事前にあまり情報を調べてなかった。


「クランのメンバーに聞いてみるか」


『おーす。新拡張どうっすか?』

『新エリア凄いよ―』

『ほうほう』


 そういや、「異世界の門」では、最新技術を使用した新エリアが開放されるとか何とかっていう情報があったな。具体的なことは何もしらんけど……。


『簡単な会話クエストをクリアすると、すぐ行けるようになるよ―』

『はよ来い。』

『まだ昼間なのに……あっ(察し)』

『もう行ってるんか』

『うむ、手が足らんから、はよ来てくれ』


(ふむ、どうやら新エリアにはさっさと行けるみたいだな)


 俺はさっさとクエストを済ませることにした。


 会話クエストってことは、ゲームのキャラに話を聞くだけで終わるやつだ。

 さっさと済ませて皆と合流しよう。


 俺はゲーム内をテレポートし、王宮にある魔法使いのアトリエに入った。


 ここには、プレイヤーたちから『この世界の大事件、大体こいつのせい』と言われている、ハゲの魔道士「マーリン」がいる。


 どうやらクエストの受注はこのハゲから出来るようだな。

 しっかし今回もまたお前か。

 

「おっす、クエストくれー」

「うむ、勇者よ……」

「スキップ」

「そして異世界の……」

「スキップ」

「しかし、危険も……」

「スキップ」

「そうか、ありが」

「スキップ」


 イチイチ会話が長ぇんだよ!!!

 どうせ大したこと喋ってないんだから、さっさと行かせろやオォン?!


「では魔法陣に乗りたまえ」


 俺は魔法陣に乗って、異世界に移動することにした。

 するとキャラクターは光に包まれ、猛烈な目まいが襲ってくる。


「うわああああ!」


 俺は目を閉じて叫んだ。NRでは、演出でも「目まい」や「吐き気」を感じさせるような表現は規制されているはずだ。


 こりゃ、開発がまたやらかしたな……。

 俺は吐き気が過ぎ去るのを待ってから立ち上がる。


「おんやー?」


 俺の目の前には「異世界」とやらが広がっていた。

 しかし、なんというか……。


「フツーすぎねぇ?」


 自称異世界は、ヨーロッパ風の平原だった。

 青々とした草原が広がり。その奥には、頭に雪をかぶった山脈が見える。


 美しいは美しいが、異世界って感じではない。

 もっとこう、地面に謎のクリスタルがぶっ刺さってるとか、ピンクと紫色の奇妙な形をした木々が生えてるとか、そういうのを想像してたんだが……。


「なんかあれだな。素材集をそのまま使ったって感じ」


 俺は異世界のあまりの普通っぷりに拍子抜けしたが、クオリティ自体は高い。

 風や太陽の感覚は、まるで本物のようだ。


 グラフィックにはこだわらず、感覚の再現にこだわったとか?

 フツー、そこに金かけるかねぇ。


 俺は平原を草を踏みしめ、その感触を楽しみながら進む。分厚い絨毯の上を歩いているようだ。


(お、第一村人か。何かクエストとか持ってるかな?)


 俺の目の前には、金髪のロングヘアに青い瞳の美少女がいた。


 少女は、赤いリボンの付いた白いワンピースを着て、手には小さなカゴを下げている。どうやらこの草原で、花を摘んでいる様子だった。


「おっす」

「あら、旅のお方ですか? いいお天気ですわね」

「スキップ」

「はい?」

「スキップ」

「スキップしたいんですか? あ、ひょっとして、旅芸人の方ですか?」


(……ん、あれ、なんで会話がスキップできないんだ?)


「あの、どうされました?」


(なんだろう、フツーに会話してるな。設定された言葉を喋ってる感じがしない。これはもしや……)


「あー、自分はちょっとこっちに来たばかりでして……頭がグルグルってしちゃってて、変なこと言ってすみません」


「な、なるほど、きっと異界渡りによる魔力酔いですね? ゆっくり深呼吸していれば、すぐに気分が良くなりますよ」


(……スゲェ。クランの奴らが新エリアを凄いって言っていた理由がわかったぞ。確かにこりゃ凄い。この自然な会話、まるで本物の人間みたいじゃないか!)


「そうします。この辺に村とかってありますか?」


「えぇ、ご案内しますよ!」

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