いざ給へ!妖怪居酒屋百鬼夜行!!

アキノアカリ

本日の店主のオススメ 0.妖怪居酒屋

日本のとある場所、午前2時。


「あ〜、呑んらぁ、呑んらぁ〜、、、しぇんぱいたち、、、おりぇにたぁらふく呑ませやがっへぇ〜」


繁華街から少し離れた人通りの少ない通路を、男が一人、千鳥足で帰路に就いていた。


誰もが普段の彼を見た第一印象は「野球が上手そうな好青年」と言われる位には黒髪短髪が似合う男であり、名を小宮山秀明こみやまひであきという。


実際のところ、本人は野球なんてのは一度も経験した事がなく、高校なんてオール帰宅部だったピカピカの社会人1年生。


そんな小宮山が立派な酔っ払いと化した事の顛末はこうである。



〜回想〜



小宮山は仕事終わりに会社の先輩に「世間は華金!どうだい?小宮山君も酒を奢るから偶には君の同僚も交えて飲まないか?」と誘われたものだから、タダ酒を飲めるとの事で喜んで先輩達の飲み会に参加したのだった。


だが、後悔先に立たずとはよく言ったもので、小宮山はこの付き添いが失敗だったと思う事になる。


居酒屋での先輩達ときたら、飲むわ飲むわ、酔う事を知らないかの様に飲み続けるのだ。


「これが俗に言ううわばみ、、、いや、ザルかわくって人達か」


目の前の酒豪達を肴に酒をちびりと飲む、と同時に頼んでいた料理が続々とやってくる。


冷奴、枝豆に焼き鳥の盛り合わせ、ホッケの開き、たこわさなんてのもある。


これが全部奢りなのだから、給料前の金欠小宮山には夢のようだった。


「頂きます!」と、手を合わせて料理の数々を堪能しながら、また酒をちびりと飲む。


そんな幸福の絶頂の中にいた小宮山は、ふと自分の手元にあるグラスを見て異変に気付いた。


自分の飲んでる酒が一向に減らない!!


チビチビと飲んでいる筈なのに、飲んでも飲んでもグラスから酒が湧き出ているのではないかと疑う程に、減らないのだ。


先輩達は全員で4人、彼らは小宮山の目の前で仲良く肩を組んでガハハ!と笑いながら酒を飲み続けているのだから、小宮山の隣には誰も居るはずがなく、彼のグラスに酒を注ぐ人物などいない筈、、、いや、一人居た。


小宮山は、飲み会に誘われた後輩は自分だけだと思い込んでいたが、先輩の言葉を思い返してみると「小宮山君も酒を奢るから偶にはも交えて飲まないか?」と言っていたのを、タダ酒を飲める事で浮かれてしまっており、すっかりと存在を忘れていた人物、同僚の片重守かたしげまもる


彼は栗色のショートヘアーにセンター分けと呼ばれる髪型、可愛い蛇のようなヘアピンが印象的な不思議系の男性社員である。


ただ、本人が華奢なせいか、女性が男性用のスーツを着ている様な形になっており、一部では、「本当は女性なのではないか?」と疑いの声も上がっているが、真相は彼しか知らない事もあり、社員の間では会社七不思議の一つになっていたりする、、、らしい。


そんな片重は、耳を傾けて集中して聞かないと聞き取れない程の小さな声で「えへへ、小宮山さん、、、お酒強いんですね、、、カッコいいなぁ、、、もっと飲んで下さいね、、、へへっ」なんて、うつむきぶつぶつと呟きながら、小宮山が少し飲んでは注いで、少し飲んでは注いでを繰り返していたのだ。


「片重さん、、、注いでくれるのはありがたいんだけども、せめてグラスが空になってからにしてくれないかな?」


小宮山は少しばかり引きった笑顔で、片重の顔を見て喋った直後、先輩の一人に腕を掴まれて呑兵衛軍団の中にぶち込まれてしまった。


「小宮山くぅん!ぜぇんぜん飲んでないじゃあん!ほらぁ、飲んで飲んで!奢りだからいっぱい飲んで!そんでぇ、会社の不満をゲロと一緒に吐き出しちゃおー!」


「待って!飲んでる!飲んでます!結構な量飲んでるで大丈夫です!すんません!いや、ホント大丈夫なんでぇーー、、、」


なんとか拒もうと奮闘する小宮山だが、酔っ払い達のなんと強い団結力か、、、。


残念ながら、ここから現在の小宮山の状態に至るまでの経緯は、彼の記憶が飛んでいるようでお伝えができないのだが、彼らの同行を見守っていた片重によると「小宮山さんを取り込んだ先輩達はまるで、道連れにする仲間を探す七人ミサキの様でした」と、語っている。



〜回想終了〜



「あ〜、らめだぁ〜、、、あたま痛いしぃ、ふらふらするおぉぉえええっ!!!」


あわれ、酔っ払い小宮山は、ふらふらと近くにあった電柱に歩み、寄り掛かると、その勢いでマーライオンの如く(自主規制)。


多分この瞬間、世界で最も汚いマーライオンのポーズをとったままの状態で小宮山は意識が朦朧もうろうとしていき、、、そのまま気を失ってしまうのだった。



〜気絶中、、、しばしお待ちを〜



「、、、さん?、、、ぃさん??」


小宮山は少しずつ意識を取り戻していく中で、耳元で囁く女性の声を聞いた。


「お兄さ、っん?大丈夫かいお兄さぁん??」


その声はとても優しくて、どこか妖艶ようえんな甘い囁きの様だったが、小宮山にはそれがとても気持ちよく、まるで柔らかい何かに包まれている様に思えた。


「お兄さん?ちょっと、しっかりしておくれよ!お兄さ、やぁん!!」


「、、、お兄さ、やぁん??」


小宮山は、意識がハッキリしていく中で、女性の息が何故か荒くなっていくのを感じ、目を開けた。


「あ、気が付い、たんだねっ、、っ!!あん!」


ボヤけていた焦点があってくると、彼を覗き込む形で女性が優しく微笑み、何故か顔を赤らめていた。


小宮山を優しい瞳で覗き込む彼女は、彼が会ってきた誰よりもトップクラスに美人な女性だった。


そんな彼女に小宮山は膝枕をしてもらい、右手は彼女の胸を鷲掴みにして揉みしだいて、、、いる?


「なんで俺知らない人の胸揉んでるのっ!!?」


日常生活の寝起き一発目には絶対に発さないし、なんなら羨ましい一言を発しながら、小宮山は胸を揉み続けていた。


いや、よくよく見たら揉んでいるのではなく、彼女が小宮山の手を掴み自分の胸に当てて揉ませているのだった。


「あん!お兄さん大胆だね、、、っ!なんなら、直で、、、も、ぐっ!!?」


最後の台詞を言う直前、彼女の頭頂部目掛けて木の板がクリーンヒットし、鈍い音と共に彼女の顔が小宮山の顔面に降ってくる。


小宮山は初めてで、しかも深い方を見知らぬ女性に奪われてしまった瞬間であった。


これが、現代社会に生きる一般人「小宮山 秀明」と、妖怪居酒屋の店長「佐野 石燕」、看板娘である妖怪「姑獲鳥」との出会いのシーンである。



〜終幕〜



ここから先は、彼らの妖怪を巡る奇々怪界な物語と料理の数々。


この物語が、妖怪を知るキッカケになってくれれば、そんな願いを込めてつづっていけたらと思います。


それでは、また次回、お会いいたしましょう。



お次の品

1.姑獲鳥うぶめ

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