変形

みにぱぷる

変形

ことの始まりはこの立方体だったのだと私は今更思う。拾わなければ良かったのだと今は後悔している。


 空から降ってきた親指サイズの鉄製の立方体。私はそれを拾い上げて家に持ち帰った。

 最近はお腹を崩すこともなく、またトラブルに巻き込まれることもなく、親友の医師である村上からは、体調は落ち着いてきたと、体調に関しては医師のお墨付き、一方で、妻とはちょっとした行き違いで、別れ、独り身の生活を送り、ひとりぼっちの生き物なんだ私は、としみじみ思っていた時、それを拾った。

 全ての面に妙な螺旋状の絵柄がたくさん描かれている。いや、一個しか書かれていない面もあるようだ。全部で21個描かれているようだが、何の絵柄だろう。

 そして、私は次にこの立方体の分解を試みる。鉄製には思えるが、何しろ親指サイズだ。ペンチで砕くことはできるだろう。

「1年A組月岡豊」

 中学生の頃から使っているペンチなので、マジックで書かれた名前が剥がれかけている。

 私はその立方体をペンチに挟んで力一杯潰してみた。

 だが、変形はしない。寧ろ弾かれている感覚さえ覚える。

 どうやら、これはとても強い金属でできているようだ。

 そうなると、いよいよこれが何なのかわからなくなってくる。

 私は手のひらにそれを乗せて、眺める。何だか、地球上のものではないような気さえしてくる。

 ぐおおおぉん。

 不意に私を眩暈が襲った。ここ最近はめまいもなかったのに。

 立方体は私の手のひらから落ちる。私はこめかみを指で押さえながら、その立方体を見つめる。

 立方体はころころところがり、やがて静止した。上を向いている面にはその歪な螺旋が描かれている。4つの螺旋が交錯しているようだ。

 それを見た時、私はやっと気が付いた。これはサイコロなのだと。この螺旋が何を示しているのかはわからない。だが、これはサイコロなのだ。

 そう気付いてすぐ、私の体は突然変化を始めた。変化は一瞬だった。一瞬で全身が、内部から崩壊して、再結成した。しかし、再結成後の私の姿は元々の私の姿とは異なっていた。

 私の体は、幼稚園児が粘土細工で適当に作った作品のような肉塊と化した。見るに耐えない姿であることは私にも想像できた。

 これは、あのサイコロのせいなのだろう。あのサイコロの、4つの螺旋が、私に、いわば適応された結果、私はこうなったのだろう。

 

 ぼんやりと考える。私の体は突然変異したのか、と。そして、突然変異という単語が遺伝子という単語につながり、螺旋の絵柄と、遺伝子という単語が脳内で絡み合う。そして、私は発狂する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

変形 みにぱぷる @mistery-ramune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ