宝くじ当たった!
七村 圭(Kei Nanamura)
第1話 宝くじが当たった! けど
とある高校の声優同好会に所属する、幼なじみの由樹(ゆき)と海人(かいと)。由樹が声優好き、海人が声優志望であることから一緒に同好会に入った彼らは、晩秋を迎えた今日も同好会の活動にいそしむはずだったのだが――。
由樹「どうしよう……どうしよう……」(机で頭を抱えている)
(海人がドアを開け教室に入ってくる)
海人「おっす。あれ、どうしたんだよ、ゆっきー。頭抱えたりして」
由樹「あ、カイト……」
海人「悩みごとか? 俺でよければ聞くけど」
由樹「うーん…………ぜったいに、だれにも言わない?」
海人「言わない言わない」
由樹「じゃあ、カイトには特別に打ち明けるけど。(小声で)……宝くじが、当たったの」
海人「へえ。いくら?」
由樹「…………いち」(人差し指をピンと立てて)
海人「一万円? よかったじゃん。いいお年玉だな」
由樹「もうちょっと、高いかな」
海人「えっ。もしかして、十万円? へえ~、すごいな!」
由樹「……もうちょっと、高いかな」(顔を引きつらせ)
海人「まさか……百万円? うわ、大金じゃん!」
由樹「……も、もうちょっと、高い、かな……」(もっと顔を引きつらせ)
海人「…………いっせん、まん………?」
由樹「…………ぴん、ぽーん…………」
海人「――フフッ。ハハハッ」
由樹「あーっ! カイト、信用してない!」
海人「(笑いながら)だって一千万って、そんなことあるわけないだろ。俺にドッキリしかけようとして、ちょっと金額上げすぎたんじゃねえか?」
由樹「ウソじゃない! ほんとに一千万なんだから!!」
海人「はいはいわかったわかった。すごいなゆっきー。ハハッ」
由樹「せっかく勇気出して告白したのに……カイトのバカ!」(涙目)
海人「ハハハ…………ひょっとして、マジ?」
由樹「マジ。なんなら番号みる?」
海人「いま持ってんの!?」
由樹「うん。肌身離さず持ってないと怖かったから。――あっ」(カバンの中を探るが突然手を止める)
海人「えっ」
由樹「ちょ、ちょっと待ってて。すぐ戻ってくるから」(走って教室を出ていく)
海人「なんだよ急に。(少しして)――あ、戻ってきた」
由樹「はい」
海人「……なぜ白黒コピー?」
由樹「とられたらヤだから」
海人「俺、信用されてない……! ええと、スマホで宝くじのサイトを、と――。うわ、ほんとだ」
由樹「でしょ? もうこのせいで昨日の夜からぜんぜん眠れなくて……!」
海人「もう一度聞くけど、これ、俺に対する手の込んだドッキリじゃないよな?」
由樹「私、信用されてない……!」
海人「ってかゆっきー、宝くじなんか買う趣味あったか?」
由樹「ないけど、先週の日曜日にヒマだったから池袋で散歩してたら、たまたま宝くじ売り場を見つけて、気まぐれで試しに買ってみたの」
海人「いまの時期なら、年末ジャンボ宝くじとか?」
由樹「ううん。それはまだ売ってなかったから『実りの秋宝くじ』っていう地域限定の宝くじ? を十枚買ったの。そしたらいきなりこんなことになって……もう私、なにがなんだか……」
海人「親には言ったのか?」
由樹「ううん。反応が怖くて言えない」
海人「まあたしかに、親にとっても一千万は大金だよな……」
由樹「でしょ? どうしよう……これがきっかけで私、お金に溺(おぼ)れる人生に転落したら……。あまりに大きなお金を手にしたものだから何でも手に入る気になっちゃって、金銭感覚がマヒしちゃった私は浪費グセがついて、高校生なのに多額の借金を背負って奈落の底へ転落していくなんてことにならないかな?」
海人「考えすぎだろ……。ブラックな未来を想像するのはゆっきーらしいけど、もう少し素直に喜べばいいんじゃねえの?」
由樹「カイトの塩対応! カイトの塩対応!」
海人「二回言うな。それけっこう傷ついてんだから」
由樹「私のほうが傷つきました!」
海人「にしてもこのこと、あんまり他の人に言わない方がいいよな。クラスメートとか、特に」
由樹「そうね。ていうかもうカイトには話しちゃったんだけど……。大丈夫かな」
海人「なにが?」
由樹「ここからカイトが私の一千万円を横取りしようとしたりして」
海人「いやそんなこと」
由樹「する! するかも! だって目がくらんでもおかしくないくらいの大金なんだもん! で、『宝くじをめぐり疑心暗鬼になるゆっきーとカイト。ガラガラと崩れる二人の信頼関係。そこへ第三の刺客が――。都立宝島学園に突如現れた一千万円という財宝を手にするため、生徒たちの血で血を洗う戦いが今、始まる! 次回【ゲームの幕開け! 地獄のパーティは放課後のチャイムから!】』とかいう展開になったりして!」
海人「ゆっきー、学園ファンタジーアニメの見過ぎだろ……」
由樹「ってか、カイトは一千万に興味ないの……?」
海人「正直、ゆっきーの話聞いても実感わかないからな……。それにそもそもそれ、ゆっきーの金じゃん。それを横取りするとか、俺がゆっきーに対してそんなこと思うわけないだろ」
由樹「でもカイト、アイドル好きでしょ。『きらら坂49』の結城琴菜(ゆうき・ことな)推しじゃん。ライブの追っかけでお金足りない~、っていつも言ってるし」
海人「それを言うなら、ゆっきーだって声優マニアだろ。だれだっけ、ほら――
由樹「陣さん! 陣サトシ! 安眠ボイスの陣サトシさん! カイト声優志望なんだから、知ってなきゃいけないでしょ!」
海人「でもあの人、乙女ゲーとかの女性向けコンテンツ専門だから、俺あんまりなじみがないんだよな……」
由樹「それに私は追っかけしてないもん。陣さんのことはネットで追えるし。ライブ配信もよくやってるからそれ聴くだけで満足だし。だから……その」(急に小声になる)
海人「ん? どうした、ゆっきー」
由樹「私、出してあげよか? 宝くじで、追っかけの費用」
海人「それはダメだぞ、ゆっきー」
由樹「えっ?」
海人「琴菜ちゃんのライブは、自分のお金で行くから意味があるんだ。自分が必死に貯めたお金で観に行くから、感動も倍になる。他の人からもらったお金で行っても心から楽しめない。俺はそう思う。それに俺は有名な声優になって、声優好きの琴菜ちゃんに会うっていう夢があるんだ。そういうのって、お金じゃ買えないだろ」
由樹「まあ、うん……そうだけど。(小声で)でも私、一千万もあるんだったらカイトになにかしてあげたい――」
海人「(被せて)だからゆっきーには、後悔しない使い方をしてほしいんだ。一千万円は大金だろ。だからゆっきーには自分のために、大切に使ってほしい」
由樹「カイト……。(思い直して)うん。そう、だね。ありがとう、カイト」
海人「俺、クラスのみんなに一千万円の使い道、聞いてみるよ。もちろんゆっきーが当てたってことがバレないように。それを参考にしてみたらどうかな」
由樹「うん。ありがとう、カイト。私、やっぱりカイトに相談してよかった」
海人「おう。もっとオレを頼れ! なーんてな」
由樹「ふふっ」
海人「ははっ」
(二人が笑いあう)
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