蝉時雨

第1話 日常

初夏

夏らしくなってきた

季節が進んでいるのを日差しの強さで感じる

前までこんな刺すように太陽は凶暴ではなかった

けど、足りない

空は青くて澄んでいるけど

足りない

僕の心のように青春のように

柄がない


今日もひとりだ

窓側の席、日差しが斜めに入って教室を自然光で照らしている

明るい…

喋り声、元気な挨拶の声、廊下を走る音、甲高い声、足音、笑い声

全て僕にとっては

雑音でしかない

そうだな、いい例えが思いつかない

ああ、そうだ

蝉の鳴き声のようだ





弁当

味がしない

大量の保冷剤で冷えたご飯を口に運ぶ

体温で解かす

皆、話しながら弁当を食べている

楽しそうだな

友達と食べたら味、するのかな

日差しは一層強くカーテン越しに僕を照らす




昼休み

することがない

勉強もしたくない

トイレもめんどくさい

動きたくない

何も考えたくない

これが夏バテってやつかな

いや、違うな

以前からの怠慢だな

けど今はただぼーっとしていたい




帰り道

ひとり

ではない

部活仲間

けど大人数のおまけのようなものだ

俺に話しかけたり、話を振ったり

しない

別れ道でもいつもなんとなく外れて家へ帰る

なんだか惨めだな

いっそ

一人で帰ろうか

辛気臭い顔が

和らいだ日差しに照らされる



夏休みに入った

宿題はワークなどはすぐ終わらせた

家で過ごそう、ずっと

何かに誘われることもないし

花火大会も祭りもいつあるのかも知らないし


甘い飲み物が欲しい

コンビニに行こう

蝉時雨

俺を

一人の俺を

馬鹿にしているように聞こえる

そんなこと蝉たちが思ってるはずないのに

変に被害妄想をしてしまう

蝉は何も考えず生きてそうで

なんだか腹が立って

俺はお前らみたいに早く死にたいよ

耳を塞いで

コンビニへ征く



帰りも蝉はうるさかった

変な怒りをどこにぶつければいいのか

分からないし

蝉に腹を立ててる自分に腹が立つ

なんて

低レベルなんだ

日差しはあの日常よりもさらにさらに強く

蝉を明るく

僕を刺すように


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