第2話 声を...きけ

「眩しいっ!」


思わず目を閉じる。宇宙船を俯瞰する視点はいつの間にか解除されていた。


しばらくして恐る恐る目を開けると、そこにはさっきと同じような深淵の宇宙が広がっていた。


いや少し…ではない全然違っていた。


窓の外の視界の半分を占めるのは恒星の反射光を受けて青く光る惑星。


海をたたえ小さな島がぽつりぽつりと見える、おそらく海洋型の岩石惑星。


…ハビタブルゾーンにあり、明らかに生命の息吹がありそうな惑星。


「…綺麗」


海の面積が幾分か多いが…それはまるで地球のようで…まって地球って?


…そんな感じで惑星に目を奪われていた私にアイさんが呼びかける。


―惑星だけではありません、よく惑星のそばを見てみてください―


惑星の…そば?


よく見ると巨大な何かが複数惑星の上を浮いている。


それは明らかに自然のものではなく…人工物。


「あれは?」


―アレは宇宙コロニー、一機に数十万人の人々が暮らしています―


タイヤ型で自転している宇宙コロニー、おそらく人工重力を発生させるためだろう。


―魔導を用いず純物理学で疑似重力を発生させているコロニーですか…相当、古い時代に作られたものでしょうか、しかし現役ではあるようですね―


「…そうなんだ」


というか…なんか、私の知識っていびつで虫食いだらけのような…


そう、考えに没頭しようとしていた時だった。


―…どうやら間に合わなそうです―


「え?…なにが?」


と、私がそう言った瞬間。




コロニーの一つが彼方から放たれた複数の閃光に貫かれ…爆散した。




「…へ?」


―…先ほど、言いましたよね…ここは戦地なのです、戦場なのです―


「だって…あのコロニーには数十万人の…人が」


嘘だよね?きっと放棄されたコロニーだったんだよね?


―声を聴くのです…彼らも声を―


こ、声何を言って。


 


苦しい




へっ?なにこの?頭に流れ込んでくるのは?






苦しい、つらい、暗い、真っ暗、何もない、ここはどこ


僕たち、私たち、の、故郷のコロニーはどこ?どこ?


父は、母は、兄は、妹は、どこ、どこ、どこ、どこ、どこ。


暗い、何もない、僕たち、俺たち、私たちは…死んだの?


そうだ。きっとそうだ、だって何も感じない痛みも寒さも


暑さもなにもなにもなにもなにもなにもなにもなにもなにも


きっと帝国だ、帝国の連中だ、あの頭のおかしいやつらがきっと


なにも感じないはずなのに、憎しみをかんじる、ていこくのやつら


ゆるさない、ほうふくしろ、にくい、どうしようもない、にくい、


やつら、にくい、にくい、にくい、にくい、にくい、にくい、にくい


、にくい、にくい、にくい、やつら、にくい、にくい、にくい、にくい


、にくい、にくい、にく、にくい、にくい、にくい










「ああ、あああああ!」


声が、数多の声が、頭を、私の頭をぐちゃぐちゃに!


なにこれ!やめて、やめて、やめて、もう耐えられない、私は!


―残念ながら、あなたには、それを受け止める義務があります―


うるさい!意味わからない!止めて、早く!止めて!


―止めたいのならば、止めればいい、彼らの願いをかなえればいいのです―


願い…?


―あそこを見てください…いるでしょう?彼ら、彼女らの故郷を破壊した…帝国の艦隊が―


「帝国の…艦隊?」


頭を上げ窓の外を見る、コロニー群の反対側の宙に…いる複数の宇宙船が。あれが帝国の…艦隊


―さあ、やることは簡単でしょう?奴らを…殲滅すればいい、あなたの指揮するこの艦には…それをできる能力がある―


「殲…滅?」


―時間はありません、こうしている間にも他のコロニーが攻撃されるかもしれません―


「…そうだ」


このまま、うだうだしていても、またコロニーが破壊されて…また数十万の人が死ぬ。


なら、止めないと…それに彼の無念を…晴らさないと。


そう考えた瞬間、声が、いままで苦痛でしかなかった声たちが、不謹慎だが…心地がいい。


そう、私は今から人の命を守り、無念を晴らす…正しい行為をするのだ。


意識がクリアになる、視点はいつの間にか宇宙船…いやムサシを俯瞰するものになっている。


敵…帝国艦隊…主砲射程圏まで全速前進!


視界映っていた帝国艦隊の宇宙船がみるみるうちに大きくなる。


[主砲射程圏内、副砲射程圏内]


コロニー攻撃に使われていたのは…


―開拓技術を転用し建造された、あの歪な船です、合計七隻―


それを攻撃…いや、もっと効果的な一撃を


「旗艦は」


―あの巨大な…超弩級戦艦でしょう―


最も効果的な一撃…まずは首を狩る


「全砲門、目標、帝国艦隊旗艦」


[全砲門、敵旗艦ロック]


「…斉射、一撃で沈め」


私の掛け声で、ムサシの主砲と副砲が火を噴く。


その脅威は一瞬で目標に達し。


副砲の亜光速レールガンが、目標のシールドを穿ち。


主砲の反物質収束砲の収束線が目標に直撃。


そのまま、目標は対消滅により周囲の艦を巻き込んで爆沈する。


「まず首狩り達成、続いてコロニー攻撃用の敵艦に攻撃」


奴らの牙を…すべて刈り取る。

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