星めぐる戦艦

@TOKAGE123

第1話 目覚め

―覚醒の時です―


声が…聞こえる。


―目を覚ましなさい―


なんだろう…私を呼ぶ声が…聞こえる。


―さあ、起きるのです、「ナギ」―


ナ…ギ…?それは


―あなたの名前です、ナギ―


私の…名前?


そうだ…私の名前はナギ…それから、それから。


それ以上は…わからない。


[酸素残量ゼロ、艦内真空状態]


そう機械的な音声が流れる。


私は…私は!?


そこで唐突に私の意識は覚醒する。


ここはどこ、だ。


私はあたりを見回す、周りには色々な装置が複雑に並ぶ。


そして一番目に入ってくるのは大きな…窓。


窓の先に見えるのは星々が輝く深淵。まるで無限に広がっているように見える深淵。


自分のことについては名前しか思い出せない。でも外に広がるのは「宇宙」であることはわかる。


そこで自分の体が浮いていることに気が付く。そう、ここは、無重力なのだ。


重力は光速で無限の距離を伝播する。だから重力を感じないということは…、この宇宙船?はどこにいるのだろうか?


―やっと目覚めましたね、あなたが目覚めるまで太陽暦で■■年かかりました―


「…あなたは?」


そうだ、私の意識を呼び覚ましたと思われる謎の声、この声は一体。


―私はこの宇宙巡行戦艦、艦級「シキシマ」級戦艦二番艦「ムサシ」のメインAIです―


全然よくわからない…わからないけど…この宇宙船を制御する存在…ということだろうか?


「ねぇ、メインAI?さん」


―私のことはアイでいいですよ―


「じゃあ…アイさん、ここはどこ?私は誰?」


―ここは帝国と共和国の係争地帯にある恒星系の小惑星帯です。あなたの正体については…機密事項です、答えられません―


帝国?共和国?それに…


「答えられ…ない?」


そんな…じゃあ私は…


―私は答えられない…なら「ナギ」あなたが探せばいいのです―


…探す?


[メイン動力の軌道を確認、ムサシ、システム再起動]


「!?」


そんな音声が流れたと思ったら、薄暗かった空間が一気に明るくなる。


[補助魔導炉、オンライン、酸素供給、再開、メイン防御システム、オンライン、次元シールド展開…メイン武装システム、オンライン、主砲「反物質収束砲」装填完了、副砲「亜光速レールガン」装填完了、ハイパージャンプシステム、オンライン]


次々と流れる音声、内容はよくわからない。


―私はこの艦のメインAIと言いましたが…あくまでシステムの一部です―


「…だから?」


―そしてこの艦のすべての権限は艦長「ナギ」、あなたにあります―


「権…限?」


―意識を艦に向けてください、さすればすべてわかるはずです艦長―


よくわからないが…言われた通り意識を艦に…。


「…っ!?」


すると唐突に視界が切り替わった。


今までいた室内ではなく、大きな宇宙船を俯瞰する視点だ。


まるで…古代のゲームのような視点。


…まって…古代のゲーム?なんだっけそれ?


―落ち着いてください、あなたの今の視点は艦を指揮するためのものです―


この宇宙船を指揮?


―さあ、あなたが思い描くように艦を動かしてみてください―


…とりあえず、アイさんの言う通りにしてみよう。えーと前進。


「うわ」


その瞬間、私の体は一瞬後ろに飛んだが、すぐに静止する。


[艦の前進を確認、魔導式慣性制御システム、機動]


なん…だったのだろう?


…でも感覚でわかる…この宇宙船はどうやら…私の意のままに動く。


そのまま艦を自由に動かしてみる。前進、後退、右、左、加速、減速。


「なんか…ちょっと楽しくなってきた」


そのまま調子に乗って操艦していると目の前に突如、なにかが。


まずい…小天体がいつの間にか。


―問題ありません、そのまま突っ切ってください―


「え、でも」


[目の前に障害物確認、演算結果、破壊可能、次元シールド衝角型に展開]


止める間もなく小天体に宇宙船は衝突、しかし船はゼリーを貫通する弾丸のごとく小天体に風穴を開けて突っ切る。衝撃は感じない。


「…すごい」


―そうでしょう―


なんか…アイさんがどことなく得意げだ。


―さて、操艦にも慣れてきましたね…他の機能は…実戦で試しましょう―


「…実戦!?」


突然物騒な単語がでてきた。


―この艦は戦艦…つまり戦うための船ですからね―


で、でもいったい何と、どう戦う…?


―やはり肩入れするならダイソンアースを確保して「太陽」を見つけつつある共和国でしょう―


「ア、アイさん…一体何の話を」


―一つ謝っておきます、本艦は完全覚醒と同時に…近くの戦地に自動でハイパージャンプするよう設定されています―


「そんな…私はどうすれば…」


―艦長、あなたはあなたが聞く声たちに…従えばいい、あなたには聞こえるはずです―


声…たち?


わたしが三度疑問の言葉を発しようとして、しかし、それは


[ハイパージャンプ起動]


その音声に阻まれ…そして。


軽い衝撃とともに私の視界は光で包まれた。

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