第40話 戸籍謄本(隼人視点)

「うっ、頭痛いです」


「わたしも、あまり寝られなかった、かも」


「どうしちゃったの? もしかして昨日でお疲れ?」


 車を運転しながら、優衣さんが俺達に聞いてきた。


「なんか、その表現、誤解を招きます」


「そりゃ、ふたりは昨日大人の階段駆け上ったんだから、ね?」


「いや、あの後、手を繋いで寝ただけですけど」


「えっ!? 本気……、わたし、気をつかって2階に上がらないようにしたんだけども……」


「何もあるわけないでしょ」


「そうかな? キスまでしたら我慢できなくなるでしょ。ふたりとも若いんだからね」


「そんなことないですよ……、俺たちは急ぐことなくゆっくりと歩いていけばいいと、昨日話し合いました。もう不安なんてないから……」


「へっ!? ちさき、せっかく昨日あげたのに」


「ちょ、お姉ちゃん!!」


 ちさきは凄く焦って手を左右に振った。


「どうしたの?」


「いえ、なんでもない」


「うん、隼人くんには何でもないよ。おまじないみたいなものだよ」


 おまじない、はて、なぜそれで、ちさきはそんなに顔を赤らめて慌てるんだろう。


「お守り?」


「そんな感じのものだよ。女の子には必須のアイテム」


 ふーん、必須のアイテムってなんだろ。香水みたいなものかな?


「隼人くん、あまり深く考えなくていいからね」


「まあ、10個入ってるから、ちょっとくらい使っても大丈夫だよ。ふたりのことが気になって慌ててコンビニに買いに行ったんだからね。例えば今日とか……、あっ、その前に戸籍見ないと駄目だよね」


 ちさきの方を一瞬振り返ってウインクする。


「もう、やめてって……、その……恥ずかしいし……」


「まあ、これだけ言っても気がついてみたいだし……、それにしてもなぜそんなに疲れた顔してるのよ」


「意識しすぎて眠れなかった……」


 俺とちさきは同時に声に出す。


「あははは、それは慣れないとね」


 そのまま、市役所のロータリーに入って車は止まった。


「さあ、確認しに行こうか」


 とうとうやって来た。そもそもの発端になった俺とちさきの出生のこと。


 エレベーターで二階に上がる。


「ねえ、ちさき、身分証明書と印鑑持ってるよね」


「うん、大丈夫だよ」


 ちさきは戸籍発行の書類を一通り書いて受付に提出した。


「緊張するよな」


 恐らくちさきと俺の血は繋がっていない。でも、万が一という可能性がある。


「そうだね」


 覚悟して来たのだろう。ちさきはそれほど緊張はしてないようだった。


「12番の方どうぞ」


 少しして、ちさきの番号が呼び出される。ちさきと俺は戸籍課の窓口で戸籍謄本を受け取った。


「座って見ようか」


「うん、そうだね」


 戸籍謄本は少し緑がかった紙だった。万が一ちさきが取り乱すといけないから、それを持って席に座る。


「はい、どうぞ。先に見ていいよ」


「ちさきは見なくていいのか?」


「うん、隼人が見てからでいい」


 やはり、見るのが怖いのか、ちさきは戸籍から目を逸らした。


「じゃあ、見るからね」


 なんか試験結果を見るようだ。試験ならば、やり直しがきく。これは戸籍だ。もし、ここに俺の名前があったら、俺はちさきと結婚することはできない。


「もう、焦ったいわね。わたしが見てあげようか」


「いいです」


 本当に待てない人だな。優衣さんの声を俺は退けた。


 事実婚と言う言葉が頭に浮かぶ。流石にみんなに反対されてまで、そんなことはできないか。結果を見るのが正直怖い。


「じゃあ、見ますね」


 俺はゆっくりと戸籍を開けて、ちさきの名前を見た。戸籍に記載されてる者の欄には、ちさきの名前があった。その下にも上にも俺の名前はない。


「良かった。俺たちは……、兄妹・・じゃ……ない」


「だよね」


 ちさきは戸籍を確認することなく、ニッコリと笑った。


「ごめんね。今まで言わないで、わたし行く前から知ってた」


「はい!?」


「流石に見るのが怖かったんだよ。お母さんに真剣に聞いたんだ」


 ちさきの母親は、ちさきをぎゅっと抱きしめると、そんなことならもっと前に言ってくれればいいのに、と言ったそうだ。


「大丈夫、ちさきと隼人くんは兄妹じゃない」


 でも、せっかくだから見てこいと言われたそうだ。


「なんだよ、それ。ハラハラしたの俺だけかよ」


「そんなことないよ。その話、わたしも聞いてないもの。それが分かってたから、もっと焚き付けたんだよ! ほら、あれも渡してるし」


「お姉ちゃん、だから恥ずかしい話はしないでってば!」


「お守りのどこが恥ずかしいのか?」


「女の子にとってお守りだよ」


 なんのことだ。俺はゆっくりと考える。


「あわわわわっ、隼人くんは考えなくていいからさ」


「でも、良かったね。お母さんに聞いてたかは別として、実際これを見て実感が湧いただろ」


「うん、お母さんの言ったことは間違いないけど、それでもちゃんと見たかった」


「俺、ずっとハラハラしてたんですが……」


「ごめんなさい」


「いや、ハラハラするのもいいもんだからね」


 優衣さんはそう言って笑った。


「わたしもハラハラしたよ。もし兄妹だったら、どう言葉かけようか悩んでたんだからね。本当に良かったよ。ほら、わたしの奢りだから、ご飯食べに行くよ」


「えっ、すぐに帰らないんですか?」


「記念日じゃん。こんなおめでたい日にお祝いしないでどうするの」


 優衣さんはそう言って笑った。


 俺はちさきをじっと見る。


「どうしたの?」


「いや、なんでも、……ないよ」


「あはははっ、変な隼人」


 俺はちさきと結婚できる。その事実がとても嬉しかった。




――――――




えと、そろそろ終わりが近づいてきました。


どうしましょう。


とりあえずもう少し伸びるなら、もう少し続けようかなとは思ってます。


どうですかね?

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