第12話 水着売り場(隼人視点)

「どうかな、この水着?」


 試着室から出てきた真香の姿を見て、俺は驚いた。ピンクのフリルのついた水着で、ボトムはミニスカートだった。それはいいのだが、ビキニで胸がやたらと強調されていた。身長が145センチしか無いから、豊満な胸がやたらと目立つ。俺は慌てて目を逸らした。


「いいんだけどさ。その……、ちょっとエロく無いか?」


「そうかな? このくらい普通だと思うんだけど」


 いや、確かに水着としては普通だ。でも、胸が大きいから、ビキニの水着はやたらとエロく感じた。


「ビキニやめて、普通の……、これとかどうかな?」


「えーっ、可愛く無いよ……」


 女の子の可愛いの基準がわからない。俺はちさきの水着のように清楚なワンピースタイプの水着の方が楽なのだが……。


「これでも、少し大人しいかな、と思ってるくらいなんだよ」


 真香はそう言って俺に近づいた。いや、そのさ、……さすがに……。


「高校生ぽく、なく無いか?」


「何言ってるんだよ。じゃあ、隼人はどんな水着が高校生ぽいと思うわけ?」


「うーん、そうだな」


 俺は真香に似合う水着を考えてみた。


「学校の水着とかどうだ?」


「もしかして、ふざけてる? スクール水着着て、彼氏とデートする娘がどこにいるのよ!」


「えっ、お前、それ着てどこか行くつもりなのか?」


「水着を選ぶのだから、夏休みは海水浴に行くに決まってるでしょ」


 確かにそうだ。水着を選ぶだけで、来年までとっておくなんてことはない。俺はその後のことを失念していた。それにしても海水浴とは……。


「東京湾で泳ぐのか?」


「馬鹿なの……」


 いや、学力なら絶対負けないと思うのだが……。まあ、真香の言うのは常識的な話なんだろう。


「泳ぐなら茅ヶ崎でしょ」


 湘南はマリンスポーツ中心の観光スポットだ。東京から電車を乗り継いで片道1時間半。朝早く出ても泳げる時間は限られる。


「なあ、車で行くならいいが、電車で日帰りだと3時間はきついと思うぞ」


 そもそも高校生二人きりのデートで、湘南海岸は遠すぎると思うが……。


「泊まりでいけばいいよ」


「はあ!?」


「だって、茅ヶ崎行くなら泊まりじゃ無いとキツイでしょ」


 泊まりと聞いてドキッとする。それは流石にまずいだろ。半年も付き合っている彼氏と彼女。本来ならまずくはないが……。間違いが起こりそうな気もした。


「なあやっぱり、茅ヶ崎は遠いって……、そもそも高校生のデートなら、海水浴じゃなくてプールでいいだろ」


「やだよ、折角の夏休みだよ。隼人とずっといたいよ!」


「駄目だよ。それだとちさきのとこにも行けなくなるし」


「なんで、毎日行くことが日課になってるのよ?」


「真香だって分かってるだろ! 最近は拓也もあまり行かないしさ。起きた時に誰もいなかったら嫌だろ!」


「ちさきちゃんのところは、お母さんがつきっきりで看病してるでしょ」


 確かにそうだが、俺はちさきが起きた時にどうしても目の前にいてやりたかった。


「どうして、彼女でないちさきちゃんにそこまで拘るのよ!!」


「そりゃ幼馴染だしさ」


「幼馴染なだけでしょ。彼女のわたしを差し置いて、ちさきちゃん、ちさきちゃんって……」


 真香の言うことも分かる。ちさきは拓也を選んだ。拓也があまり見舞に来ないからと言って、俺が代われるわけじゃ無い。だからと言って放っておけない。


「なんで、分かってくれないの!!」


 気がつけば試着室の前で水着姿の真香と喧嘩をしていた。周りの視線が痛い。


「あのさ、ちょっとまずくないか?」


「うん、そだね。……水着、これでいいよね」


 そのまま試着室に入り、ピンクの水着を買いに行った。出て来た真香は俺の隣に立つ。


「行こうか?」


「う、うん」


 俺たちは暫く無言で歩いた。真香は俺の方をチラチラ見てくる。なにか言いたげな真香。このまま帰す事はよくない気がした。


「スタバ、ちょっと寄ってくか?」


「うん!!」


 その言葉にニッコリと微笑む。真香は一番辛い時に助けてくれた。放置はできない。


 俺はアイスコーヒー。真香はフラペチーノを頼んだ。


「ちさきに関してはさ。妹みたいなもんなんだよ」


 俺の17年間の人生全て、ちさきと歩んできたものだった。物心ついた時、初めておままごとの相手をしたのもちさきだったし、虫かごを持ってカブトムシやクワガタを探しに野山を駆け回った時について来たのもちさきだった。どこに行く時も隣にちさきがいた。


 冷やかしたやつには、本気で殴りかかったし、ちさきが虐められてた時、俺はそいつを絶対に許さなかった。


「隼人とちさきちゃんが特別なのは分かるよ」


 幼稚園の時から一緒にいた真香なら俺とちさきの関係はよく分かるはずだ。


「ごめんな。ただ、真香が彼女でも、ちさきは特別だ。それは分かって欲しい」


 例えちさきが選んだのが拓也でも、俺たちの関係が変わることはない。毎日のお見舞いを欠かさないのも当然だ。


「ちさきのことが好き?」


 真香はフラペチーノを飲みながら、俺を真剣に見つめる。俺は思わず目を逸らしてしまう。俺の心を見透かされた気がした。


「何言ってんだよ……、ちさきは拓也の彼女だろ」


 だから、俺は真実から目を背けた。


「誰もそんなこと聞いてないよ。好きな気持ちは、彼氏がいたって関係ないよ」


「いや、それは……」


 関係ないわけないじゃ無いか。アイドルが好きと言うのとは違うのだ。


「隼人のちさきへの気持ちは好きですか?」


 この言葉に俺は内心ドキリとした。流石に彼女に言うべき言葉では無いと思う。


「いや、そんな事はないと思う」


「分かったよ。海水浴は東京の近くの海でいい」


 真香は何故か聞いた言葉と全く違う答えを返した。その後、喫茶店で色々と話したが、その日、真香から俺とちさきの関係について聞いてくる事はなかった。




――――――――




隼人の好きはなんでしょうか?


意味深な発言でした。


何故それ以上聞かなかったのか。


気になります。今後ともよろしくお願いします。


 

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