第8話 喫茶店(ちさき視点)
「ちさき、ありがとう!!」
喫茶店でいきなり真香が抱きついてきた。
「ごめん、ごめんね。ちさきから奪うようになって……」
「気にして無いって言えば嘘になる。でも、真香ならいい。それとね。あっそうだ。前言ってた話、もう少し詳しく聞きたいかな?」
わたしは休みになった次の日、真香から呼び出された。
「前、言ってた話?」
目の前の真香は不思議そうにわたしをじっと見た。
「うん、わたしの出生のこと」
「あっ、そうだ、そんな話あったね。わたしがお母さんから聞いてるのは、看護師の時の話ね。実際カルテとか見せられたわけじゃ無いんだけどね。隼人のお母さんは病院で男の子と女の子の双子を産んだ。だから、再会した時、別々のお母さんに連れられてたの見て、凄く驚いたんだって……」
真香は真剣な表情でわたしの方をじっと見た。
「なんかね、それを理由に奪ったようになってしまって、ごめんね」
わたしはゆっくりと頭を振る。
「前からね。お隣同士で同じ日に生まれるなんて、そんな偶然あるのか、って思ってたのよ」
「両親に聞いてないの?」
「うん、面と向かって聞くのが怖いってのもある。それにはぐらかされそうだし」
うちの両親は基本暖かく見守ってくれてる感じだ。もし、わたしと隼人との関係が近くなり過ぎそうになった時にやんわりと言われそうな気がした。
「そんなもんなのかな?」
「でも、隼人が幸せになって欲しいと言うのは本当だよ。こんな微妙なわたしじゃ、付き合えないし……」
「なんか騙したみたいで、そのごめん」
「騙して無いよ。実際、あの時の真香はわたしよりもずっと隼人のことを考えてた。だから、応援しようと思ったんだよ」
女性店員がわたしの注文したアイスコーヒーふたつを持ってきた。
「それにしても珍しいね。真香がアイスコーヒー飲むなんてね」
「うん、隼人とファミレスに2回行ったんだけどね。2回ともアイスコーヒーでね。注文する時に間があった」
こちらをじっと真剣な表情で見てくる。
「ちさき、四人でファミレス行った時、必ずアイスコーヒー二つって注文するでしょ。あの空気感が好きでね」
「あー、あれね。なんか恋人じゃ無いのにおかしいよね。ずっと癖でね。これからは気をつけるね」
「そう言う意味じゃなくてね。なんかあー言う空気感がいいよね、って思ってね」
目の前の真香はミルクを2個、砂糖を2個入れた。
「それ、邪道だって言われそう」
わたしが笑い出すと真香はバツが悪そうな顔をした。
「ダメ……かな?」
わたしは真香の隣に座り直して、そっと抱きついた。
「えっ、なっ、……なんで?」
「ダメ……、じゃない」
「そうなの?」
「うん。真香はわたしの代わりじゃ無いんだよ」
「わたしはちさきの代わりじゃ無い?」
「そう……、無理してわたしの真似しなくていいからさ」
「でも、それじゃあ、嫌われちゃう。わたし、まだ仮かのだよ!」
「仮かの、何それ?」
「とりあえず、仮かのからって」
仮かのって言葉に思わず笑ってしまう。隼人らしいな。要するにわたしに気を遣ってるのだろう。あんなことした後なのにね。
「そっか。でもね、真香にはわたしに無い。凄く良いところたくさんあるからね。そこを見せてあげて」
「わたしはちさきの真似しなくて良いの?」
「うん。そう言う関係じゃ、いつか壊れちゃう。隼人もそう言うのは期待してないよ」
真香は少しホッとした顔をした。真香はずっとわたしを追いかけてたんだね。
「良かった。じゃあ、シナモンミルクティー頼んでも大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫だよ! そう言う子供ぽいところとか真香の良いところだからね」
「うーっ、子供ぽい!」
「別にシナモンミルクがって言ってないよ。全体的にあー、真香だなって思うところがたくさんある。わたしにはなくて、真香にあるもの。見せていけば良いよ」
「ちさきにはなくて、わたしにあるもの?」
ふふふっ、真香にとってはこれから楽しい時が始まるのだ。わたしの影を追い続けることは、隼人を苦しめる。この呪縛から少しでも早く解放させてあげたい。
「ありがとう、少しホッとした気がするよ」
嬉しそうにニッコリと笑った。そうだ、その笑顔はわたしには絶対にない。隼人を異性と意識した時から、わたしは隼人と対等であろうとした。心を許せていなかったのだ。
「明日ね。デート行ってくるね」
昨日、ファミレスで勇気を出して、映画館に誘ったらしい。定番のデートコースだ。
緊張で会話が途切れたらどうしよう、と言う真香に映画館ならば、ふたりで見る映画を選んで、終わったらその話で盛り上がるから大丈夫だよ、とアドバイスした。
「映画館なんてありきたりだと思ってたよ。やはりちさきはなんでもよく知ってるね」
「そんなことないよ」
わたしのは体験に基づいたものでは無い。ただのネットからの受け売りなんだ。そう言う意味では真香はわたしよりも遥かに先輩なんだ。
「楽しんできてね」
「うん、ありがとう。それとさ……」
「どうしたの?」
「わたしだけ楽しむんじゃなくて、そのちさきも誰かいい人見つけて欲しい」
「無理だよ」
「拓也とかちさきのこと好きみたいだよ」
「知ってる。告白されたことあるし……」
「えっ、そうなの? 驚いた」
だから、拓也に協力してもらうのには少し躊躇した。でも、わたしの相手でホテルに行っても手を出してこないのは拓也しかいない。彼は絶対わたしがして欲しくないことはしない。
「拓也なら優しいし、良いんじゃ無いの、ってわたしが言えたもんじゃ無いけど」
「駄目なんだ。わたしはね」
隣に座る真香にはこの後の言葉は言えない。わたしはきっと隼人しか愛せない。
――――――――
早川未唯から拓也に変更しております。
よろしくお願いします。
次回、かなり話が動きます。
よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます