第6話 真相?(ちさき視点)

 わたしはホテル前で拓也と別れると急いで家に帰った。


「どうしたの?」


 母親の怪訝そうな表情。


「なんでも、ないよ!」


 二階に上がり最低限の電気だけをつけてベッドに横になった。隼人はまだホテルにいると思っているはず。流石に今、隼人に気づかれるのはまずい。


「キス、してたな……」


 小さな声で独り言を言う。それに呼応して胸がズキリと痛む。なぜこうなったのだろう。事の起こりは真香に告白されたことだが、大好きな幼馴染をはいそうですか、と譲るほど、わたしもいい娘ではない。


「知らなければ、良かったな」


 一月ほど前に真香から聞いた衝撃的な事実。


「わたしと隼人が実の兄妹……か」


 改めて声に出してみる。全く実感なんて湧いて来ない。


 わたしは一階に降りて父親をじっと見る。確かに似てはいない。


「どうしたんだ、ちさき?」


 不思議そうにわたしをじっと見る。


「パパ良く昔から言ってたでしょ。隼人とは結婚させんぞって、あれってどういう意味?」


「隼人だけじゃないよ。誰であれ可愛いちさきを嫁になんてやれるか!」


「それだけ?」


「他に何があるんだよ」


 父親の不満そうな言葉に母親がわたしに助け舟を出す。


「まあまあ、ちさきは隼人君好きかもしれないけど、高校生だからね。お父さんに許しをもらうのは、もう少し後にした方がいいわよ」


 大人になったら、わたしも味方してあげるから、と小声で言われた。


「パパもママも何か隠してることない?」


 父親と母親が顔を見合わせて、一瞬考えて微笑んだ。


「何を言ってるんだよ、パパもママも何も隠してないって」


 嘘だ。養子縁組の証拠はないが、少なくとも母親は不妊症に長い間苦しんできた。これは親戚が集まった時に何度も聞いた。わたしが生まれたのは奇跡だったそうだ。奇跡なんてそう簡単には起きない。


 隼人の母親から双子の一人を養女として貰い受けても全くおかしくないのだ。戸籍を取れば真相が分かるがわたしの戸籍は父親のいた広島にある。流石に取りに行くのは無理だ。


 ただ、今知ってることだけでも推測はできる。非常に仲の良いお隣さんが同じ日に同じ病室で産まれるというのは無理がある。しかも同じ病室の隣同士だ。だから、昔から怪しいと思っていた。


「なら、いいよ」


 もう少し大人になってから隼人と隼人の両親も交えて話し合いをもつのかもしれない。


 わたしは戸籍を取ってまで、真相を知るのが怖かった。それに郵送で戸籍を取れば両親にバレてしまう。両親が秘密にしてることを明るみにする勇気はなかった。


 ただ、杞憂の可能性もあることはある。しかしその可能性は途方もなく低く感じた。なら、隼人だけでも幸せになって欲しい。


 真香は看護士の母親から、出産の時の話のついでに、チラッと聞いたと言っていた。カルテなど確実な証拠があるわけではない。でも、真実を追いかけても、より絶望が大きくなると思った。


 だから、真香が告白してきた時に手伝おうと思ったのだ。わたしが結婚できないなら、幼馴染の真香と結婚して欲しい。


 二階に上がって電気をつけた。2時間ほど経っているから怪しまれることもないだろう。


「ちさき、いるか?」


 ベランダから声が聞こえた。


 わたしは驚いたが、平気なふりを装いベランダに立つ。五メートル離れた隣のベランダに隼人がいた。兄妹だとわかっていても好きなことは変わらない。胸にズキリと重い痛みが走った。


「あのさ……、その拓也とのこと応援してるからな」


 この言葉にわたしの目が潤んだ。あんな酷いことしたのに……。やばい泣きそうだ。


「う、うん、ありがとうね」


 それだけ言うとわたしは慌ててベランダから部屋に入り、扉を閉めた。


 拓也と付き合えたのに泣いてるなんて分かれば怪しまれるに決まっている。


 それにしても……。胸がズシンと重たい。気を紛らわせるため、テキストとノートを開けて月曜日の試験範囲をまとめる。


 いつも隼人と一緒に勉強してたから、一人で勉強をしていてもポッカリと穴の空いたような空虚さを感じてしまう。


 勉強は学生の本分だ。これで順位が落ちでもしたら、拓也と付き合って浮かれていたと思われかねない。


「集中しないとね」


 そう独り言を言って問題集を解いていく。毎日の予習復習だけは欠かしたことがないので、分からないところはなかった。


 それでも……、きっと隼人には勝てないだろうな。


「がんばろう!」


 そうだ。勉強することで隼人と気持ちを共有できるのだ。隼人と順位を競うことだけが、隼人と心を通わせられる唯一の方法なのだ。わたしはそう信じて、もう一度問題集に向かった。




――――――――――




真相編? です。

今までのちさきの苦しみはここを発端にしています。


親にもっと強く言うべきとかあるでしょう。


でも、それができないのもちさきです。


和の調和を人一倍気にするんですよね。


読んでいただきありがとうございます。

本当に嬉しいです。


隼人の気持ちはとか言われそう、、、。


本人は隼人の幸せは真香でも大丈夫と信じてますからね。


悲劇のヒロインになりきってるかもしれませんね

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