大好きな幼馴染が寝取られ、俺たち四人の関係はバラバラになる。数日後、残った幼馴染から告白され、寂しさから付きあった。寝取られが彼女の告白を成功させるための嘘だなんて、思ってもみなかった。

楽園

第1話 覚悟(ちさき視点)

 隼人、大好きだよ。


 この気持ちは一生報われることがない。でも、だからこそ大切にしたいものがある。


「ねえ、聞いてる凪乃なぎのちさき」


山川真香やまなかまなかちゃん、どうしましたか?」


 高校が終わった放課後、わたしは図書室に呼び出された。テスト前の図書室は人気がなく、しんと静まりかえっていた。


「幼稚園からのよしみでお願い事があってね」


「お願いごと?」


「あのね……」


「どうしたの?」


 真香は困った顔をしている。同い年だけども、わたしの方が絶対精神年齢が高いと思う。


「ねえ、ゆっくりでいいから、話してよ」


 そう優しく言うと真香は言いにくそうに一言なんとか言葉を紡ぎ出した。


「あのさ、……隼人のことだけど……」


「えっ!」


 真香が何を言いのか同じ気持ちのわたしには分かった。


 わたしと佐伯隼人は、同じ日に同じ病室の隣のベッドで産声をあげた。隼人の一歩後ろをついていくうちに、隼人のことが大好きになった。


「どうしたの? ちゃんと答えて」


 そして、幼稚園でかけがえのない友達に出会った。山川真香と早川拓也はやかたくやだ。真香は可愛らしい女の子に育ち、拓也はクラス一のイケメンになっていた。


「えっ!? 真香、拓也のこと好きだって言ってたよね?」


「ごめんね、ごめん!! もう自分の気持ちに嘘つきたくない!!」


 真香はわたしに頭を下げた。感極まって泣き崩れる。この瞬間、言いたいことがわかった。ずるいよ。そんなことされたら、わたし断れない。


「わたしね、ほんとは隼人が好き……、でもちさきも……」


 このつづきは分かる。だから、わたしは真香を抱きしめた。


「大丈夫、わたしは隼人を愛せないでしょ。わたしにとっては隼人は、友達であり……」


 ずきりと胸に杭を打ち込むような痛み。関係ない! わたしは隼人の好きだけど、愛してはいけない。


「ごめんね……本当にごめん。ずるいよね、わたしだけ……本当に最低だ!」


 最低なのはわかってる。でも、勝負だけを考えたらわたしは真香に勝てない。わたしは隼人と結婚できない。


「分かったよ。じゃあさ、隼人に告白しようか」


「無理だよ」


「どうして?」


 真香が告白すれば、きっと振られる。そしたら一生一緒にいれるんだ。でも、それじゃあダメだよね。


「分かったよ、じゃあさ……、わたしが拓也と付き合ってるということにしようか?」


「本当に!!」


 目の前の真香のオレンジの瞳がパッと大きく見開かれる。わたしはハンカチを取り出すと真香の瞳から溢れた涙をそっと拭った。


「うん、それなら大丈夫だよね」


 真香は思い切りわたしに抱きついた。わたしだって苦しいよ。瞳が熱い。わたしはそっとハンカチで目元を拭う。


「きっと、真香の大好きの気持ち、隼人に届かせるからね」


 わたしは計画を実行するため拓也を屋上に呼んだ。


「あのね……、今から隼人来るから、来たらキスして」


「えっ!!」


 拓也は驚いた表情で、わたしをじっと見た。


「ちさき、君は何を言ってるのか分かってるのかい!!」


 凄く怒ってわたしの両肩を強く握る。


「ちょっと痛いってば!!」


「なぜ、そんな事を言う。君が好きなのは……」


「だからだよ!! だから、キスしないといけないんだよ」


「ちさきの言ってる意味分からないよ。君は隼人が好きなんだろ!!」


「そして、真香も隼人が好き!」


「えっ!?」


 それを聞いて拓也は言いたいことがわかったのだろう。わたしの顔を真剣に覗き込んだ。


「ちさきら、真香のために隼人を振るつもりかい!」


「何を言われたっていい。わたしは隼人と同じくらい真香が大切なんだよ!! わたしだけ幸せになんかなれない!!」


 感極まっていたのだろう。わたしの強い言葉に拓也が頷く。


「そうか、君がその気なら俺は止めない。ただ、キスは振りだけだよ。好きでも無いのにキスはできない」


「分かった。それでいい。その代わりに……」


 わたしは絶対に成功するために布石を打つ。これを行えばきっと隼人はわたしを軽蔑する。


「嘘だろ!! そこまでしなくてもいいでしょ」


「うううん、これをしないと成功しないよ」


「なぜ、君はそんなに生きるのが下手なんだよ!」


「そんなの拓也だって同じでしょう。知ってるよ拓也がわたしのこと好きなこと……、その気になればわたしを好きにできるのに……」


「馬鹿言うな。大切な友達にそんなことできるか」


 本当に拓也は優しい。だから、頼んだんだ。


「いい人ね」


「惚れた?」


「それはないと思う」


「だろうね」


「ふふふっ」


「そうと決まれば計画通り行くよ」


「うん、ありがとう拓也」


「ありがとうで、いいのか?」


「うん、わたしにとってはありがとうだよ」


 ここで拓也はわたしをじっと見た。凄く悩んでいる顔だった。いきなり立ち上がり両手で自分の頬を何度か叩いて、こちらに振り返る。


「分かったよ。もう来るだろうから、ここで待機だ。失敗して、本心見せるんじゃないよ!!」


「分かってるって、わたしはその点においては自信ある」


「まあ、そうだよな」


 間違ってるかもしれない。隼人を傷つけてしまうかもしれない。それでも、わたしは真香を放っておくことができない。



◇◇◇


読んでいただきありがとうございます。

応援よろしくお願いします。


こちらがちさきちゃんのイメージイラストです。



https://kakuyomu.jp/users/rakuen3/news/16817330663799452142

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