正義なき力は必要なし
おじさんさん
第1話 超鋼アーマー雪雪(せつらい)八三式
私のおじいちゃんは大正生まれで武蔵と書いて(たけぞう)といいます。
私はおじいちゃんの事が大好きでした。
4月生まれの私に、おじいちゃんは春の様に暖かい人になって欲しいと「春香」(はるか)と名前をつけてくれました。
おじいちゃんの家に遊びに行った時は、おじいちゃんが出かけるたびにいつも一緒に行くとダダをこねていたそうです。
そんな私の頭をいつも優しい笑顔で撫でてくれました。
でも
私が小学3年の時にお父さんが女の人と出て行き、5年生の時にはお母さんが男の人とでて行きました。
私は...捨てられた子
それからはおじいちゃんに育てられいます。
おじいちゃんもいつか私を捨てるんだ。
「春香、出かけるのかい?どこに行くんだい?」
「おじいちゃんには関係ないわよ」
私は中学生になり、おじいちゃんを避ける様になっていきました。
学校が夏休みになっても周囲の人たちは両親の離婚の経緯を知っているから一緒に遊んだりする友達はいなかったけど、それでもあまり家には居たくなかった。
おじいちゃんは私が小さい頃、よく昔話を聞かせてくれました。
それは私が生まれる遥か前、この国が大国を相手に戦争をしていた頃、一方的に不可侵条約を破って占守島(しゅむしゅとう)に攻め込んだ時、1人の少年が敵の戦車に轢き殺されそになるところをおじいちゃんが戦車の前に立ちはだかり気合一閃!
戦車をひっくり返したそうです。
「まさか〜」
と言う私の顔をおじいちゃんはニコニコしながら見ていました。
昔の事を思い出しながら家の前の横断歩道で車が通り過ぎるのを待っていました。
翌る日、家の前の道路では大型の店舗の工事が近くであるらしく、毎日何台ものダンプが通ります。
横断歩道を渡ろうとする歩行者にクラクションを鳴らして威嚇をしている様でした。
「邪魔だ!チンタラ歩いてんじゃあねェ」
「貴様の方こそ遠慮して走れー!」
おじいちゃんは毎日、横断歩道の交通整理をしています。
歩行者に罵声を浴びている運転手に怯まずに注意をしているおじいちゃんの姿を私は冷静な気持ちで見ていました。
「おじいちゃん危ないよ」
「春香、大きくて強い物が小さく弱い者をいじめてどうする」
おじいちゃんはいつもそう、強いものが弱い者をいじめてはダメ。
(じゃあ、私は)
横断歩道の真ん中でぼんやりと考えていた私。
「はるかーあぶない!」
「え...」
ダンプが目の前に迫ってくる。
私は死を感じた。
このまま生きていてもいつか誰かに捨てられる人生。
今度は私から捨ててやる。
刹那、私の体が宙に浮いた。
ダンプに跳ねられたんだと思ったけど違っていた。
「おじいちゃん⁉︎」
私はおじいちゃんに突き飛ばされていた。
来年100歳になるはずのおじいちゃんのどこにそんな力があったのだろう。
おじいちゃんはとても優しい笑顔をしていた。
そして
ダンプに跳ね飛ばされた。
・ ・ ・
病院の廊下。
私は椅子に座っていた。
「どうして....おじいちゃん....私...捨てようとしてたのに」
私はあの時のおじいちゃんの笑顔が頭から離れられないでいた。
手術室のドアが開いた。
「おじいちゃんは」
「普通なら即死をしてもおかしくないのですが...恐るべき生命力です」
「じゃあ、おじいちゃんは」
「命に別状はありませんが、全身骨折ですし、まして高齢ですから、しばらくは絶対安静です」
お医者さんはおじいちゃんが生きている事に納得ができない感じでしたが私にひと通り病状の説明をして立ち去っていった。
「よかった」
安心した途端、いつ以来だろうか?
涙が私の頬を流れる。
その時おじいちゃんにとんでもない事が起きていたのは後になって知ることになる私でした。
・ ・ ・
戦車の大軍が迫ってくる。
「タケ君この場所は防衛できたから、ひとまず戻ろう」
「許せん、火事場泥棒め」
「仕方ない、あちらさんだって何かしらの戦果が欲しいのだから」
1945年8月18日占守島
一方的な不可侵条約を破棄してこの島に大国が攻め込んできた。
しかし守備隊がその進行に歯止めをかけていた。
敵の戦車が島の少年だろうか、逃げ遅れた少年へと戦車が迫ってくる。
「あのままでは少年が戦車に潰される!」
「タケ君!」
上官の止めるのもきかず走りだし少年を守る様に立つ武蔵。
「よう」
怯えて動けなくなっていた少年に笑顔で答える武蔵。
迫ってくる戦車にあろうことか正面から受け止めた。
「どっせい!」
力まかせに戦車をひっくり返す武蔵。
「そんなバカな!」
多分母国語でそう言ったのだろう。相手は驚いて戦車から逃げ出していった。
何より驚いているのは後ろにいる少年だろう。
「少年。ケガはなかったか?」
うなずく少年にニッコリと笑う武蔵。
「日本の未来は任せたぞ、俺はこれからの祖国の為に戦ってくる、願わくは弱い者、力のない人たちの為に何かを成し遂げてくれ」
戦場へと走り出す武蔵。
「夢か」
ベットの上で目を覚ますおじいちゃん。
誰かが立っていた。
私はあれから、おじいちゃんの代わりに横断歩道の交通整理をしていました。
ダンプは相変わらず傍若無人に走っています。
横断歩道を渡ろうとする小学生、しかしダンプが止まらないから、なかなか渡る事ができないでいた。
「止まりなさいって言っているでしょ〜」
いくら黄色い交通安全の旗を振っても止まる気配がない。
私が諦めかけた時。
見覚えのある人がそこにいました。
「おじいちゃん⁇」
全身骨折で動けないはずのおじいちゃんが横断歩道の反対側に立っていた。
「まったく、こんなじいさんに何をさせるんだか」
横断歩道を渡ろうとするおじいちゃん。迫るダンプ。
その時おじいちゃん。入れ歯だろうか?口にはめた。
「Put in!」
掛け声と共におじいちゃんの体が光に包まれた。
次に私が見た光景は片手一本でダンプを止めている。漆黒の鎧を着けている人でした。
「お、おじいちゃん?」
「いつまでも、デカい顔してパーパー走ってんじゃあないぞ」
「て、てめえこのジジイ」
ダンプの運転手は凄んでみせたが片手でダンプを止める化け物が相手。
ゆっくりと歩行者に気をつけて横断歩道を走り去った。
私は目の前の事がまったく理解できないでいた。
再び病室での話。
「話はだいだい聞きました。相変わらずですね」
男性が懐かしそうにおじいちゃんに話かける。
「誰だ。お前は?」
「あの時の約束を果たしにきました」
「約束だと」
「占守島であなたに助けられた者ですよ」
男性はおじいちゃんに助けてもらったお礼をいい。その後ある研究機関で開発したという兵器について説明を始めた。
「これは強化アーマーで体を守り常人の域を遥かに凌駕する力を発揮する事ができる装置です」
メタリックの銀色が光り輝くある物を差し出す。
「この超鋼アーマー雪雷(せつらい)八三式は単騎で大国の軍隊に匹敵する力があります」
「とんでもない物を作ったんだな」
「強大な力は、力のない者を守る為にこそ使われる...私が武蔵さんから教えてもらった事です、武蔵さんなら強大な力に負けない強靭な心があるから雪雷を使いこなせると思っています」
ある種の決意が男性から溢れている様でした。
「そして、武蔵さんに合わせて起動装置は趣向を凝らしてみました」
「わかった、俺の命。弱い者の礎の為にくれてやろう」
そんな話があったみたいです。
小学生に声をかける漆黒の鎧。
「まわりに気をつけてな」
手を振って走り去っていく小学生たち。
鎧が外れる。
「おじいちゃん」
やはり、おじいちゃんだった。
でもどうして?
私は...
私の方に歩いてくる。
「春香。ただいま」
いつも通りの私の大好きなおじいちゃんだった。
おじいちゃんは笑顔で私の頭を優しく撫でてくれました。
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