君は

non

第1話

 あれは、蝉の声も消えかかっている頃のことだった。夏の終わりかけと言えども、汗が吹き出してくるくらいの暑さは残されており、じっとりとした感触でTシャツが背中にひっついていた。いや、暑さのせいだけじゃないな。僕は下をのぞいた。フェンスを握る手には力が入り、顔のすぐ横を風が通っていく。僕は、学校の屋上にいた。


 学校に入学して半年。僕は普通に暮らしていた。学校は多分、比較的治安は良く、いじめなどもほとんどなかった。実際に、クラスでもいじめは一度もなかった。みんないい人たちだ。

 家庭環境も普通だと思う。今、2個下の妹が反抗期中だけど。僕は反抗期というか、親に言い返すことなんてなかったから、見ていて羨ましいと思うときもあった。両親とも働いていて、それなりの暮らしはできていた。

 それなのに僕は不安になることがある。まるで大きなものがこっちに迫ってくるような気がして、怖くて眠れないこともあった。それはいつも頭の片隅にあった。離そうとしても、無理だった。


 ガチャ、という音で我に返った。後ろを振り返って扉の方を見ると、猫がいた。...猫?

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