第6話 身体検査
「クロ、身体検査って何? 必要なことなの?」
「えっと……はい、定期検査みたいなものです。アクア様はお生まれになってもう一週間経ちましたので、初回の検査がありまして……」
「ふうん、そんなんだね」
僕は、あらかじめ考えておいた言い訳をして、アクア様を検査室へと案内する。
純粋なアクア様は僕の嘘を疑うこともせず、素直についてきてくださる。
そのことが、とても申し訳なくて、罪悪感で胸が張り裂けそうだ。
もし、検査で何か異常があったら?
それを理由にして、廃棄の命令が下されるかもしれない。
いや、異常があるなら直して差し上げたら廃棄を免れるんじゃないか?
いやいや、「直す」って何だ?
始祖コピーと違うことの何が悪い。
むしろ、だからこそアクア様は特別な存在なんじゃないか。
さまざまな考えが頭の中を駆け巡って、気が変になりそうだった。
「クロ、どこまで行くの? ここが検査室じゃないの?」
アクア様に呼び止められ、僕はハッとして立ち止まった。
いつの間にか、もう目的地まで来ていたらしい。
「検査室」と書かれたドアを開けて中に入る。
まだ誰もいない。逃げるなら今だ。
「アクア様──」
「来たか、iks-099」
僕がアクア様に話しかけたところで、始祖コピーの面々が検査室に入ってきてしまった。
もう、逃げられない。
「これから検査を行う。そのカプセルに入れ、iks-099」
「分かりました」
アクア様が真っ白で無機質なカプセルの中へと入っていくと、麻酔ガスが噴射されて、アクア様は綺麗な銀色の瞳を閉じた。
始祖コピーが操作盤のスイッチを押す。
途端にカプセルの中を幾筋もの光が照射して、アクア様が色とりどりに照らされた。
検査は即座に終了し、結果がディスプレイに表示される。
僕は表示されたさまざまな数値を目で追い……そして安堵した。
心配していた同期率は、いつの間にか完了していたらしく、「100%」となっている。
その他の数値も、若干ばらつきはあるが誤差の範囲だろう。
そのうえ、IQは始祖コピーを上回ってさえいる。
この結果を見る限り、廃棄にあたる理由は存在しない。
そう、思ったのに──。
「やはり数値がおかしかったな」
「IQが異常値だ。だからおかしな行動が目立っていたのだ」
「廃棄決定だな」
始祖コピーたちの言葉に、僕は耳を疑った。
廃棄決定だって?
なぜ?
どこにも問題はなかったじゃないか。
僕は思わず大声で叫んだ。
「なぜ! どうして廃棄なのですか!? iks-010様!」
いつも従順で大人しい僕の大声に、始祖コピーたちは驚いたようだった。
iks-010が不快そうな表情で返事する。
「廃棄の決定にエラー種が口を挟むな、不愉快だ」
鋭い眼差しで睨まれたが、そんなことに怯んではいられない。
「検査結果に問題があったとは思えませんでした。理由をお聞かせください」
まったく引く気配のない僕に、iks-010が溜息をついた。
「IQの値は問題だ。低すぎるのはもちろん、高すぎても異常だ。むしろ、高すぎるほうが制御しきれず厄介と言える」
「そんな……!」
「それに何より、今までの行動がやはり許容できぬ。エラー種のコロニーに入り浸っていたのも、お前たちを手懐けて反乱を起こそうと画策していたとも考えられる」
「そんなこと、あの方に限ってあり得ません!」
「ほら、私が今言ったとおりだろう。お前もiks-099に洗脳されつつある」
僕は愕然としてiks-010を見つめた。
もう、僕が何を言っても無駄だ。
むしろ、アクア様を庇えば庇うほど、アクア様は反乱分子として扱われてしまう。
無力感でいっぱいで、これ以上、言葉を発することができなかった。
「iks-099はこのまま眠らせておき、手続きが済み次第、廃棄を実行する。クロ、お前は検査結果をもとに書類を作ってまとめておくように」
始祖コピーたちは、それだけ言うと、長い裾を翻して検査室を出ていった。
うなだれる僕と、何も知らずに眠るアクア様を残して。
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