…………2-(5)
時間は、瞬く間に過ぎ去り、久し振りに深沢のマンションに来ていた。部屋のドアの前に、膝を抱えて座り込んでいた。
数時間前、連絡を入れてすぐ、
なつめは潤子に任せておけば大丈夫と、自分に言い聞かせ、放心状態の優美を自宅へと送り届けた。すぐに、潤子から点滴の後、マンションへ戻ると連絡が入ると、直ぐ様、自転車で戻って待っていた。
部屋のなかでは、微かに深沢と潤子の話す声が聞こえていた。潤子の〝もう少し眠っていなさい〟その声と同時にドアが開けられ、なつめの背中に当たる。
「あら、ごめんなさい…」
そっと壁の方へと場所を移動すると、膝を抱えた。
深沢は、大丈夫なのかだろうか。心のなかで呟いていると、
「もう大丈夫よ」
なつめの肩を叩いた。深沢の最近の生活を、潤子から聞かされた。なんでも、不眠が続いており、食事もあまり取っておらず、それなのに、激しいレッスンを続けたということで、身体の方が、両手をあげてしまったらしい。
「いい大人が、むちゃくちゃなことをするって、ドクターが怒っていたわ」
「ほんとだ」
「でも…、貴方も、ちっとも大丈夫そうじゃないわね」
潤子の優しいふんわりとした白くて細い手が、なつめの頬に触れる。ショックが大きすぎて、未だに立ち直れないでいる。
「何があったの、話してくれる?」
潤子に、競技会の話から、身代わりとして優美を連れて来た事、マンションに戻って来なかった事まで、ゆっくりと話した。
「貴方の所為じゃないわ」
「潤子さん」
「大の大人が、それもプロのダンサーが、自分の健康管理も出来ないなんて」
「でも!」
優美を無理に押し付けた事が、そもそも間違いだった。むきになって、あんなことを言わなければ、こんな事にはならなかった。パーティでの演技の評判を聞けば聞くほど、深沢のパートナーは自分しかいないって───。自分以外の誰かと踊ることが耐えられなかった。
「本当に宗司が好きなのね」
大きく素直に頷くなつめに、潤子は苦笑した。
パーティでの二人の演技を見ていれば、その思いはなんとなく伝わってきた。演技終った時の深沢の満面の笑みを、潤子は忘れられない。あんなに幸せそうに笑った深沢を見たことがなかった。それ程なつめを大切に思っている、優しげな眼差しだった。
本人に自覚はなかったかが───。
深沢の部屋のなかへと促したが、なつめは首を横に振った。
「どうして…」
「深沢は、テツって呼んでた」
自分よりも大切な存在がいるって思うと、側に寄れない。
「宗司がそう呼んだの?」
頷くなつめに、潤子は驚いた。それから隣に座り込み、深く息を吐き出すと、
「それ程、精神的に追い詰められていたってことね」
「………」
強引になつめの腕を引っ張ると、深沢の眠っているベッドの側まで連れて行った。心配だったなつめは、その青い顔を見て、縋るようにベッドの側に座り込んだ。
「あのパーティで、宗司を見た時、私はすっかり安心してしまったのよ。あぁ、もう宗司は大丈夫なんだって。そう思った私が、浅はかだったってことね」
「どうして!」
それは自分の所為だと、首を振り続けたなつめに、潤子はきっぱり言い切る。
「新…、なつめ君、現実を見なさい。あなたは、宗司のどんな存在なの?ただのパートナー?恋人?私は宗司から、あなたを愛していると聞いた訳でもない」
ただのパートナー──。そんな存在の薄さに、唇を噛み締めるだけだった。それでも、言える言葉はある。
「深沢がそう思っていたとしても、俺は…。俺にとっては、必要な場所なんだ」
「なら、どうして逃げたの」
真正面からぶつかっていけばいい。本当に必要だと思うなら、形振構わず、深沢が必要だと言えば良かった。結局は、優美を引きだし、形だけでも自分は深沢のパートナーだと、認めて欲しかっただけだ。
「………」
「結局は、何も分かっていない」
潤子は、そっと立ち上がると、キッチンへと立ち、勝手知ったふうで、紅茶を煎れる用意をしている。なつめが、何度目かのため息を吐いたところで、紅茶の香りが部屋のなかにまで漂ってきた。
「そこは、腰が冷えるわ」
リビングのソファを促され、なつめはトボトボと歩いていく。紅茶の入ったカップを手にした時、目の前に出された写真を見つめる。
「なに?」
そこに写っているのは、ジャケットの制服を着た深沢と、もう少し小柄な少年と、セーラー服を着た潤子だった。高校生だろうか?こんな頃からの付き合いだったのかと、笑っている潤子の顔を見た。なつめは落ち着いた状態で、その写真を見つめることが出来た。
「彼が…?」
写真の真中の彼は、深沢に背中から抱き締められ、腕を潤子に引っ張られ、幸せそうに笑っている。彼は、深沢を当然の所有物のような視線で見ている感じがした。か弱いそんな感じに見えるが、外見と内面は別ものに感じる。はっきりと真正面を見ている目の輝きが、彼を少しも弱いと思わせなかった。
「これが、哲よ」
潤子は、乱れた髪を手櫛で整え、紅茶を口にする。
「
『君のことは知っていたよ。僕が君を連れてきて欲しいって頼んだんだ。父さんや五人目の母さんはどうでもいいけど、君は僕の家族になってよ。宜しく!』
驚いたけど、家族になれそうな予感がしたの。半年しか年も違わないから、学年も一緒。一緒に高校受験もして、同じところに受かった。その入学式の時、哲はある一人の男に、一目惚れした」
潤子はクスクスッ笑いながら、写真を見つめる。その瞳は、写真の頃に戻っているのかも知れない。
「相手は、クラスのリーダーであり、なかなかのハンサムだから、女の子からの人気も高い。それは、一生懸命になって、宗司を追い掛け回した。初め、面食らっていた宗司も、次第に絆されたのか、哲の存在を認めるかのように、自分の懐のなかへと招き入れたの。それからは、気持ち悪いほどに、仲がよかったわ。私でさえも時々、邪魔だろうかって思うほど。とにかく、三人で楽しい時間を過ごしたわ」
「そうなんだ…」
「宗司はああ見えても、お金持ちのボンボンなのよ。周りから、甘やかされてますって感じだったわ。もう亡くなられたご両親は、会社を継いで貰いたかったらしいけど、勘当同然で飛び出したから。ダンスなんてね。気性の激しい、それこそ、後継者に向いてますって感じの妹がいるんだけど…。結局、彼女が会社を継いでいる。あそこも複雑なのよ」
潤子は独り言のように呟いている。
「…貴方が苦しんでいるように、宗司もこんなになるまで苦しんだ。それは分かって欲しいの」
「…うん」
「二人で創り上げたあのダンスのように…」
これからを二人で乗り越えて欲しい、そんなふうに聞こえた。
「哲さんは…」
「交通事故でね。それも成人式の日の帰り。打ち上げをした店に忘れ物を取りに行ったきり。今でもあの後姿を思い出すわ」
哲がいないのに、潤子があの家に残る事は耐えられなかった。四十九日が過ぎると、直ぐに高級クラブの貸マンションに引っ越して、逃げるように離れた。
潤子にとって、家族として思い描いた幸せは、哲と深沢の存在だけだった───。
「面白い話があったわ、そういえば。一度、クラスの連中が、哲のファーストキスの相手は、宗司だろうと噂をたてたことがあったの。みんな、黙認しているとはいえ、面白い興味のあることだったから」
「それで…」
「決まってるでしょう。哲は、宗司しか見ていなかったし、宗司が大好きだった」
なつめは、写真を戻そうとすると、その下に、もう一枚の写真があった。
「……っ!」
何も言わなくなったなつめを見て、潤子は優しく微笑んだ。何かの物音に気がつき、そっとその方へと視線を向けた。珍しく不機嫌な眼差しの深沢に、なつめは心配そうに見上げる。二人の側へと歩み寄ると、なつめの隣に座った。
「随分、昔の話をしているんだな」
「お陰で、夢の中で哲と話が出来たんじゃなくて」
深沢はクスッと笑いを漏らした。そして、なつめの手にしている写真を見つめ、
「情けないな。倒れたのなんて、何年ぶりだ?」
「本当に」
「…悪かった」
なつめに視線を向けると、その体を抱き締めた。
「いつも気付くのが遅いっていうか。大切なものを失ってから気付くんだ。幸せだと思う瞬間なんて一瞬だ。辛い事のほうが多い。心より身体の方が正直だ」
腕のなかで泣いているなつめを見つめ、その頭を優しく撫でた。その様子を眺めていた潤子は、小さく笑った。
「まだ、遅くないでしょう?」
「あぁ…」
やっと安心したように笑みを浮かべた。なつめはそっと深沢の手に、写真を乗せた。
「これは…」
「そうだ。成人式の時に、潤子が取った写真だ」
深沢が着ているのは黒のスーツに、胸にあのブローチが輝いている。隣に淡いパステルブルーのスーツを着た哲の胸にも、それとは違うが、セットと思えるブローチが輝いていた。あのブローチの意味が、やっと分かった気がする。
「あれは、彼からのプレゼント?」
「そうだが、少し重みが違う。哲は、ジュエリーデザイナーとして、初めてあれを作ったんだ。TETEU IJIMAブランドは、数ヶ月、それも極わずかな友人たちが、記念の祝いだと買ったものだ。すべてが遺品となってしまったがな。あいつも喜んだだろうよ」
潤子もクスクスッ笑いながら、
「それだけじゃないでしょ?哲が、宗司に渡したモノは、他のものとは違う」
深沢は大きく溜息を吐き出すと、潤子はそっと立上り、深沢の肩を叩いた。微笑みを浮かべ、安心したようにそっと部屋から出ていった───。
「俺にとって、哲との思い出は、沢山の幸せを貰った記憶しかない。毎日振り回されたが、それでも、あいつの側は居心地がよかった」
「分かる気がする…」
写真には、哲の表情を見て笑っている深沢は、本当に幸せそうだった。
「…倒れた時、おまえの声しか、耳に届いてこなかったのに。悪かったな、哲と間違えて。泣きそうな声が、どこか似ていたんだ」
そっと写真を見つめていたが、なつめの頬に触れた。
「………」
なつめは、自分の鞄のなかから、大切そうに一番奥に隠していた一枚の緑色のチケットを取り出した。それを、深沢の目の前に差し出した。
「これは、随分前のだな」
「…深沢に声かけられる前に、一度、あんたに会ってる」
「………」
チケットとなつめの顔を交互に見て、眉間に皺を寄せた。この緑色のチケットの日付と競技会名を見つめていた。確か、深沢がプロとして、活動していた全盛期だった頃だ。今から、四年ほど前のことになる───。
当時、まだ高校に入学したばかりのなつめは、父親が亡くなり、バレエもやめ、何もかもどうでもいいと思って、フラフラしていた時だった。何かに情熱を注ぐことに、もう飽きていた。優美に対する劣等感からかもしれないが、意地を張ることも面倒になっていた。無気力な毎日に、鬱陶しさを感じていた。優美とも喧嘩ばかりで、優美の父親から仲良くしてくれって頼まれた。ホテルの食事券をもらったなつめは、優美とそのホテルで待合せをしていた。その途中のことだった。
というよりも、ホテルへ行く直線の道路が、今日に限って、ものすごい渋滞になっていて、歩いているなつめの方が早いくらいだった。
「一体、なにがあるんだろう?」
そんなことを呟いていると、いきなり、近くのタクシーのドアが予想もせず、なつめの目の前で大きく開いた。あと一歩進んでいたなら、直撃は間逃れなかっただろう。
「──早く下りろよ!」
「あんなに距離があるのよ!こんな荷物があるのに、嫌よ!」
「ダメだ!受付に遅れる」
「もう!」
全身黒づくめの男が下りてきた。オールバックでいい男なのに、眉間に皺を寄せている。次に下りてきた女も、全身黒づくめで、綺麗にまとめた髪は、普通ではない。どうやったら、そんな頭になるのかと思えるほど、個性的な髪型である。
呆然としているなつめの足元に、次々と車のトランクから投げ出された荷物が置かれ、いつの間にか動けなくなっていた。
「どうして、おまえはいつもこんなに荷物が多いんだ!」
「仕方ないじゃないの!」
クソッと吐き出した男と、なつめは視線を合わせてしまって、まずいと思ったが、
「悪いね。でも、その悪いついでに、これを頼む」
「……えっ…」
女は、すでに一つの荷物だけを持って、歩いていっている。残りの荷物はまったく運ぶ気はないらしい。なつめは、大きな溜息を吐き出すと、渡された荷物を持って、背の高い男の後ろをついていく。
「あの女の所為で、いつも周りに迷惑が掛かる」
ぶつぶつ言いながら、颯爽と歩いていく男の背中を見上げていた。背筋のピンッと張った姿勢、どこか怖いほどの視線に、誰もが振り返っている。一体、この人は何をしている人なんだろうか。
それが始まりだった。
なつめは、荷物を持ったまま、彼の後をついていく。高級ホテルのロビーへと入ると、すぐに男性は知り合いらしき人たちに囲まれた。一体、ここで何があるんだろうかと、辺りを見回した。ロビーから下りるエレベーターから下を覗くと、そこは別世界だった。
「一体、ここは?」
色取り取りのドレス、派手なコスチューム、テレビで見たことがあるが、これが社交ダンスなのかと、思わず、腰がひけてしまった。
「あぁ、助かったよ」
「いえ。じゃあ…」
なつめは、ロビーと下階のギャップに、笑みを浮かべながら、そっと男から離れようとする。
「君、社交ダンスの競技会は、初めて?」
「まぁ…。少しびっくりです」
「だろうね。でも、君も綺麗な体のラインをしているね」
「バレエを…」
「成程。興味が湧いたなら、始めてみたらどう?お礼に、これをあげるからさ」
なつめの手に、競技会の入場チケットを乗せ、男は手を振って去っていく。そんな男に向かって、先程の女が遠くから叫んでいる。
「深沢、受付!」
フカザワ?
なつめはそのまま、その世界へ下りるエスカレーターへと、足を乗せた。
「──あぁ…。思い出した!俺を顎で使い捲った女なんて、菜摘の時だろう!あの女、信じられないくらいに、我が侭だったからな」
なつめの顔をジッと見つめ、少し幼さを加えたら、確かに記憶が蘇った。懐かしいと見て笑った。
「あの時の、そうか!そうだよな」
深沢は可笑しそうに、ずっと笑っている。まさか、そんなに前に出会っていたとは、全く気付きもしなかった。あの時のなつめは、もっと細かったし、髪も少し長かった。深沢は、ボイッシュな女の子だと思っていたくらいだ。だから、ピンッとこなかった。
「あの後、競技会を見たか?」
なつめは笑いながら、小さく頷いた。
あの時の深沢が忘れられなかった。
はだけた黒のシャツに、焼けた小麦色の逞しい胸、指先までも綺麗で、思わず、見惚れてしまっていた。その会場にいる人たちも一緒で、深沢の演技は、見るものを惹きつけて放さなかった。決勝戦まで見ることができ、深沢は三位入賞だったが、満足しているような顔ではなかった。それでも、応援に来ていた人たちの輪のなかに入ると、楽しそうに笑っている。輝かしいステージが、とても似合う男だった。
その深沢との距離は、とても大きなものがあった。それでも、なつめはもう一度、深沢に会ってみたくて、探し回った。けれど、会場では、結局会うことはできなかった。
「オレ、会いたくて。競技会があるたびに、いろんなところに出掛けて行った。やっとあんたのいた教室に辿り着いた時、あんたはもういなかった」
なつめのすれ違いに、大きな溜息を吐き出した。
「…だろうな」
深沢は、教室から離れ、別の地域の競技会ばかりに出ていた。確かに、世話になっていた教室から、美少年が尋ねてきたと連絡があったが、全く記憶になかったから、そのままにしておいた。その時は、ここに自分の教室を開くことしか、考えられなかった。
「………」
「始めは、憧れだった。踊っている時のあんたは、最高で…」
なつめから伸びてきた手をぎゅと掴み、
「知ってる?会えなくて、探し回っていると、今度は本気で追い掛けたくなるんだ」
探して探し回って諦めかけた時、偶然迷って間違えて入った通りに、感じのいい店があった。これはラッキーだと、店の外見を眺めて歩いていると、店内の窓から誰かが見ていた。
「………」
反射で良く見えなかった。じっと眺めながら、その人物と目が合うと、驚いて言葉もなかった。我を忘れたかのように、深沢を凝視した。そこから偶然はどんどん重なっていく。隣の町内に住み、いつの間にか、教室まで開いていた。
「再会して、一緒に暮らし始めて、やっぱりすぐに好きになった」
なつめの顔を覗き込むと、そっと柔らかな唇にキスをした。深沢の背中に手を回し、その胸に顔を埋める。
「俺、あんたの側にいたい」
「なつめ…」
「宗司が好きだから」
なつめの言葉が、深沢の弱った体に温かく染みとおる。大切なものが出来た時、失うのが怖いと何処かで思っていた。だが、それ以上に、自分に必要な物として、それはもうここに存在している。一番大切なものを失いたくない。
「おまえがいないと、寂しいよ」
「宗司…」
「それに、俺のパートナーはなつめだけだ」
分かり切っていた事だ。あの完成度は、なつめとしか成しえないことだ。
「もう、何処へもいくな」
「……うん」
そっと何度も優しいキスを繰り返すと、なつめは深沢の体を押し倒した。上から深沢の顔を見下ろした。
「……っ…!」
ビクッと何かを感じたなつめは睨みつけ、
「さっきまで死んでなかったか?」
「生き返ったんじゃないか」
思わず、逃げようとした体が抱き締められる。熱い塊を擦れ合うように腰を動かした。その熱さに真っ赤になって、
「駄目だろう…」
「大丈夫さ」
「でも……」
「このまま眠れるか…?」
耳元で囁かれ、顔を覗き込まれると、体温が上がっていく。煽られるかのように、熱い塊が擦れ合う。
「あっ…、熱っ…」
「ほら、脱がしてくれ」
真っ赤になりながら、シャツを脱ぎ捨て、反応してしまった自分自身を隠しながら、深沢の服を脱がした。
「あ、なつめ。あれを持ってきてくれ」
眉間に皺を寄せたが、仕方がないとベッドルームの引き出しから、ゼリーの容器を持ってきたが、改めてソファに座っている全裸の深沢を見て、思わず固まった。
「やっぱりやめた」
「おいおい…」
逃げ出すなつめを笑いながら掴まえる。深沢の熱い体に抱き締められると、頭がぼうとしてくる。
「あっ……」
「これから、これから…」
ソファに座る深沢の腰を跨ぐ形に導かれる。
「いやだって、こんな格好…」
「ほら、なつめ…」
唇を深く合わしながら、太腿を掴まれ、引き寄せられる。キスから逃げようとすると、腰を強く抱き締められた。深沢の熱棒となつめ自身が直接触れる。溢れた蜜が絡まるように、深沢の大きな手が強弱つけて握りこむ。
「ンっ…、あっ…」
甘く鼻から抜けた声に、深沢は笑みを浮かべる。濡れた先端を弄ると、なつめの体が撓る。その体を眺めながら、立ち上がった乳首をゆっくりと口に含む。反応を楽しむかのように、強く吸った。
「…くっ、あっ…」
なつめの手が深沢の頭を抱き締めた。舐められているのを見ながら離れようとすると、腰を彷徨っていた手が強く掴む。ゼリーで濡れた指が後ろへと入ってくる。
「あぁ、まだダメだって…」
抵抗しても、何度もゼリーを足しながら、もっと奥に指を入れてくる。乳首を強く吸いながら、指を増やしていく。少しの抵抗があるものの、なつめ自身を強く擦ってやると、蜜を溢れさせる。深沢の唇は、いつ間にか体をずり下げ、なつめ自身に口を寄せた。熱い息を吹き掛けながら、先端を強く吸った。
「あぁ、あぁ、あっ…強い!」
後ろの指の動きに合わせて、なつめの腰が揺れる。その動きをもっと激しくしていくと、堪えられなかったなつめが熱い高まりを吐き出した。
「あぁっ…、ああぁ……っ!」
瞳を閉じて、強い快感と気だるさに、ゆっくりと深沢の腕のなかに落ちてくる。優しく抱き留めながら、その蒸気した顔を見つめる。腕を掴み、背後から抱き締める。
「あっ、ヤダッ…」
まだ、深沢の胸のなかで甘えたかったなつめは、そっと向きを変えようとした。その時、左右に開かれた最奥に、熱棒がゆっくりと押し入ってくる。溢れたゼリーで抵抗する間もなく、腰を引き寄せられ、
「……あっ、くっ…」
ソファに縋るように両手を付いたまま、深く挿入される。深沢は自分の熱を奥まで含んだその様子を上から見つめる。綺麗な背中をなぞり、惚れたその体を制していることの昂ぶりを抑え、なつめの息が整うのを待った。熱棒がよりに硬くなり、連動するように中がきつく閉まる。思わず息を詰めると、笑みを浮かべた。
「そんなに締めるな。もっていかれる…」
「だって…」
なつめ自身を掴まえ、溢れている蜜を先端に塗り込むと、力が抜けていく。一度引いた腰を、再度奥深くまで入れる。深沢の侵入を拒みきれず、ズルズルと飲み込んでしまった。
「あぁ、深い…んんッ…」
腰の上に座っているような状態は、深沢の腰が足の間に入っているため、足を閉じるどころか開かれたまま、揺すられる。中心を握られ、膝が宙に浮いた状態で突き上げられる。
「あっ、あっ…、んあぁ……」
声が抑えられない。体重を預けたまま、奥深くの感じる場所に当たった。熱棒を飲み込んだ状態で、そこを激しく抉られる動きに、奥歯を噛み締めて、その動きを封じるかのように締めた。
「…クッ、いい締めだな…」
「あっ、んんっ…、ヤダッ!」
更に腰が持ち上がる。強烈な刺激に抵抗できず、なつめは甘い息を吐き出した。深沢の激しい動きに、高みへと一気に昇りつめる。ソファに爪を立てて、溜め込んだ熱を吐き出した。
「あぁ、あぁ、あああぁっ…!」
「なつめ、愛している」
耳元で呟かれた。
ハッと深沢を振り返ろうとした時、体内で高まりが弾けた。ピクピクと動くリアルな感覚と、何度も吐き出される熱に、熱棒を強く締め付けてしまう。その熱さに、なつめはきつく目を閉じた。ゆっくりと抜かれると、驚いた顔のまま、深沢の顔を見つめる。
今なんて言った?
「………」
穏やかな表情の深沢は、満足げに笑みを浮かべている。なつめは体内から流れ出る違和感に顔を顰めた。
「…あとで洗ってやるから」
なつめの体を抱き上げ、風呂場ではなく、寝室のドアに手を掛ける。
「風呂場はあっち…」
「まだまだ足りない。風呂場は最後…」
「えっ!最後って…」
ドアを開け、ベッドに優しく押し倒されると、力の入らない足を更に開かれ、抵抗空しく直ぐに遠慮もなく挿入される。
「あぁ…待って!」
「待てない」
まだ先程、深沢の吐き出したものがある。それを奥まで押し込まれる。その感覚に、なつめは深沢を睨みつけた。
「責任取れ!」
「なつめなら、どんな責任でも取ってやるさ」
真剣にいう深沢に、なつめの顔が幼い真顔になる。取り澄ました表情をしていても、二〇歳の幼さに愛おしさが増した。そっと笑みを浮かべ、頬を流れた涙を拭ってやる。
「…愛している。気付いたのが遅かったがな」
「遅いよ…」
「あぁ、悪かった」
「俺も…、その言葉ずっと待っていた」
片思いのようで、不安で仕方がなかった。深沢の唇にキスをしながら、熱くなっていく体を持て余すように、深沢の腰に長い足を絡めた。もっと奥まで、もっと深く欲しい。何度も抱かれ、帰る場所に帰ってきたように、安心して意識を手放した。失神するように眠っているなつめの唇に軽いキスをして、深沢は久しぶりに深い眠りへと落ちた。
三日間熱くて甘い時間を過ごし、なつめは深沢のマンションに全ての荷物を運び込んだ。
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