#8 いつかの君へ

#8 いつかの君へ


 大宗おおむね 平善へいぜんは息を呑んだ。のどがゴクリと音を立てる。

 町山先生の話はとても現実の出来事とは思えなかった。

 こんな恐ろしい事件が自分が通っているこの学校で起こっていたかと思うと不気味だった。

 町山先生は続けた。


 「その後、当時の生徒会長、火影ほかげ杏那あんながやってきて、生徒も教師も全員その場から離れるよう指示された。

 私は生徒たちを連れて校庭へと避難した。


 生徒たちは突然の出来事にかなり混乱していた。

 あまりの恐ろしさにパニックになっている生徒も多かった。


 私はそんな生徒たちを落ち着かせるのに必死だった。

 私自身、突然の出来事にかなり動揺していたが、私がパニックになっては元も子もない。

 無理やりにでも「大丈夫だ」「安心しろ」と生徒たちに、そして自分に言い聞かせていた。


 少しして、けたたましいサイレンの音とともに救急車とパトカーがやってきた。

 正門に止まったパトカーから、屈強な肉体の警官がにどかどかと校内入ってきた。

 あんなに何台もパトカーが来るのを見たのは初めてだったよ。

 警察は先生と話したり、無線で何やらやりとりをしていた。


 学校という見慣れた景色に、パトランプが光る。

 先生と子供たちだけが存在する校舎に警官がいるあの光景は、今思い出しても異様な光景だった。

 不謹慎にもドラマみたいだなと思った。


 教頭の指示で怪我のない生徒は家に帰した。

 その後、警察、校長、教頭、そして生徒会長の火影杏那が色々と話していたが私はなにも聞かされなかった。

 私はそのあともしばらく怪我をした生徒の手当てを手伝ったり、保護者と連絡を取ったりしていた。


 その数日後、数週間前から発生していた壇ノ浦学園の生徒が殺害された事件についても

 あの少女Aの犯行であることが知らされた。ものすごくショックだったよ。」


 町山先生はそこまで話してぐびっとお茶を飲んだ。

 「これが私があの日見た全てだよ。あまり気持ちのいい話ではなかったかと思うが。」


 「いえ、話していただいてありがとうございました。」

 たった数分話を聞いていただけだったが、ものすごく長い時間が過ぎていたように大宗は感じた。


 「ところで犯人の・・・少女Aの動機はなんだったんでしょうか。」

 大宗は尋ねた。


 町山先生は一息ついて、言った。

 「・・・・・いじめだよ」


 「いじめ?」


 「少女Aは被害者の生徒達からいじめを受けていた。いじめっ子たちに復讐するために殺したんだ。」



***


 壇ノ浦学園闘技場は大きな歓声に包まれていた。

 中央のフィールドでは飛来悠李と平等院霊否による壮絶な攻防が繰り広げられていた。


 飛来は翼でフィールドから7メートルほど上空を旋回しながらエアキャノンを連発する。

 霊否は突風を回避するのに精一杯だ。

 

 飛来がエアキャノンを発射するたびにフィールドは突風に包まれる。

 風は観客席まで届き、突風を受けた観客は歓声を上げながら盛り上がっている。

 

 ちょこまか逃げやがって・・・小賢しい

 飛来は上空で霊否を見下ろしながら思った。


 飛来はこれだけエアキャノンを打っているのにいまだに霊否を戦闘不能にできていないことに苛立ちを覚えた。

 

 ケリュケイオンの銃口を霊否に向け、よく狙いを定める。

 霊否は剣を構えながら、飛来の動きを観察していた。


 こいつ・・・・・

 飛来は思った。


 決して運動神経がいいわけではないが、勘がいいというか、とっさの判断に優れているな。

 俺がエアキャノンを打つ瞬間を見て、素早く回避。直撃を避けた後に地面に這いつくばることで突風によって体が吹き飛ばされるのを避けている。


 ならば・・・・!

 飛来はエアキャノンを連発する。


 一気に5~6発撃ちこんで、想定される奴の行動範囲すべてに突風を打ち込んでやる!


 「わあっ!」

 広範囲攻撃に霊否は避けきれず、場外へと吹き飛ばされてしまう。


 フィールドの外から「ふぬっ」と言いながら霊否が這い上がる。剣で体を支えながら舌打ちした。


 もう頭きた。

 攻撃を受けたからではない、あたしの服や髪型だ。


 かわいいゴスロリファッションがいままでの攻撃でもうボロボロだ。帽子もどっかへ飛んで行った。

 今朝ちゃんとセットしてきた髪も、風でボサボサになった。めっちゃ時間かけてちゃんとオイルつけてアイロンしてきたのに。

 たぶんメイクも崩れてる。今日は体育祭で大勢から見られると思っていつもより時間かけたのに。

 こんな変な恰好見られてめちゃめちゃ恥ずかしい。


 霊否は頭上の飛来を睨みつけた。


 どれもこれもあのエアキャノンとかいう攻撃のせいだ。

 あのイキリ野郎、文字通り上から目線で余裕かましやがって。ふざけんなよまじで。

 あたしの苦労も知らねぇで。


 霊否は電光掲示板を見た。

 旗はもう何回か取られている。さらに霊否の除外反則による失点で得点は14-0

 もうかなり点差が開いている。こっちの得点は0点。


 せっかく可愛くなってたあたしをボロボロにして醜態晒しやがってよぉ・・・・


 霊否は剣を杖にしてゆっくりと立ち上がる。


 あの野郎・・・・ぜってー引きずり降ろしてやるからな。



***


―数日前―


 「スタメンも決まったところで、作戦会議だ。」

 体育祭のトーナメント表が発表された直後、上星はバトルフレームコロシアムの作戦会議するといって霊否と姫子を集めた。

 

 「相手はあのプリ―ムス・パールスだ。対して俺たちはバトルフレーム初心者が二人もいる弱小チーム。普通に戦ったんじゃ恐らく俺たちは1点も取れずに負けるだろう。」

  

 霊否はむくれながら「なにを」と言った。

 姫子は口をとがらせて「初心者で悪かったな」と言った。


 上星は続けた。

 「恐らく向こうはストライカーに飛来悠李、七海入鹿。ディフェンダーに玖源さんをつけてくるだろう。あの3人から旗を取って得点するのはほぼ不可能だ。

 俺達がプリ―ムス・パールスに一矢報いる手段があるとすれば一つだけ・・・

 プリ―ムス・パールスの3人のうち誰かを戦闘不能にして20点を取る。これが唯一の勝ち筋だ。」


 戦闘不能・・・?

 霊否と姫子はごくりと息を飲んだ。


 確かに戦闘不能による配点は”20点”とかなり高い。旗を奪って1点つづ得点するより遥かに効率がいい。

 しかし戦闘不能にするということはプリ―ムス・パールスの誰かと接敵し、相手を失神させる必要があるということだ。


 「旗を取るよりそっちの方が難しくないか・・?」

 霊否は言った。


 「まあ、最後まで聞いてよ。

 作戦はこうだ。玖源さんはディフェンダーだからフィールドのセンターラインより手前に出てくることはない。

 よってセンターラインより自陣側で戦えば敵は飛来悠李と七海入鹿の二人だけに絞ることができる。

 この二人のいずれかに俺たちのチームが持っている最も火力の高い攻撃をぶつける。」


 「火力の高い攻撃?」

 霊否は首を傾げた。


 「あっ」

 姫子が閃いたように言う。


 「え、なにヒメ」

 と霊否


 上星が姫子を見て頷いた。


 「え、ちょっと二人だけでわかり合わないでよう」

 霊否が二人を見て言った。


 「俺たちが唯一持っている最強最大の攻撃、霊否の剣だ。」

 上星が言った。


 「霊否がお父さんから貰った剣は、火影刹那が持っていた勾玉と接触することで本来の力を発揮する。

 一振りで校舎の壁を破壊するほどの高い攻撃力を持つ。風紀委員VS生徒会の戦闘ではその攻撃により、あの火影刹那を一撃で倒した。


 七海入鹿はあの肉体と並外れた身体能力で、どんな体制からでも素早く強力な蹴りが来る。彼女の蹴りを一撃でも食らったら間違いなく失神して戦闘不能だ。

 霊否は細いしパワーもスタミナも無いから七海と1対1で戦うのは分が悪い。」


 「ねえ、さっきからあたしのことディスってない?」

 霊否が言った。


 上星は続けた。

 「七海入鹿は俺が押さえておく。そして霊否が飛来悠李と1対1で戦うことができる状況を作る。

 飛来と戦って、隙をみて剣の最大火力で攻撃。奴を戦闘不能にして20点が取れれば俺たちの勝率は一気に上がる。

 それに飛来悠李は生徒会との戦闘を見ていないから剣の強さは知らない。奴の虚を突くことができる。」


 「・・・・・・」

 霊否は自信がなかった。でもこれしか方法はない。霊否は覚悟を決め、頷いた。


 「攻撃の直前まで勾玉と剣は接触させずに離しておけ。

 この攻撃は初見で相手の意表を突くことに意味がある。相手に俺たちは何の攻撃力も持っていないと思わせるんだ。

 攻撃の直前に勾玉をはめ込み、一撃で決めろ。もし失敗したら攻撃が読まれ次はない。いざというときに使うんだ。」


 「おうよ」


 「チャンスは1度きりだ。俺もなんとか持ちこたえるから。頼んだぞ、霊否。」



***


―現在―

 

 飛来悠李を戦闘不能にして20点を得る。それがあたしたちがプリ―ムス・パールスに勝つ唯一の方法だ。


 「それはそうなんだけど・・・!」


 剣で攻撃しようにも飛来に接近しなければならない。しかし飛来は遥か上空にいる。

 ここから剣振って衝撃波とかで攻撃できないかな?いや、失敗したら次は無いんだ。確実な方法を取らなきゃ。


 作戦会議の時は、飛来や七海にも異能があるなんて知らなかったからなあ・・・


 「さぁーっ!白熱してきたぞ、学園最強のプリ―ムス・パールスVS謎の転校生の対決!」

 その時、海星ひとで 萊夢らいむがフィールドの外でマイクを持ちながら叫んだ。


 「戦いは七海入鹿vs上星和成、知念姫子、そして飛来悠李vs平等院霊否の二つの局面で展開されている!

 上空から遠距離攻撃を仕掛けてくる飛来に対して接近戦に持ち込もうとする平等院!

 攻撃範囲外にいる飛来を果たしてどう攻略するのかぁーーーー!?」


 闘技場の巨大なモニターに急に霊否がアップで映った。

 

 「はぁ!?おい、撮ってんじゃねーぞ!」

 霊否はボサボサの髪の自分が突然大画面にどアップで投影され、恥ずかしくなった。


 霊否は周囲を見回し、カメラを発見。落ちていた石をカメラに向かって思い切り蹴り飛ばした。

 石はカメラのレンズを直撃。同時に闘技場のモニターにも石が当たった映像が映し出される。強い衝撃が走った後に大きなヒビが入る。

 観衆が「おおーー!」と沸いた。


 「レンズが割れた!?」

 大衆は大盛り上がりである。


 「おぉーーーっと、平等院霊否!、かなりキレている!」

 海星が言う。


 霊否は歓声を無視し、飛来を睨みつけた。


 まずは飛んでるあいつに届かないと話にならない。

 ちょこまか動いてるせいで視界にもとらえずらい。そのため目で見て動きを止める能力も封じらる。


 「おい、メドゥーサ!そういえばあたしにも羽生えてるけど、これって飛べるってことだよな!?」

 霊否は自分の背中に生えている翼を指さして言った。


 試しにジャンプしてみると数メートル高く飛び上がった後にすぐに落下した。「いだっ」普段より少し高くジャンプできただけだった。


 「そんな小さい羽で飛べるわけないじゃん!」

 メドゥーサが出てきて、カラカラと笑いながら言った。

 「前は翼が大きかったから飛べたけど、今は無理だよ!」


 「それを早く言えよ!たんこぶできたわ」

 霊否は後頭部を押さえながら言った。


 「私が言う前に霊否ちゃんがジャンプしたんじゃん!」

 霊否とメドゥーサが睨みあっていると、


 「おっと、平等院!?一人で何を喋っているのか・・・・」

 海星が霊否の様子を実況した。


 すると霊否が海星の方を指さして吠えた。

 「てめえもさっきからうっせんだよ!ミスコンだかシスコンだか知らねえけどちょっとスタイルいいからって調子こいてんじゃねーぞ!」


 突然、霊否に突っかかれた海星は「はぁ!?ちょっと私にキレないでよ!」マイクを外してそう言い返した。


 「うるせ!巨乳は全員あたしの敵なんだよアホが!」


 「きょ・・・っ!?」

 海星は驚き、顔を赤らめながら両手で胸を隠した。


 霊否は考えた。飛んでいる飛来にどうすれば届くのか。

 飛来がいま飛んでいる高さはだいたい5、6メートルくらいか・・・・

 「前は飛べたって言ったよな」

 霊否の問いにメドゥーサは頷くが、


 「そうだけど、いまは頑張ったとしても3メートルくらい高くジャンプできるくらいで、すぐ落ちちゃうよ。」


 「いや、それで充分だ・・・・!」


 そういうと霊否は七海と上星・姫子が戦ってるところへ走りだした。


 「ウェボシー!」と叫ぶと、上星に目で合図した。


 「おうよ!」七海の隙をみて上星は両手を組んで屈む。霊否はそこへ助走をつけて飛び込み、上星が組んだ手の上に足を乗せる。


 ウェボシーのサポート+あたしのジャンプ力+・・・・・・


 霊否は2メートルほど高く飛んだ。「ほんで・・・・・・!」

 翼に力を込める。すると翼は大きく広がり、バサッと音を立てて力強く飛び上がる


 ”翼による浮力”


 飛来のいる位置までグンッと近づく。飛来は驚いてさらに上空へ移動しようとするが、霊否は行かせるかと手を伸ばして飛来のズボンの裾を引っ張って引きずり降ろした!


 「届いたぜ、イキり野郎!!」


 霊否は空中で剣の溝に勾玉をはめ込んだ。




***


 「いじめですか・・・・?」

 大宗は聞き返した。


 「ああ、だがいじめがあったことは伏せられている。当時の校長が学校の評判が下がることを恐れたんだ。」


 大宗は考え込んだ。いじめか・・・・・

 「火影刹那が言っていた、いずみ 美月みずきの呪いというのは?」


 「連続殺人の被害者の一人に泉美月という子がいた。3回あった事件の最後の被害者だった。

 彼女の殺された方は3つの事件の中でも特に残酷で猟奇的だった。なんせ彼女はいじめっ子グループのリーダ的な存在だった。

 いじめられていた少女Aにとって最も強い憎しみを抱いていた人物だったのだろう。


 泉美月の太ももや手には無数の切り傷があった。恐らくさんざん痛みに苦しめられながら殺されたのだろう。

 彼女の殺され方があまりにも無残だったため、この世を恨んで怨霊が出るのでは噂され、時代とともに噂は徐々に肥大し

 泉美月の呪いと言われるようになったのだ。」


 「そういうことでしたか・・・・」


 「不思議なのが、少女Aがその後どうなったのか誰も知らないんだよ。」


 「知らない?」


 「少女Aは事件発生時、君と同じ17歳だった。

 未成年が犯罪を犯した場合、逮捕後に検察庁へ送致、警察から取り調べを受け家庭裁判所へ。この場合殺人なので大抵の場合起訴され刑事裁判所へ送られる。

 その後少女Aにはなにかしらの処罰が下され、有罪が確定すれば少年刑務所へ送られる。少女Aは18歳未満のため、少年法により恐らく死刑にはならない。


 だが、少女Aにどのような処罰が下されたのかという情報は一切明かされなかった。それどころか事件発生後からの少女Aの所在さえも明らかになっていないんだ。


 マスコミやメディア関係も事件発生直後は大々的に報道していたが、数週間後には事件に関して一切報道がなくなった。

 ニュース、新聞、雑誌、事件について取り上げた書籍などの一切がこの世から姿を消したんだ。まるで最初から事件そのものがなかったかのように。」


 「火影家の圧力がかかったんですね」

 大宗が言った。


 町山先生は黙って頷いた。

 「もし少女Aが生きていたとしたら、今何を考え、どんなことをしているのだろうな。」



***


 大宗は町山先生にお礼を言い、職員室を後にした。かれこれ40分くらい話をしてくれた。


 大宗は一人で廊下を歩きながら思考を巡らせる。

 火影家は事件について重要な何かを隠している。それはなんだ?

 事件後に少女Aの行方がどうなったのか明かされていない。

 火影家は何を隠してる?


 火影刹那にいくら尋問したところで彼女は何も話さないだろう。


 あとヒントを得ることができるとすればなんだ?

 少女Aの本当の名前さえわかれば生徒名簿から顔写真なんかがわかるかもしれないが、少女Aは事件発生当時は未成年であったため実名報道はされなかった。

 町山先生も事件当時は3年生の担任をしていたため、生徒の名前まではわからないとのことだった。


 事件当時の、少女Aがいたクラスの名簿を見てみるか。


 大宗は職員室に戻って町山先生に過去の壇ノ浦学園生徒の生徒名簿とクラス写真を見せてもらえないか頼んだ。

 昭和63年の2年B組を見てみる。写真も名簿もかなり古いものだったが残っていてよかった。


 学校の正門前で取られた古いクラス写真を見る。

 真剣な面持ちでカメラを見つめる20名ほどの生徒達。今は1クラス30名程度いるが、当時はこんなに生徒が少なかったのか。

 この中に少女Aがいる。


 くそっ、せっかく町山先生から話を聞けたのに、肝心の祟りの真相の部分は火影家が厳重に守っていて何もわからない。


 「ここまでか・・・・」


 あとはウェボシー達が体育祭に優勝して生徒会長になってから。生徒会室へ入るしかないかな・・・

 大宗は2年B組の生徒名簿を見ながらそう考えていると、


 「ん・・・・・?」

 ふとあることに気づいた。


 この人は――― 


 大宗はすぐにクラス写真を再度確認した。


 間違いない、あの人だ。


 そこには大宗がよく知る人物が映っていた。結婚して姓が変わっていたためすぐに気づけなかったが、下の名前と写真を見て確信した。

 同級生に囲まれ厚ぼったい制服に身を包んだ垢抜けない少女。


 大宗は震える手で写真を握りしめる。真実に近い人物がまさかこんな身近にいたとは。



 写真には、現在壇ノ浦学園で教鞭きょうべんっている2年B組担任、鞍上あんじょう 妙子たえこの若き日の姿があった。




***


 「さっきはよくも安全圏からバカスカ打ってくれたなぁ!」

 霊否は空中で剣を振りかぶる。稲妻のような青白いエネルギー波が剣の刀身から発生し、バリバリと音を立てる。

 「すまし顔で戦いやがって。いい加減地上で戦おうぜ。」


 飛来はずっと疑問だった。


 彼女が本当にあの火影刹那を倒したのか?

 これまでの戦いから火影刹那はなぜこんなやつに負けたのかと疑問だった。


 噂によれば、火影刹那は一撃で倒されたと聞いていた。


 その理由がわかった。間違いなくこれだ。


 剣から発せられる膨大なエネルギー。まともに食らえば一発で戦闘不能になる。


 ならば、腕と翼を重ねてガードを固める!「なに・・・!?」

 飛来の体が石のように固まって動かない。見ると霊否の赤い右目が飛来をとらえていた。


 アイオロスが言っていた”相手の動きを止める異能”

 こいつ、俺の動きを・・・!

 「こしゃくな・・・・・!」

 

 上星は上空に高く飛びあがった霊否を見た。

 「チャンスは・・・・・」

 

 霊否は振りかぶった剣を力いっぱい振り下ろす。

 「一度きり・・・・!」


 一撃必殺―――!


 REINAレイナ IMPACTインパクト!!

 

 稲妻が落ちたような強烈な衝撃と閃光が霊否の剣から炸裂する。

 途端にフィールドが青白い光に包まれる。

 霊否の攻撃は飛来に直撃、飛来はフィールドに叩きつけられる。


 七海や上星、姫子も突然の衝撃に身を低くする。

 フィールドの外で実況していた海星は「ぎゃ」っと小さい悲鳴を上げ腰を抜かす。

 剣から放たれた衝撃は観客席まで伝播でんぱする。

 

 「で、でたぁーーーー!あの火影刹那を倒した平等院の一撃必殺!」

 霊否の一撃に腰を抜かしていた海星が、起き上がりながら言った。


 「果たして飛来悠李は無事なのかぁー?!」

 飛来が叩きつけられたフィールド中央にはモクモクと黒煙が上がっており、飛来の状態はまだ確認できない。

 

 霊否は地面にスタっと降りる。


 攻撃の瞬間、間違いなく飛来を捉えていた。攻撃が当たった手応えもあった。

 あの攻撃を受けて立っていられるわけがない。


 これで飛来が倒れれば、20点・・・・!


 霊否は黒煙が上がっているあたりをじっと見ていると、

 中から黒煙をかき分けるように飛来が飛び出して来た!


 「いってえぇぇぇぇぇっ!!」

 飛来の服はボロボロになっており、背中の大きな翼は片方が折れていた。


 「バカな・・・・!」

 霊否は驚いた。あれを食らって、まだ立ってやがるのか・・・!



***


 俺の異能は風を操る・・・・!

 

 平等院の攻撃を受ける直前、

 異能で体は動かせなかったが、風を操ることはできた。

 だから俺は自分に風圧を与え攻撃が翼に当たるように体の向きを変えた。

 

 翼がクッションになったおかげで体へのダメージはかなり軽減された。

 

 だが、片方の翼が駄目になった。おそらく今までのような長時間の飛行は無理だ。 



 霊否は絶望的な表情を浮かべていた。


 倒せなかった・・・!一撃で倒せなきゃ・・・初見で飛来の意表を突く作戦だったのに・・・

 せっかくウェボシーと協力して攻撃のチャンスが得られたのに・・・!


 だが、飛来を見ると翼が片方折れてる。さっきの攻撃で損傷したのだろうか。

 あの翼ではさっきのように長時間空中にいるのは無理なはず!

 

 ならもう一度REINAレイナ IMPACTインパクトで・・・!


 霊否が剣を振りかぶり、飛来に接近する。

 剣で攻撃するが、さっきのような青白い閃光が出ない。

 

 「はぁ!?なんでだよ・・・!」

 霊否が言うと、飛来が手に勾玉を持っているのが見えた。


 やはり・・・・・!

 飛来はニヤリと笑った。


 さっき攻撃の直前にこの勾玉を剣にはめ込んでた。

 攻撃の直前に奪ってみたが、やはりこの勾玉がないとあの火力は出せない!

 

 「同じ手ェ食らうかよ!」

 そういうと飛来は勾玉を投げた。


 「てめぇ・・・・!」

 

 霊否は飛来から距離を取る。

 勾玉がない以上、もう最大火力は使えない。あたしの唯一の攻撃手段が・・・


 どうする!?

 


 「おおーっと、上星和成、戦闘不能かぁーーーー!?」

 海星の実況が霊否の耳に飛び込んで来る。



 そういえば、七海と上星、ヒメの戦いはどうなった!?

 霊否が上星たちの方を見ると

 「ウェボシー!?」


 フィールド上にぐったりと横たわっている上星の姿が見えた。



***


ー数分前ー


 「こいつ・・・・バケモンかよ・・・・・!」

 上星は膝をつき、ぜえぜえと息を切らしながら言った。


 七海は俺と知念さんの二人がかりでも全く歯が立たない。


 異能すら持っていない俺たち一般人はプリ―ムス・パールスの足元にも及ばないのか。

 俺たちなどという存在は、七海からは全く無視されている。


 もうなす術がない。

 

 知念さんはさっきの七海の攻撃で両手を負傷していた。

 何とか武器を構えて立ってはいるが、もう戦える状態ではない。


 「まあ、プリ―ムス・パールス相手によく戦ったほうだニャ」

 七海はそういうと霊否と飛来が戦っているところへすたすたと歩いていく。


 くそ、霊否のとこへ向かう気だ。

 飛来と七海の二人を霊否が一人で相手するのは無理だ。


 「待てよ・・・・」

 上星は最後の力を振り絞り、ぼたぼたと血を垂らしながら立ち上がる。

 体中が痛い。全身切り傷と打撲だらけだ。


 「しつこいニャ」


 「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 上星は大声で叫びながら七海に向かって走りだす。


 霊否のところへは行かせねえ!


 上星が木刀を力強く振り下ろすが、七海はその攻撃をするりとかわし、

 巧みな身のこなしで、体を反転させ、上星に強烈な回し蹴りを食らわせた。


 蹴りは上星の顎に直撃。頭に強烈な衝撃が走る。



 「モロ食らった!」

 「アゴだぞ!」

 観客がざわついた。


 「ありゃあ即、脳震盪のうしんとうだろうな・・・・」

 観客の一人がそう言った。


 上星は気力の糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。

 

 「おおーっと、上星和成、戦闘不能かぁーーーー!?」

 実況の海星が叫ぶ。


 「ウェボシー!?」

 と霊否。


 審判が仰向けに倒れている上星のもとへ駆け寄り、


 「ワン!、ツー!、」

 とカウントを始めた。


 七海は倒れた上星を冷たく一瞥いちべつした後に、再び霊否と飛来が戦っているところに向かった。


 「くっそ・・・・・!」

 霊否は畜生と唇を噛んだ。

 七海が来る。上星がもし戦闘不能になったら相手チームに20点が入り、もう逆転は不可能だ。

 姫子も武器を持っているのがやっとだ。恐らくもう動けない。


 「・・・ウェボシー・・・・!」

 霊否が叫ぶ。

 「ウェボシー・・・・起きろ!おい!」


 「スリー!、フォー!」

 霊否の叫びもむなしく、審判のカウントは止まらない。



 上星は自分の意識が次第に遠のいていくのを感じた。


  体が動かねえ


  視界がゆがむ。空がひっくり返る

 

  そもそも俺達がプリ―ムス・パールスに勝とうなんて最初から無理だったんだ


  相手はこの学園最強の3人組だぞ


  なんで勝てるかもとか思ったんだろう


  一丁前に作戦立てたりしてさ


  馬鹿みてえだよな


  きっとこれまでうまくいきすぎてたんだ


  自分が生徒会を倒したんだと勘違いしてたみたいだ




 上星は、霊否が転校した時のことを思い出した

 あの時は火影刹那の制裁に遭うところをギャラリーから一人飛び出して止めたことがあった



  あの時も、玖源さんが来たからどうにかなっただけだ。玖源さんが来なかったら俺なんか火影刹那にボコボコにされて、霊否もそのあとにボコボコにされてた



 風紀委員と生徒会との戦闘を思い出した



  あの時も、火影刹那を倒したのは霊否だし。霊否が火影刹那にたどり着けたのも玖源さんの策略のおかげだったし


  霊否や玖源さんだけじゃない。知念さんだってあの時クラスのみんなを説得したりして活躍してたよな


  大宗は頭がいいし、あいつは必ず祟りの真相にたどり着くだろう


  対して俺は、大宗みたいに頭がいいわけではないし、玖源さんみたいな強さもカリスマ性もないし


  思えば俺が一人でなにか成し遂げた場面って一つも無いよな


  生徒会を倒して、祟りの真相に近づけて、いい気になってた


  その結果がこれだよ


  七海入鹿と戦って俺の実力ははっきりした


  というかもともと俺はなんもできねえ奴だっただろうが


  大切だったはずの女の子一人守れない


  弱くて、臆病な


  ちっぽけな人間だっただろうが・・・・



***


ー8年前ー


 上星和成、小学3年生


 小学生でもそれなりのカースト制度みたいなのがあって。

 だいたいカースト上位にいるのは体育の授業で活躍する運動ができる奴、声がでかい奴、面白いことを恥ずかし気もなく言える奴(実際面白いかどうかはまったくの別問題だ)

 クラスの物事は大抵でかい声の奴の意見が通る。


 俺はそこまで目立つタイプじゃなかった。

 当然スクールカーストは下位の方だ。カースト上位の奴を、あいつは声がでかいだけだの、運動が出来るだけで上位に行けるなんていいなだの影でぐちぐちと言う。

 そんなタイプだった。


 そんな陰湿なタイプだったので友達もほとんどいなかった。

 唯一親友と呼べるのは”シオン”という同級生の女の子だけだった。

 ショートボブの髪に、まん丸な大きな目をした女の子だった。


 遊び場は決まって校庭の隅のスペース。


 あるとき上級生の男子から「女と遊んでんの?」「変な奴」とバカにされたことがあった。


 女子と遊ぶことのなにが変なのか、その時はさっぱりわからなかった。

 

 俺は5年生になった。


 俺もシオンも少しづつ心と体に変化が現れ始めた。

 俺は次第に異性であることを意識するようになり、女子と二人だけで遊ぶのが恥ずかしくなっていた。

 クラスも変わり、俺たちは次第に疎遠になっていった。


 2人だけで遊ぶことは無くなり、すれ違う時にあいさつする程度になった。


 俺は中学生になった。シオンと俺は同じ中学に入学した。


 ある時、俺が一人で図書館にいると、「誰もいないよな」「早く鍵閉めろ」という男子の声が聞こえた。

 見るとカースト上位の男子たちだった。男子たちは素早く内側から鍵を閉めた。


 今出ていくと誰もいないと思っていたはずの図書室に俺がいたことがバレると思い、存在を消すことにした。

 俺は本棚の隅に隠れ、息を潜めた。男子たちは一体何をするつもりだ?


 「やめて」

 シオンの声がした。


 なぜシオンがこんなところに?

 俺は不思議に思い、本棚の影からそっと男子たちの様子を見た。


 シオンの細長い素足と男子たちがズボンとパンツを脱いでいるのが見えた。


 「痛い」

 シオンは嫌がっているように見えたが、男子たち数名がシオンを押さえつけるようにしていた。

 男子たちはシオンの胸を触ったり、足にベタベタ触っていた。


 その時は、そこで何が起こっているのかまったくわからなかった。

 口を両手で力強くふさいで、ことが終わるのをじっと待っていた。


 男子たちは順番に行為を終えた後、

 すっ裸になったシオンを一人置いて図書室を後にした。



 次の日


 登校時に下駄箱でシオンに会った。

 

 当然シオンはあの場に俺が居合わせたことは知らないわけだが、見てしまった罪悪感からなんとなく気まずかった。


 「おはよう」

 シオンはいつも通り、俺にあいさつをしてきた。


 いつも通りすぎるあいさつに、俺は気味が悪くなった。どうしてそんな普通の顔をしてる。

 昨日あんなことがあったのに。

 

 まさか、昨日だけじゃないのか。日常的にあんな目に遭ってるのか。


 シオンのあいさつを俺は聞こえなかったふりをした。


 シオンはあの男子たちからいじめられているのか。その時はそう解釈していた。


 その時、当時漫画をよんで憧れた正義の味方の姿が頭をよぎった。

 いじめっ子を助けるかっこいい主人公


 そんな風になりたかった。

 

 俺はシオンに声をかけようと振り返ると、そこにもうシオンはいなかった。


 現実は漫画みたいにはいかない。

 


 シオンが転校したと聞いたのは、それから数日経ってからのことだった。



***


  あれから何度も

  何度も何度も何度も後悔した


  あの時声をかけていれば


  いや、その前に図書室で俺が彼女を助けていれば彼女は救われたのに。


  学校を去らずに済んだのに。


  彼女は今幸せなのだろうか。


  あの出来事がトラウマになって、男性不信になったりしていないだろうか。

 


 「おい!ウェボシー・・・!」

 その時、霊否の声が上星に届いた。


 「いい加減起きろ、おら!」

 遠のく意識の中で、霊否が必死に戦っているのが見えた。


  霊否、


  ごめん、霊否。


  ダサくて、弱くて、みっともなくて、ごめん


  こんなんで霊否を口説こうとか絶対無理だよな。

  デートに誘ったのめちゃめちゃ恥ずかしくなってきた。


  こんなダサい奴とデートなんか行きたくないだろ。


  俺は本当はこんな奴なんだよ。


  弱いのを隠して、

 

  小学生の時にいたカースト上位の奴のマネしてでかい声出して、


  強い人間のふりしてただけだよ。

  


 「こいつら倒して、この学校の生徒会長になるんだろうが!ウェボシー!」

 霊否が叫ぶ。



  霊否、俺は君が思ってるほどすごい人間じゃないんだよ。


  霊否を初めて見た時、君は火影刹那に襲われそうになっていた。

  あの瞬間、君の味方は誰もいなかった。


  途端に中学生の時の記憶が蘇った。


  あのときシオンを守れなくて死ぬほど後悔した。

  同じ思いをしたくないと思った。


  だから飛び出したんだ。


  本当は、この学園を変えたいとか、そんな大層なことが目的じゃない。


  あの時、後悔した中学生の頃の俺から成長したんだと思いたかった。


  変われたと安心したかった。

 

  でもなにも変わってなかった。


  やっぱ人間すぐに変われるもんじゃねえよな。


  俺は一人じゃなんもできねぇ、弱くて、ダサくて、ちっぽけな・・・・



 「おい!聞いてんのか!!」

 霊否は叫び続ける。


 「ウェボシーが言い出したんだろうが!一緒に戦おうって!」



==============


 「戦うんだ。この学校の生徒達、あらぬ噂、祟りそのものと。自分は原因じゃないって、主張するんだ」

 

 そう、戦うんだ。


 祟りと、生徒達と、生徒会と、


 この学校そのものと――――


 そしてこの祟りを引き起こしている犯人を見つけるんだ。


 上星はそう、強く決意した。


==============



 「あの時ウェボシーが声をかけてくれたから、今こうして戦えてるんだろうが!言いだしっぺのお前が勝手に諦めてんじゃねえぞ!」

 


  ああ、そうだ。俺は勝手に諦めて、逃げた。



 「生徒会長に学校から追い出されそうになったときも、諦めるなって言っただろうが!」



  そんなことあったか。


  覚えてない。



==============


 「諦めちゃ駄目だ!お父さんのこと知りたいんだろ!」


 大衆の声が大きすぎて上星の声は霊否に届いてないかも知れない。


 「剣の謎も!まだ何もわかってないじゃないか!」


 それでも。精一杯大きな声で、言った。


 「これからいろんなこと知っていこうよ俺達で!だから諦めるな!」


==============


  上星がふと気が付くと、背景が真っ白の、何もない空間にいた。


  は・・?

 

  気失って変な夢でも見てんのか。


  血まみれの顔を上げると目の前に少年が立っていた。

  それは学ランに身を包んだ、中学生の頃の俺だった。


  「また逃げんのか?」

  少年が言った。

 

  「・・・・・・・」

  俺はなにも言えなかった。


  「あの時と同じだな。カースト上位の男子に勝てないかもと思ったか?

  シオンに声をかける勇気がなかったか?

  あの時声の一つでもかけていれば、彼女は救われたんじゃねえのか。」

 

  うるせえ、


  うるせえうるせえ、


  過去に戻れるならと何度考えたか。この失敗をやり直せたならどれほど俺が救われるか。


  「また、死ぬほど後悔するぞ」

  少年は俺を見下ろして言った。


  シオンが転校したと聞いたとき、シオンの家に電話をしたことがあった。 

  電話にはシオンのお母さんが出た。


  「すみません、シオンさんと話したいんですけど、変わってもらえませんか」

  俺がそう言うと、シオンの母はこう言った。


  「シオンは誰とも話したくないと言ってるの。ごめんね。」





 「立てよ!おい!!!」

 霊否はまだ叫んでいる。

 まだ勝つことを諦めずに

 

  強いな霊否は。


  強くてかっこよくて。


  どんな困難にも立ち向かっていく。


  「いま彼女がお前を必要としてるのがわかんねえのか」

  中学生の俺が言った。


  「霊否は強いし、俺なんかいなくても・・・・」

  俺は力なく言った。



***


 霊否は飛来の攻撃をかわしながら上星に向かって叫び続けた。


 ウェボシー、


 母が襲われたとき、なぜか真っ先にウェボシーに電話していた。

 

 あの時はかなり混乱してて、ほとんど無意識に行動してた。

 ウェボシーなら絶対助けてくれる、あたしの力になってくれるって勝手に思ってたのかな。

 いきなり電話してびっくりしたよね。 


 「あたしがいま立ってるのは、ウェボシーがいたからだよ!

 ウェボシーがいなかったらとっくに別の学校にいるよ!こうして学校にいられるのも、ウェボシーがいたからだよ!」

 この声は聞こえてないかもしれない。


 「あたしは待ってるぞ!お前が立つまで!」

 それでも諦めない。


 「あたしは諦めてねえぞ!!」

 諦めないことを、君が教えてくれたから―――



***


  「今の彼女を強くしたのは紛れもない、お前の力だ。その彼女がお前を求めてるぞ」

  中学生の俺が言った。

 

  「くっそ・・・・・!」

  シオン、シオンごめん。

  

  助けてあげられなくてごめん。

  あんな後悔はもうしたくねえ、


  本当に辛かった。シオンのことを思うと苦しくなった。

  シオンが転校してかは、ひたすら後悔にさいなまれる辛い日々だった。

  そのころを思い出して、目から涙がこぼれた。


  「やっぱだせえな、俺」

  過去のことズルズル引きづって、思い出して泣いて。自分が情けなすぎる。


  「ああ、だせえよ。」

  中学生の俺が言った。


  「そこは嘘でもかっこいいっていうとこじゃ」


  「わかってねえなあお前」

  中学生の俺は、顔を近づけて言った。


  「お前はかっこつけるために戦ってんのか?お前はダサい、弱いし臆病だ。

  だが、そんなことは関係ない。いまお前がすべきことは霊否を守ることだ。」


  立ち上がれ


  「過去の罪もぶち壊していけ。」


  あの時、踏み出せなかった一歩を


  今度はしっかり踏めるように。


  後悔するのは本当に辛かった。

  だからもう後悔しないように、火影刹那が怖くても立ち向かってみた。

  絶対勝てないと思っていた生徒会にも勝つことができた。


  やってみると案外なんとかなるもんだ。

  行動するのは恥ずかしいしときもあるし、怖い思いもするし、失敗することもある。

  

  けど、後悔する方がよっぽど辛いことを俺は良く知ってるから。


 

 

 「立ち上がった!!」

 観客が叫ぶ。


 上星はフラフラになりながらもゆっくりと立ち上がる。

 血をぼたぼたと垂らしながら、意識もまだ朦朧としている。

 けれど足は地面をしっかりと踏みしめている。


 

  転ぶのは、俺が弱いからだ。

 

  立ち上がれないのは、俺に勇気がないからだ。



 霊否が上星の方をみて、親指を立てた。



  でも君が勇気をくれるなら、

  弱さなんで吹き飛ばしてやればいい。



 次の瞬間、上星は床を蹴るように走り出した。


  走り続けろ。

 「お前が過去の自分を許せるようになるまで。」

 

  ありがとうな中学生の頃の俺。


  ありがとう霊否。

 


  正直、君たちの言葉ですべてが吹っ切れたわけじゃない。


  君たちの言葉で俺は強くなれるわけじゃない。


  俺は弱いままだし、ダサいままだし、何も変わらねえよな。


  けど――――



====================


 「あたしは待ってるぞ!お前が立つまで!」


 「あたしは諦めてねえぞ!!」


====================


  君がそう言ってくれるなら。

  俺を信じてくれるなら。


  シオン、あの時はごめん。

  今の君は幸せに生きているか。

  君みたいな思いをする人が一人でも少なくなるように



  俺も頑張るよ。



  弱くても、絶対勝てなくても、守りたいものがあるなら



 上星は霊否に近づこうとする七海の背後に周り、木刀を力強く振り下ろした!


 七海は右手の甲手でそれを受け止める。

 受け止めた腕が痛みでビリビリと痺れた。明らかにこれまでの攻撃とは違う。

 「ほぉ・・・」



  立ち止まるな、


  上星和成!!!







=============================


~おまけ~お笑い大好きな作者が漫才やってみたのコーナー 第二弾




知念ちねん 姫子ちねん:どうもー、知念姫子でーす。


平等院びょうどういん 霊否れいな :れ、霊否でーす・・・。


姫:さあ、というわけでね。今日も二人で頑張って漫才やっていきたいなと思いますけれども。


霊:また始まったよこれ。しかも今日はヒメかよ。


姫:私、ドラマを見るのが好きでね。中でも刑事ドラマがめっちゃ好きなんですよね。


霊:へぇー、確かにかっこいいよね。犯人はこの中にいる!とか言ってみたいよね。


姫:たたらを踏むは馬のクソ!とかね。


霊:真実はいつも一つ!とかね。


姫:嘘つきトンボは猫を見る!とかね。


霊:なんだそれ。聞いたことねぇなさっきから。嘘つきトンボは猫を見る?いつ使うんだよ。あと女の子があんまクソとか言うな。


姫:まあ、そんな憧れる刑事さんを一度でいいからやってみたんだよね。


霊:じゃあこの場でやってみようか。あたし新米刑事やるから、ヒメはベテラン刑事やれよ。


姫:いいの?ありがとう!


霊:タッタッタッ、先輩、状況は?


姫:遅いじゃないか平等院くん。2時間も遅刻してるぞ。


霊:遅刻しすぎだろあたし。すみません。道に迷ってしまって。


姫:いつも言ってるだろう、遅くても事件が起こる10分前には必ず現場に着くようにしろと。


霊:無理だろそんなの。予言者じゃないんだから。


姫:いや、予言者ではないだろw


霊:いやわかってるわ。いいから早く状況教えろよ。


姫:亡くなったのは麺作めんづくり 食男たべお 17歳。男性。家でカップラーメンが出来上がるのを待っている間に殺されてしまったらしい。


霊:この世でもっとも待ち遠しい3分を過ごしている間に殺されちゃったのか。可哀想に。


姫:面倒な事件にならないといいな。麵だけに!つって!・・・・はいっということで


霊:すべってんじゃねえか。殺人現場でそんなこと言うなって不謹慎だろ。


姫:凶器はこの鈍器ーー、


霊:鈍器か。ベタだな。


姫:の隣にあるクマのぬいぐるみだ。


霊:どうやって死んだんだよ。可愛い趣味してんな麺作くんは。

  ん・・・・遺体の右腕部分が濡れている‥?くんくん。これは水か‥?先輩!これ、なんかおかしくないですか?


姫:んん!?確かに不思議だな・・まあ、事件とは関係ないだろう。


霊:そうですかね・・・・あっ先輩!


姫:どうした!?


霊:これ、被害者の携帯じゃないですか?この携帯を確認して被害者の人間関係を探れば犯人に繋がる手がかりが見つかるかも知れませんよ!


姫:これは!・・・事件とは無関係だな。


霊:なんなんだお前。なんかこういう思わぬところから事件の手がかりになるとかあるだろ。


姫:それにしても被害者の男めちゃめちゃデカくて太ってるな・・・何キロあるんだ。


霊:確かに。先輩は刑事なのに"デカ"くないですね。


姫:・・・・・・・え?


霊:なんでわかんねえんだよ。感悪いなお前。

  被害者が太っているということは食べ物関係でなにかトラブルがあって殺されたということですかね。


姫:平等院くん。推理を始めるということはなにか証拠があるんだろうね。証拠もないのに推論を並び立てるなんて刑事の風上にも置けないぞ。


霊:す、すみません!証拠は特にないです・・・・


姫:証拠もない状態で推論を立てるとは・・・気に入った!君の推理を聞いてやろう。


霊:いやいいのかよ。

  そこら中に転がっているカップラーメン。そして被害者の体格から被害者は重度のカップラーメン好きかと思われます。

  被害者と犯人はカップラーメンが原因でなにかトラブルが発生し、殺害に及んだのではないでしょうか。


姫:ん!ちょっと待て、今なんて言った?


霊:え!カップラーメンが原因でなにかトラブルが・・・・


姫:いやその7つくらい前だ!!


霊:・・・えーっと・・・・って覚えてねえよ!全然今じゃねーじゃん。


姫:まあいい。ジョーズに推理できたじゃないか。


霊:ありがとうございます。なんでサメなのかはわかりませんが。


姫:ところでさっきの"デカ"くないですよねってのはどういう意味だったんだ?


霊:もういーわそれ!触れるな。それは。


姫:・・・・なにか引っかかるな・・・


霊:先輩、なにか気づいたことでも?!


姫:ああ!


霊:先輩!まさか・・・・犯人が誰かわかったんですか?


姫:歯に挟まってたお肉のスジ取れた!!


霊:なんの話してんだよ!!


姫:なんか引っかかるなーってずっと気になってたんだよね。お昼に食べたプリンのせいかな。


霊:引っかかるってそういうことかよ。あとプリンにお肉は入ってねえよ。

  先輩、とりあえず容疑者からアリバイとか聞いた方がいいんじゃないですかね。


姫:そうだな。おい、そこのデブ。事件があった時間になにしてたか話せ。


霊:ひでえなこの刑事。


大宗おおむね 平善へいぜん:俺はその時間図書室にいました。図書委員の人もいたので彼に聞けばアリバイの証明になるかと思います。


姫:そうか。お前は?


玖源くげん 煌玉こうぎょく:私は風紀委員のメンバーと話していた。一緒に話していた友人に聞けばわかるはずだ。


姫:はい、お前


霊:お前とか言うなって。


上星うえぼし 和成かずなり:え!?、いや・・そ、その時間は・・えっと・・その・・・そう!テレビ!家で一人でテレビを見ていました!!


姫:ふん・・・・かなりの難問だな。


霊:いや、明らかに怪しい奴いたよね!?最後の奴犯人でしょ絶対!!


姫:刑事になって20年。これほど難解な事件に出くわしたのは初めてだ。これは迷宮入りになるかもしれんぞ。


霊:20年間なにを学んできたんだよ。


姫:もうこうなったら誰でもいいから署まで連れてくか。おいお前、なんかお前っぽいから来い。


上:えぇ、ちょっと待ってくださいよ!


霊:適当に選んだらやばいだろ!でも多分あってる!勘だけで20年間乗り切ってきたんだろうなこの人。


姫:嘘つきトンボは猫を見る。やはり犯人は貴様だ!


霊:さっきのキメゼリフ!使う機会あった!!どういう意味なのかまったくわからんけど!


上:すみません、僕が買ったカップラーメンをあいつが勝手に食べてて、

  怒りのあまりカップラーメンに注ぐために沸かしておいた熱湯を奴の右腕にかけてやったんです。そしたらそいつが怒って俺に飛び掛かってきて

  近くにあったクマのぬいぐるみで応戦したら当たり所が悪かったのか、そいつが倒れて動かなくなりました。


霊:食べ物の恨みって怖いんだな。あたしも気をつけよ。


姫:これで事件は一件落着だな。平等院くん。


霊:そうですね。あの、先輩


姫:ん?どうした?


霊:あたし刑事向いてないと思うので今日限りで辞めさせてもらいます。


姫:なに?まあ、たたらを踏むは馬のクソっていうし。仕方ないだろう。


霊:またさっきのキメゼリフ。どういう意味なんですか?それは


姫:周りに流されず、君の信じる道を歩んでみなさい。


霊:馬のクソって言われるのすげぇ嫌なんですけど。まあ、今までありがとうございました。


姫:刑事をやめたらどんな仕事に就くか決めているのかい?


霊:いえ、まだそこまでは


姫:世の中には色々な仕事があるからね、私も刑事になる前は色んな仕事をしてたんだよ。


霊:へえー、例えばどんな仕事ですか?


姫:そうだなぁーっ。なめこの周りにヌルヌルをつける仕事とかあったな。


霊:あれ仕事だったのかよ。


姫:思い出すなぁー、先輩でめちゃめちゃ仕事早い人いてさ!1分で100なめこにヌルヌルつけてんの凄くない!?


霊:いや全然凄さがわからん!なめこって100なめこってカウントするの?知らない世界すぎる。


姫:君が辞めるというなら、私も刑事辞めようかな。


霊:そんな、先輩がやめるなんて!


姫:田舎に帰って、両親がやっていたきゅうりの真ん中をちょっとキュッ・・・て曲げる仕事を継ぐかな。


霊:だからどんな仕事だよ。先輩20年も刑事やってたのに・・・いまさら刑事やめるなんて言わないでくださいよ!


姫:なんて嘘だよ。私が刑事辞めるわけないだろ。


霊:なんだ嘘かぁー


姫:騙して悪かったね。


霊:これはあれですか?”嘘つきトンボは猫を見る”ってやつですか?


姫:・・・・・どゆこと?


霊:お前が言ったんだろ。先輩がやめないなら、あたしももう少し刑事頑張ってみます!


姫:そうか!それはよかった。前から君はセンスがあると思ってたんだよ。君の推理は世界一だ!


霊:えぇ~!そうですか!?先輩の教え方がうまいんですよ!


姫:いやいや、君の呑み込みが早いんだよ!


霊:これからも二人でいろんな事件解決しましょうね!


姫:それは嫌だ


霊:なんでだよ!もういいよ!


霊・姫:どうも、ありがとうございました。







=============================


【次回予告】


 メドゥーサだよ!


 激化するプリ―ム・スパールスとの対決。剣の力が封じられた今、どうやって飛来悠李に勝つの?霊否ちゃん!

 わたしのこと嫌いにならないでね。もしわたしが、わたしじゃなくなっても・・・・ 


 次回、AstiMaitriseアスティメトライズ  #9「Adamafalxアダマファルクス


 すべては、AstiMaitriseの名のもとに。


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AstiMaitrise 椎奈ゆい @yui_siina

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