悪役令嬢先輩が断罪されたので、母国のために働くことをやめました。
藤也いらいち
手の届かないところで断罪が終わっていた
先輩が断罪された。
侯爵令嬢で、第二王子との婚約が内定していて、成績はいつもトップ、そして誰にでも分け隔てなく優しい。
美しく、可憐でもあり、非の打ち所のない完璧な先輩が、卒業式の前日に行われた卒業生のお披露目で第二王子とその側近たちによって断罪されたらしい。
「断罪?」
先輩の罪なんて、初対面の相手へ向けるちょっと軽めの微笑みが美しすぎて多くの人間の初恋をかっさらうことぐらいだろう。
初恋泥棒は罪になるのか?
いや、第二王子がいくらアホでも初恋泥棒罪など作らないだろう。ふざけたことを考えていたらまた先輩に怒られてしまう。
在校生は参加できなかったその場でいったい何があったのか、私は情報収集を始めたが、めぼしい情報は全く入ってこなかった。王子や側近を含む高位貴族の手によって箝口令が敷かれたようだ。
翌日の卒業式も、その後も先輩の姿を見ることはなかった。
******
数日後、学園内で先輩が修道院に送られたと噂が流れた。
すぐに国中の修道院を調べたが、手掛かりはなかった。
そして、第二王子の婚約が発表された。相手は先輩じゃない。知らない女だった。魔王を倒す聖女の力を持った伯爵令嬢らしい。しかし、知らない女だ。あの細腕でどうやって魔王を倒すのだろう。
先輩の姿は王都から消えた。いや、国から消えた。
そこからさらに数か月後、ほとぼりが冷めてきて、やっと断罪の内容がわかった。
毒薬の製造。伯爵令嬢への殺人未遂。国家転覆未遂。
こんな大きな犯罪を学園内での断罪だけで済ませたのか? この国はどうなっているんだ。
「馬鹿な」
罪の顛末が書かれた紙を見て、さすがに声をあげて笑ってしまった。
先輩がこんなことできるはずない。
先輩がやったら“未遂”で終わるわけがない。誰にも悟られず完璧にやり切れる。
やはり、先輩は嵌められたのだ。
そこまで考えてやはり違和感を覚える。
先輩が嵌められる? 馬鹿な。あの先輩が? それはない。
そして、断罪の前日に先輩から言われたことを思い出す。
「あなた、若返りたいって思ったことある?」
あの日、中庭のベンチで昼食をとった。先輩は明日着るドレスが細身だからといつもよりもかなり少なめの食事にしていて、私はいつもどおり先輩の隣でサンドイッチを食べていた。
急に問われた言葉を特に深く考えずに答えたのだ。
「ないですね、まだ若いですし」
「そうよね。じゃあ、子供は好き?」
「えぇ、人並みには」
「そう……嘘をつかなくていいわよ?」
流れるように出た嘘を、先輩に一蹴された。
「嫌いです」
「結構。次に会う時までに好きになっておいて。あぁ、幼子をあやしてとは言わないわ」
先輩は金色のゆるいパーマのかかった髪をふわふわと揺らしながら、やけに楽しそうに笑っていた。
笑う先輩の後ろには中庭の木々の葉が赤く色づいていて、先輩の金色と合わさりなんとも美しいコントラストで見とれたのも一緒に思い出す。
そうか、これだ。
やはり先輩は素晴らしい。
しかし、この選択をさせたあいつらは、絶対に許さない。
私はこの国に深く、深く、溶け込む。
先輩を迎えに行ける、その時まで。
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