第116話 ガーテルの屋敷
「父上、父上!」
「リボル様、お父上は今日は帰るのが遅くなると言っていたじゃありませんか」
「なに、そうだったか?」
リボルは家に帰ってくると早速先程の出来事を父に報告しようとしたが、報告相手である父はまだ帰ってきていなかった。
「所でお前はなぜ家に居るのだ?」
リボルに父の不在を知らせたのは弟であった。
弟も学園生である為、寮に入っている。
なので、家にはリボルのように用事があって帰って来るなどしないと居ないはずである。
それに戻って来るにしても、今日のように父は家にいない日を事前に報告してくれる為、来る事は無いはずである。
「私はたまに家に本を読みに来ますから。今日も本を読んで勉強をしに」
「なるほどな。お前は家の本を持ち出せないからな、残念な事だ」
リボルの弟はリボルと違って庶子であった。
リボルの父親は優秀な平民であった女性を召し上げる為に第二夫人にと求婚した。
しかし、その女性は嫉妬深かった第一夫人を気遣って妾となり、平民として貴族に使える道を選び、リボルの弟を産んだ。
今はもう亡くなってしまい、その時にリボルの父が弟を認知してガーテル家に入り、学園にも通っているが、家の物を使うのにも制限がかかっている。
「はい。そろそろお義母様が帰って来られますから私は失礼します。私が本の使用を許されているのはお義母様が居ない間だけですので」
リボルの父は弟も自分の息子として不自由の無い生活を与え、学園にもリボルと同じように援助をしているが、リボルの父の目の届かない所ではリボルの母による差別的な扱いが行われている。
妾とはいえリボルの父の子を産んだ母親に嫉妬し、リボルの父が認知した事で、その怒りは弟へと移った。
貴族の女性として、表面上取り繕うのが上手い為、仕事で城にいることの多いリボルの父を欺いているが、その影響はリボルにもおよび、リボルは兄弟というよりは、召使のような扱いをしている。
「ふん、ちゃんと本は元の場所に戻したのだろうな? 盗んだりはしていないだろうな?」
「はい。しっかりと棚に戻しておきました」
「そうか、ならいい。もう行っていいぞ!」
「はい。それでは、失礼します」
リボルの弟は、リボルに一礼して屋敷を出て行く。
弟は裏で何をされようとも父に何もいう事は無い。
それは、小さい頃に実の母からガーテル家を支える家臣として、血を引いていようとも慎ましく生きるように教えられてきたからである。
弟が屋敷を出て行った後は、リボルは使用人を呼び、お茶を用意させてくつろぎながら父が帰って来るのをゆっくりと待つのであった。
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