取り違え召喚の異世界冒険録
シュガースプーン。
召喚編
第1話追い抜いて召喚陣
「やばい! 遅刻する!」
目覚ましを確認すると、起きる時間などとうにすぎており、寝坊を悟った男は慌てて準備して家を飛び出した。
寝坊の原因は昨日の夜に遅くまでお気に入り作家のライトノベルを読んでいたからだろう。
悔やんでも寝坊した事実がなくなる訳ではない為、とりあえずは必死で、会社までの道のりを、全力で走っている。
35歳を越えて調子にのり、欲望に負け、半徹夜した事で疲れが取れずに体が悲鳴をあげるも、睡眠欲よりもライトノベルの続きが見たいと言う欲望が勝ってしまったのだから自業自得というものだろう。
必死に走るおじさんである男の前を、いちゃつきながら高校生カップルが歩いている。
明らかに遅刻であろう時間帯でもゆっくり歩く高校生カップルにリア充爆発しろ!と念じながら全速力で追い抜かす。
中年になってでっぷりと出た腹を揺らしながら汗だくで走るのを笑われようがこっちは遅刻で給料が減るかもしれないブラック企業勤めである。
この体に受ける遠心力に耐えながら最短距離で曲がり角を曲がった。
「ええ!」
曲がり角を曲がって目の前に現れたのは、現実味のない光で描かれた俗に魔法陣と呼ばれる模様が壁の様に現れた。
突然現れた光の模様に驚き、止まろうとするも、運動不足な体は思う様に止まれずに、足をもつれさせて転んでいく。
光で構成された模様は壁等ではなく、文字通りに魔法陣だったようで、彼が倒れて転がって通過すると消えてしまい、消えた魔法陣の先に男の姿は無かった。
その後、男が追い抜いた高校生カップルも曲がり角を曲がって歩いて来る。
男が懸念した様に必死に走って行った汗まみれのおじさんを馬鹿にする様子などなく、それどころか追い抜かれたばかりのおじさんがいない違和感に気づく様子もなく、仲良く話しながら歩いていくのだった。
魔法陣を通り抜けた先で、盛大に転がった男は、恥ずかしさの余り、痛さを我慢してすぐに立ち上がり後ろを振り返った。
追い抜かした高校生カップルが曲がり角を曲がって男の痴態を見て笑っていないかを確認するためだ。どこまでも自意識過剰である事はこの際置いておこう。
しかし振り向いた先には先ほど曲がって来た曲がり角は存在せず、アニメなどで見る、強いて言えばヨーロッパの城はこんなだろうと想像できる広間があり、その中心に立つ男。
そして振り返る時に視界に入ったのは俺を見つめる大勢の目。
何が起こったのかわからずに、いや、ライトノベルをよく読む男には馴染みはあるが、実際に起こらないと断言できる状況。
混乱する男に背後から不躾な声がかけられた
「今代の勇者はやけに若い。それに間抜けそうだ」
背後からの声に男が振り向くと、そこには少しの階段の上に作られた豪華な椅子。
そこに座った王冠を頭に乗せた中年太りを気にする男の数倍でっぷりとした男性が顎髭を弄りながら興味のない玩具を見る様な目で見下ろしており、その右隣には5人の少年少女、左隣には綺麗な女性が2人座っている。
そして一段下がった場所にはが一歩下がった場所に甲冑に身を包んだガチムチの大男と偏屈ジジイといった表現が似合いそうな気難しそうな老人が並び。
男の両サイドを大勢の男達が囲んでいた。
その人達は甲冑の大男以外は現代日本では考えられない服装を身につけており、言うなれば貴族。
このライトノベルにありそうなシチュエーションを見て男は想像を膨らませた。
これは異世界。
と言うことは召喚された俺は勇者に違いない!
男はニヤリと口角が上がりそうになるのを必死に抑えながらでっぷりとした、王様と思われる男性の言葉を待った。
そして、待つ間に先ほど王様が発した言葉を思い返し、疑問を抱いて自分の体を見た。
そして自分の体を見てギョッとした。この時に王様が話し始めたらその言葉は耳に入らなかったであろう。
中年太りで出た腹は引っ込み、体感的には小さくなった体。
若返った?それともこの世界の誰かに憑依でもしたのかな?
男は今まで見た異世界ファンタジーの知識をフル活用して状況把握に努めた。
でも、魔法陣を通ったから召喚だよな?だとしたら若返り濃厚。
いや、鏡を見ないことには正確には分からないな。
「突然の事で驚いていると思うが聞いてほしい。君は我が国に召喚された」
男が返事をしない事で、この状況に驚いて言葉が出ないのだろうと王様が続きを話だした。
「この世界は破滅の危機に陥っている。
魔王が復活の兆しを見せ、魔族達の動きが活発になって来たのだ。
そこで、ここに居る私の娘に召喚を頼んだのだ」
男が自分の状況にある程度予測を立て、王様の話を聞く為に顔を上げた。
そして王様は話す事にしんどくなったのか息が少し荒くなってきた。
「さて、続きは我が国の魔導師長アグノスに説明を頼もう」
「それでは私から説明させてもらおう」
甲冑の大男とは反対に居る気難しそうな老人が話しを引き継いだ。
「それでは勇者よ、ステータスを見せてもらおう。
これから貴方が魔法を中心に鍛えていくか、剣術を中心に鍛えていくかを決めなければならない。
ステータスオープンと言うだけでよい」
男の意思は確認されず、話が進んでいく。
しかし、異世界ファンタジーの物語を読み漁った男としては当然の展開で、後のストーリーの行方がどうなるかは分からないが、どうなるにせよ、ステータスの確認は必須だ。
「ステータスオープン!」
男は意気揚々と言葉を叫んだ。
すると男の前にステータス画面が現れ、それを見た男とステータスを確認しに降りて来たアグノスは言葉をなくした。
ステータス
LV1
HP/E
MP/S
物攻/E
魔攻/S
物防/E
魔防/E
運/E
称号
異世界人
スキル
なんだこのステータスは?
魔法特化の様に見えるが何も魔法を覚えてないし、スキルも無かった。
いや、これから魔法を覚えて無双するのか?
男がアグノスの方を見ると、アグノスは渋い顔をして王様に報告する。
「え、MPと魔攻が驚異的に高い」
アグノスの報告に王様はそうかそうかと弛んだ顎を揺らして笑顔で頷く。
「しかし、その他のステータスは村人と同等かそれ以下。
スキル欄に魔法に関するものは一切なく、宝の持ち腐れ。それどころか一つもスキルが無い。 そして極めつけは称号欄に勇者がありません」
温度が下がった様な気がした。
これまでの歓迎ムードが一気に消え失せ、周りは男を蔑むような目で見下しはじめた。
「ゴミを、召喚したとでも言うのか?」
「まったく、その様ですな」
王様の言葉にアグノスはゴミ屑を見る様な目で男を見下すながら答えた。
「もう良い、召喚は失敗した!
そのゴミを城外へ放り出せ! こちらが召喚した手前命は取らずにいてやるのだ、ありがたく思え!」
王様の言葉に男は広間に入って来た鎧を着た騎士達に両脇を抱えられ、あれよあれよという間に城外へと連れ出されていく。
最後に騎士に尻をけとばされ、俺は城外へとほうりだされた。
仕事を終えた騎士達は、間抜けな男の姿を見て笑いながら去っていった
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あとがき
食欲の錬金術師〜草しか食べれないエルフは禁断の錬金術に手をかける〜
https://kakuyomu.jp/works/16817330664101609771
忍者が箒を使って何が悪い!
https://kakuyomu.jp/works/16817330662918128563
の2作品をカクヨムコンテスト9に応募しています。
そちらの評価とコメントも頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします。
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