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それから何度かの恋や情動を挟み、僕は今もひとりだ。育ち切る前に枯れた花を愛でるように記憶に残しては、懲りずに次の花を育てる。この世界には亜貴ちゃんより相性がいい人などいくらでも居て、まだ巡り会えていないのかもしれない。
失恋が永遠の別れになんてならないのが現実だ。窓から外を眺めれば、通勤途中の彼女が自転車で目の前を通り過ぎていく。お互いに気恥ずかしくて声は掛けないが、それが日常の風景になっている。
『……だから〈BIG LOVE〉って返した!』
『アンタ、また浮き足立ってない?』
『僕は学習する男だぜ? 次こそは大丈夫なはずよ!』
『そういう時の
半年に一度ほど、急に思い立ってメールのやりとりをする。亜貴ちゃんは未だにスマホに変えていないようだ。お互いに恋愛感情はほとんどなく、ただ気楽に話し合える関係性になっていた。
まだ付き合っていた頃の亜貴ちゃんに貰ったポストカードが、本棚の隅で埃をかぶっている。溶けた時計が特徴的なその絵画は、『記憶の固執』という題名だ。妙に頭に残る、好きなタイトルだった。
固執した時間と記憶はいつか地に溶け、栄養に変わるのだろうか。枯れない花も、腐らない実も、記憶から消えれば全て嘘になるのだろうか。
自分を呪っていたのは自分自身だ。それは重々承知しているが、まだ解けていない物もあるのだろう。20年の恋は僕を救い、苦しめ、消えない痕を刻んだ。亜貴ちゃんの面影を振り切れる時は来るのだろうか、と今でも思う。
亜貴ちゃんが僕の我儘を受け入れていた理由は、未だにわからない。恋心なのか、責任なのか、惰性なのか。考えても仕方ないことなのかもしれない。
5年前だと出来なかった事がひとつだけ残っていた。いつか2人で酒を飲んで、あの日の話でもしよう。
Andante 狐 @fox_0829
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