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 音信不通の期間は2週間だったが、僕にはその時間が永遠に思えた。それまで毎日やり取りをしていた相手から急に連絡が止まったのだ。フォローしている彼女のアカウントに更新はなく、送ったメッセージは既読すらつかない。直接顔を合わせない関係性は想像以上に希薄で、力強く構えていられるほど強くは居られなかった。毎日スタンプを送っては返信の確認を行い、落胆する。

 だから、返信が来た時に最初に浮かんだのは安堵だった。通知の数字が4つ増えているのを確認し、安心感と共にトーク画面を開く。

 直後に来たのは衝撃で、その後に来たのは「意味がわからない」という感情だった。


 スクショ4枚分の別れを告げる長文だ。3週間前に同じクラスの男子に誘われ、一晩を明かしたこと。最初は断ろうとしたが、なし崩し的に言い寄られる内にその人のことを好きになってしまったこと。その人に処女を捧げたこと。文章の締めには、「遥人ハルトくんがどれだけ私のことを好きかはわからないけど……」という文言が書かれている。

 謝罪の形を成していたが、そこに僕への想いが残っていないことは明白だった。何より、僕は彼女にとっての“大切な人”になり得なかったのだ。僕の感情は、何も伝わっていなかった。

 震える指で「友達に戻ろうか?」と打ち込み、嘔吐えずく。こんな時でも嫌われまいと、消極的選択を取ってしまう。口汚く罵って関係を切ってしまえば楽なのに、混乱していた頭はまだ関係を続けることを願い続けている。


 SNSを開く気力もなかった。見知ったフォロワーに別れた理由を連絡してひとしきり愚痴を吐くことも考えたが、タイムラインを見るたびに気分が落ちる。スマホの電源を落とそうとした瞬間、通知欄に残った新着メールが目に留まる。亜貴ちゃんだ。

 今思えば、これは最低の行為だ。身勝手に関係を終えた相手に、もう一度連絡するなんて。あまりにも独りよがりで、どうしようもなく無様な行いだ。

 それでも、僕はすがってしまった。襲ってきた現実に耐えられなくて、安心できる場所を求めた。どんな反応でもいい。幻滅してくれ、怒ってくれ。最低だとなじってくれ。そうしないと、捨て鉢の感情が向かう先がなかった。


『浮気されて、フラれた』

『だから言ったじゃん!!』

『ごめん……本当にごめん……』


 普段なら僕の不幸話をケラケラと笑いながら聴いている亜貴ちゃんが、その日だけは真剣だった。訥々と綴る言葉に寄り添うかのように、僕を否定することなく「相手と関係を切った方がいい」という言葉が返ってくる。学生のうちからの性交渉は、彼女が度々言う“責任”から外れる行動だったらしい。

 別の人を好きになってしまったのは僕も同じなのに。同じ気分を亜貴ちゃんが味わっていてもおかしくないのに。普段顔を合わせて話す分、文章から彼女の気持ちを読み取るのが難しかった。


『数年経てばきっと笑い話になるから元気出せ!!』


 2ヶ月前に別れを切り出したのは僕だ。彼女の忠告を無視して突っ走っていったのも僕だ。それなのに、亜貴ちゃんは僕を嫌わない。長年の関係を裏切ってしまったのに。

 自己嫌悪で心が軋んでいた。頭と心が別の方向を向いていた。

 これは恥知らずと笑われても不思議ではない行動だ。僕がその言葉を打ち込むか逡巡している間に、彼女から届いた2通目のメールは短かった。


『どうせ帰ってくると思ってたよ』


 自由を得たつもりだった。相手の言う責任から逃避して、自分を直接的に愛してくれる人を求めて。

 焦りすぎていた。手を伸ばしても届かない存在に身を乗り出して、ずっと身を守っていた鎖の存在に気付かなかった。この首輪は、まだ外すべきでは無かったのかもしれない。


「やり直そう」という言葉を亜貴ちゃんに告げたのは、それから6日後だった。

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