20××年〜20×1年の授業振り返り

@madowaku

1:20XX年4月の授業振り返り

4月第1週

 受験が来年にあるからと、おじさんに紹介されてながれるままに個別授業の塾に通うことになった。

 担当の先生、凛瞳 秘軋りんどう ひとぎし先生に通う経緯を聞かれたから、そのまま答えた。

 特に何か指摘するでもなく、日記をつけてみるといいと言われた。

 この新品の小さな日記帳を渡されたときは、話が繋がらなくて戸惑った。

 先生曰く、担当した生徒には授業の振り返りを書く用で毎回配布しているのだとか。それならそうと最初からそう言えばよかったのに。

 しかも自分に見せなくていいとまで言ってきた。ではこの日記の意味とは?

 けれど、日記は書いたことがなかったのでこの先生の口車に乗ったつもりで書いてみようと思う。

 なんだかそんな気分になったからだ。


4月第2週

 先生の授業は静かで、気楽だ。一緒に問題にとりかかることもあれば、自分一人で取り組むこともある。そのバランスがちょうどいい。先生が話す一人ごとはまるでラジオのようだった。

 こんなにおしゃべりができる人は、少々羨ましくもある。でも、この先生は経験したこととか、感じたことを普通に話すけれど、身の上話や家族の話は全然しない。話してほしいというわけじゃないが、気にかかる。生活感?が無い。

 でも正直、それでいいのかもしれない。家族のことは、血の繋がっていない家族しかいない私には多分共感できないし理解もできない。家族観が違うから。


4月第3週

 散々な日だった。持病?なのかもわからない息苦しさが塾に行く途中にやってきた。幸い、塾には間に合ったが、普通の状態で授業は受けられなかった。

 様子のおかしさは先生に指摘されたが、言わなかった。大きい病院でも原因がわからないから、先生言ったところで逆に困らせてしまう。

 今回の先生の世間話は少し控えめだった気がする。気を使わせてしまった己の情けなさに呆れた。

 やけになって、いつも通りでいいと言ったら、分かった。そうするよ。と言ってまたラジオのように、ただつらつらと喋り始めた。

 正直嘘だろと思った。普通なら遠慮か譲歩するはずなのに、この先生はアッサリとスイッチを切り替えるように喋り始めた。でも、気分は紛れるので何も言わなかった。


4月第4週

 ゴールデンウィークが始まる。塾も休みに入るので、一週間さらに期間を開けることになる。当たり前だが、宿題も多めに出された。

 ゴールデンウィークは何をすると聞かれた。積読消費と話すと、溜まったものは心の荷物になるから、それを消費するのはいい機会だね。と、先生は微笑んだ。

 ジャンルとか具体的な作品名を聞いてこないので、少し拍子抜けした。自分から出した話題はあまり広げないらしい。自分はいつもラジオのように話すのに?

 苦情が来るどころか他の先生や生徒からはコアな人気を誇っているのに?

 なんだか癪なので、聞き返してみた。仕事とダラダラゴロゴロするかな、と微笑みながら断言した。相変わらず、その言葉から生活感は一切ない。あからじめ用意してきた台本から抜き取ったかのような声だった。

 恋愛ドラマのあざとい女子ならば、え~意外です~なんて言いそうな回答だった。言及を避けたいのか、本当なのか分からない。

 無害な雰囲気を纏った先生との妙な距離感は、たまにズレを感じることはあるけれど心地いいものだった。

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