第287話 30人のトリプルランク
「春樹、起きろ。春樹ー」
「ッ!?」
夢……、です。
また燃やされたな……。
何にやられたのかは、またわからなかった。
【気配察知】には反応がなかったし、姿も見えなかった。
たぶん暗闇の中から、俺が隙を見せる瞬間を狙って撃ってきているのだろう。
まったく、卑怯な奴もいたもんだぜ。
いずれにせよ、現実なら2回も死んだことになる。
夢で良かった、と思うしかないだろう。
「おいおい、大丈夫か?今、佐藤さんが30階層に入ったところだ。最後の組だな。戻って来たら撤退だぞ」
時間を確認したら予定よりオーバーしてる。
俺達の番は無しだね。
佐藤さんも本来なら時間オーバーということで中止になるはずだけど、女性陣の熱い要望でラスト一回が叶ったらしい。
佐藤さんはイケメンな上に常識人で性格もいいから仕方ないね。
佐藤さんの欠点と言ったら無口なことくらいだ。
クラスの黒ギャルによれば、喋らないのはダメらしいけどイケメンならOKらしいです……。
ここまでよく女性陣に付き合ってくれたし、それぐらいのご褒美があってもいいだろう。
「大丈夫、起きたぞ。怪我人とかは?」
「何人かいたと思うけど、白石さんが治してたな。意外だったけど、戦闘職の人たちが結構怪我してた」
上位ジョブになって力加減がわからなくなったり、新しいスキルを試そうとしちゃうからね。
思い通りの挙動をしないと怪我する人も出るだろう。
白石さんが来てくれてよかったね。
「撤退の準備は?」
「あとはお前が寝てたところに荷物を積み込むだけだ」
もう終わってる、と。
霞さんも10分もしないで戻って来るだろう。
なら……。
「少し先のやつを間引いてくる。霞さんが戻ったらそう伝えてくれ」
「あ、それも本堂さんたちが行ったぞ」
ええー。
やることないじゃん。
まあ手伝いに行くか。
邪魔しないように離れてやろう。
︙
︙
「で、ここまでオーガがいなかったわけか。まあ楽できたからいいけどな。よし、じゃああと3階層、急ぐぞー!」
「「「オー!」」」
『28階層のゲート』前でみんなと合流。
『30階層のゲート』からここまで戦闘無しで来たみたいだ。
っていうかアネゴさん先頭で来たね。
「一日中30階層で戦いっぱなしだったのに、元気ですね」
「まあ戦ってたのはほとんど霞さんだからな。アタシは走ってただけさ」
その霞さんは言葉数少な目だ。
お疲れの様子です。
同じく一日中踊りっぱなしの相川もグッタリしているね。
ここからは戦闘職の人が前に出てくれるので、ゆっくり休んでほしい。
後ろは俺が何とかしよう。
暗くなり始めた中を駆け足で進んだ。
途中、ロボ子さんが恋に落ちる瞬間を目撃してしまう……。
あの無口男、何も言わずに遅れ始めていたロボ子さんからロボの乗った充電ステーションを奪いましたよ。
ロボにしか興味がないはずの女性が、ポッてなってましたね。
俺はギャルに騙されていたのかもしれない。
クールキャラしか勝たんのですよ。
︙
︙
「着きました、ね。全員いますね?点呼を取って夕食にしましょう」
『もうムリー』
『夕食ってまたビスケット?温かいモノ食べたーい』
『夕食班と見張り班に分かれるよー』
『オウボウだー!』
26階層から25階層に移った時にはすでに真っ暗だったね……。
みんなお疲れのご様子。
元気なのは昼間に寝ていた俺くらいか?
ならこの辺のフォレストオーガもさっさと片付けてしまうか。
︙
︙
『じゃあこれはわかる?そう、賢いねー。ヨーシ、ヨシヨシヨシー』
午後9時を回り、キャンプ地は静かになった。
夜番の人もウトウトしていて、さっきまでのお祭り騒ぎが嘘のようだ……。
自分ジョブだったり、スキルを自慢したり、この依頼から帰ったら本部で店を出すんだ、って人がいたり……、
今は【調教士】のお姉さんがワンコに話掛けている声だけが聞こえてくる。
お姉さんは新たに【飼育士】というジョブになったらしい。
【調教士】の上位ジョブは動物との意思疎通が可能になるスキルを覚えられるらしいので、お姉さんもさっそく取得したみたいだね。
【調教士】の時点でもこちら側の言うことをペットは理解できていたみたいだけど、上位ジョブになるとこちら側がペットの思ってること感じ取れるようになるそうだ。
俺もお姉さんの言ってることがわかるのでヨシヨシをですね……。
(あ、湧いた。本陣に近いね。お?佐藤さんが行くか……)
もう一人元気なのは佐藤さん。
時間外なのに昇格させて貰えたので、今日は一晩中見張りに立つと言っていた。
昼もずっと起きてたのに大丈夫かな?
佐藤さんが就いたジョブは【策士】。
【罠士】の上位ジョブだ。
っていうか佐藤さん、【罠士】だったのか……。
斥候職で苦労してきたはずなのに、上位でまた斥候職になるなんて……。
なんて思ったけど、サブも斥候職で斥候職3つの筋金入りらしい。
(お?倒した。叫び声も上がらなかった。お見事です。っていうか本陣の近くに罠張ってませんよね?戻ろうとして掛かったらどうしよう……)
他に、服屋さんの二人が、【名縫士】【名工士】になってたね。
針のお姉さんが【名縫士】、鋏のお姉さんが【名工士】だね。
鋏のお姉さんは一回で決めれなかったみたいで、夕食の時にみんなに謝ってた。
俺もこの前、決められなかったから気持ちはよくわかる。
あとはレベル29の人が【中剣士】、レベルも30になったみたいだね。
ロボ子さんはロボ系のジョブが出なかったって嘆いてた。
上位ジョブはスキルから派生する場合が多いから、初級でロボを操作するスキルを覚えるジョブに就いてないとね。
︙
︙
「結局朝まで襲撃なし、か……。どうなってんだ、お前は?」
朝御飯を食べてる時に、アネゴさんにジト目で見られる。
「まあ近い方は佐藤さんが請け負ってくれたので……」
チラッと佐藤さんの方を見ると欠伸をしてる。
眠そうだね。
今日はこのまま1階層まで帰る。
時間的には19時までにはということになっているが、佐藤さんは大丈夫かな?
「春樹さん、出発したら私の方の荷台で少し眠ってください。帰り道は姉御さんも前に出ますし、皆さんすでに上位ジョブです。心配はいらないでしょう」
お言葉に甘えることにしようか。
元々怪我人や疲れてる人は荷車に乗せてもらう予定だった。
佐藤さんに休んでもらいたいが、普通に休んでと言っても聞かないだろうから、俺が最初に休んで佐藤さんと代わろう。
「俺だけじゃなく、疲れてる人に交代で休んでもらいましょう。あ、俺も荷車引きますよ?」
︙
︙
寝てくれと言われても、フォレストオーガに襲われながら寝れるわけなかった……。
結構な戦闘音がしてたからね。
爆発音とか聞こえたんだけど気のせいだよね?
今は霞さんと荷車を変わり、後ろには佐藤さんが寝ている。
本当に寝てるかわからないけど、なるべく静かに荷車を引くことにしよう。
「戦闘職の奴ら楽しそうだな。逆に生産職の奴らは早く帰ってスキルを試したいって感じだな」
道中は隣で別の荷車を引くミアさんと会話しながらだ。
「少しバラけ過ぎてますね。注意してきます」
霞さんが行ってしまった。
「おやおや、昨日もお楽しみだったようだね」
見計らったように本堂さんが寄ってくる。
「はあ、まあ……」
「嫌そうな顔をしたわね。ねえ、貴方達、新ダンジョンの申請はどうするの?」
今月末までにトリプルランクだったら、お正月に現れるであろう新ダンジョンの調査に参加できるってヤツですね。
今回の昇格依頼も、元々はその条件をクリアする為のものだったんだよね。
ついでだから生産職の人たちもランクアップさせちゃえって感じになったけど……。
「オレは申請だけはするかな?」
ミアさんが答える。
「私達の方は本部で申請しても地方のダンジョンの調査を命じられそうなのよね。近場はたぶんトップ層が割り当てられるから。千葉ってミアしかトリプルいないんでしょ?遠くに飛ばされるよりは、千葉で申請出したらどうかって思っててね。それで春樹君たちはどうするのか気になってたのよ」
本堂さんたちも十分強く見えるけど、主戦場にしてるのは20階層台らしい。
都内に現れるダンジョンの調査は30階層台を周っているトップ層の冒険者が優先されるというわけか……。
「ああ、それいいな。アネゴたちも地方に行くよりは千葉でやった方がいいだろ。1階層戻ったら全員に声かけてみるか。折角祭りになるなら、みんなで騒いだほうが楽しいだろうしな」
「でしょ?春樹君たちがいれば、一般職のみんなも参加できると思わない?」
応募条件はトリプルランクであること、だけなはず……。
戦闘職とか一般職かの括りはなかったね。
一般職にも調査に役立つスキルを持つジョブは多いだろう。
ミアさんで言えば、触った金属の名前がわかるスキルを持っていたはずだ。
「春樹達はなー。わかってると思うけど内緒だからな」
一般職でも相川のダンスがあれば、十分戦える。
それを今回、証明してしまった。
各ダンジョンの調査は30階層までとなっている。
相川がいて、ボスフロアにさえ入らなければ、問題なさそうではある……。
「高校生がトリプルランクだなんて、ものすごい話題になるわよ?秘密にする意味って何かしら?」
上位ジョブ持ちなのはバレてますね。
力を示し過ぎたというやつです。
俺だけじゃなくて総司も29階層で目立ってたみたいだし。
まあ普通なら喜んでトリプルだって公表して自慢するのだろう。
ただ、俺の場合は話題になるのがね……。
「そうやって痛くもない腹を探られることだろ?いや、霞さんと春樹さんのことを知られるのはマズいな……」
「腹は痛かったわね……」
本堂さんは納得してしまった。
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