冒険者ダンジョン出たらただの人
木村雷
一章 6月は立派な夏
第1話 誕生日プレゼント
本日6月1日、俺こと
18歳と言えば日本においてダンジョン入場許可が下りる年齢だ。
俺は兼ねてより計画していた通りに学校を休み、最寄りのダンジョンに併設されている冒険者協会の支部にて冒険者ライセンスの発行手続きを行っている。
平日の午前という時間帯の所為か、どうやら今回ライセンス発行を申請したのは俺だけらしい。
教室のように机と椅子の並べられた大き目の部屋に俺一人だ。
「おめでとうございます。春日野春樹さん、書類に不備はありませんでした。これであなたも冒険者です」
ガラガラっと引き戸を開けて部屋に入ってきた女性の声が響く。
書類を提出した窓口にいた黒髪を後ろでまとめた活発そうな美人だ。
受付嬢は全国どこの支部でも全員美人だという噂は本当らしい。
誕生日に美人からおめでとうと言われたのだからはそれはとてもいいことだ。
ハイっと誕生日プレゼントみたいに手渡されたのは、俺の顔写真入りの冒険者ライセンス。
審査が通ったあとに写真撮影があったので、そこから作り始めて、色々と説明を受けている間に出来上がったらしい……。
「あ、ありがとうございます」
思わずお辞儀をしながら両手で受け取ってしまった。
「この後はダンジョンに入って『ステータス』の確認をしましょう。『ステータス』は個人情報と同じ扱いになるので他の方に気軽に教えないようにして下さいね。もちろん私たち冒険者協会の職員に聞かれても、です。特に『特殊スキル』は聞きたがる人が多いので注意してください」
話しにあった『特殊スキル』というのはダンジョンに入ったときに最初から一つだけ覚えている強力なスキルのことだ。
ダンジョンに入り、レベルを上げることで覚えることが出来る普通の『スキル』は自分で選ぶことができる。
しかし、この『特殊スキル』は何を覚えているかわからないが、その分強力で特殊な能力を秘めているのだ。
強力なスキルを持っている者を仲間に引き込めばそれだけダンジョン攻略が楽になる。
なので強引な手段で仲間に引き込んだり、海外ではその力を利用しようと誘拐まで起こっているらしい。
「申し遅れました。私、本日の講習の担当となります、
シングルランクとはダンジョンの10階層を突破した冒険者のことだ。
10階層を突破した時に『ジョブ』というものが得られて、その『ジョブ』ごとに『スキル』を覚えられたり、『ステータス』に補正が付いたりするのだ。
後で聞いた話だが職員は採用試験の段階で10階層まで連れていかれるらしい。
パワーレベリングというやつだな。
そのシングルランクなら1階層で出てくるモンスターなら難なく倒せるはずだ。
「春日野春樹です。よろしくお願いします。」
さっき思いっきり名前を呼ばれていたが一応名乗っておく。
協会の支部はダンジョンに併設されている。
と、いうかダンジョンに移動できる『ゲート』と呼ばれている空間の亀裂のようなものを覆う様に建てられた施設だ。
この部屋は支部の建物の2階にあるので、1階にある『ダンジョンゲート』を目指して受付嬢こと林さんは進んでいく。
もちろん俺もそれに続いていく……。
「これが『ダンジョンゲート』……」
空に浮く様にして存在する空間の亀裂。
動画や写真では見たことはあったが、実際に見るのは初めてだ。
高さは2メートル程で、横幅は真ん中の一番広いところで1メートルあるかないか、歪な菱形の様な形だ。
ゲートの手前には駅の改札の様なものがある。
それに先程貰ったライセンスをかざすとピッという電子音が鳴って改札が開いた。
誰が入って誰が出たのかここで管理しているのだろう。
「それでは入場しましょうか」
スッと亀裂の向こう側に消えていった受付嬢……林さん。
深呼吸してそれを追う。
ゲートに触れてみるが、感触はない。
ただ夏にクーラーの効いた部屋から出るような、温度が変わる様な感覚だけが手の先で感じられる。
思い切って通り抜ける……。
「っ」
『ダンジョンゲート』を抜けた先も建物の中だった。
ダンジョンの中にある地上世界へと戻る『ゲート』も建物に覆われているらしい。
「ようこそ千葉ダンジョンへ。それでは【ステータス】と口に出して言ってみてください」
『ステータス』。
ダンジョンの中ではこの『ステータス』というもので身体能力に補正が掛かり、人間離れした動きが出来るようになる。
それを見るためには【ステータス】と唱えないといけないらしいのだ。
同時に覚えたスキルや、ジョブなんかも確認できる。
今俺はすでにダンジョンに入っているので、『特殊スキル』を覚えているはずだ……。
「はい。【ステータス】」
頭の中に文字と数字の列が浮かび上がる。
名前:春日野 春樹
ジョブ:なし
Lv:1
HP:10
MP:10
腕力:1
耐久:1
敏捷:1
魔力:1
スキル:【ゲート】
ゲート?
ゲートってこの『ゲート』?
俺は目の前にある自分が通ってきた空間の亀裂を見ていた。
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