第50話 銀髪の彼に、不審者認定されました

「いたっ! 私凶器なんて持っていませんよ」

「うるさい!」


 更に手に力が込められてしまいました。

 これ……確実に痕が残るやつですよ。


「お前、さっきからこの辺りをうろうろとしていたな? 貧相な格好でフリューエル家の近くをうろうろと……。舞踏会を妨害する気か?」

「まさか! とんでもない。むしろ、その逆で、私はただ」

「……ただ?」 


 ええっと、その後何と言えば良いのでしょう?

 ちらり、セーラを見ましたが、彼女は相変わらず激しく喋ってはいますが、何を言っているのか不明状態です。

 これは自分の力で立ち上がれ……ということなのでしょうか?


「ええっと。今回の舞踏会に参加される「ユ」のつく方について……ですね」

「ユ? そんな奴、一体何人いると思っているんだ。莫迦なのか?」


 はい、その通りです。

 ご指摘頂くまでもありません。

 ……ですよね。

 これだけ大規模での舞踏会で、そんな名前を持つ貴族は山といますよね?


「じゃあ……その……貴族のどなたかに、セーラという名の奥方がいらっしゃる」

「そんな名前の女性、いないぞ」

「いない?」


 即答だったので、むしろ私は驚きました。


(この人、賓客の名前……全部知っているの?)


 だとしたら、ただの衛兵ではないはず。

 青年が至近距離で、まじまじと私の顔を覗き込んでいます。

 長い銀髪を一つに結いあげている。

 冷たい水色の瞳の男。

 エオールとは真逆の黒づくめです。


「どうかされましたか!?」


 彼の背後から緊張感を漲らせながら、数人の揃いの格好をした人たちが走ってきます。

 ああ、あの人達が本物の衛兵。

 丁寧語で青年に話しかけています。

 ……ということは?

 彼は偉い貴族様?


(黒づくめなのは衛兵の制服なのだと思ったけど、違ったのね。上流貴族って一色に拘る人が多いのかしら?)


 ……なんて、現実逃避していたら。

 青年は私の背後を睨みつけ……。


「ともかく、お前には色々聴くことがありそうだな」

「いや……私は決して怪しい者ではなくて」

「どの面下げて、怪しくない……と?」


 そうですね。

 今の私には怪しさしかありませんよね。


「ついて来い」

「え……あ……ちょっと。無理です。無理」


 青年が容赦なく私の腕を引っ張って、何やら大移動が始まりました。

 ……まずい。

 抵抗したらもっと大変なことになりそうですが、抵抗しなくても、大事になりそうな予感。


(倒れてみようかしら? ああ、でもこの人に捕獲されたら、身の破滅だわ)


 赤くなったり青くなったり、表情だけころころ変えながらも、身体は恐怖でまったく動けません。

 抵抗すら出来ずに、そのまま謎の青年に連れ去られそうになっていた私でしたが、そこで再び声が掛かったのでした。

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