ロマンスグレーな彼女

古希恵

第1話

 また救えなかった。幾度と繰り返しても同じ結末を辿る。彼女を支えると手が真っ赤に染まった。手にはべっとりと血がついているはずなのに、生暖かい感触はなく、真っ赤な絵具が手についているような感覚に襲われる。何度も繰り返すうちに感覚がマヒしてしまったのではないかと自分自身が怖くなる。唯の姿をみて、何もできなかった自分への嫌悪感。この現実を変えるために奔走したはずだったのに。


 薄明色の空の下、変えられなかった現実を突きつけられ、ふと空を見上げると立っていられなくなった。膝から崩れ落ち、痛みがこみ上げる。


 もう泣き叫ぶこともできないくらいに心は疲弊していた。


 ただ涙をながしていた。初冬となれば風は体を貫くように冷たく、体に吹き付けてくる風で自分は生きているのだと思い知らされる。また僕だけが生きている。何度繰り返せばいいのだろうか。


 唯を救う前に犯人を見つけて殺してやる。


 また同じ日の朝を迎えるくらいなら、唯を殺す少し前に戻りたい。いま目にしている現実が起こってしまう前に戻って、犯人を殺す。

 世界をやり直したい、時間が戻ればいいのにと生きてきた二十八年間で何度考えたかわからない。しかし、いざ戻ってみれば、何も変えられない、自分が変えたい現実を変えられないまま時が流れる。時間を戻すことができたとしてもそれ以外になにもできなければただただ無力だ。


 時間は繰り返されるが、同じ行動をとらない人物もいれば、全く同じ行動しかとらない人物もいる。これは僕自身の影響なのか、それとも決して同じ時間軸はなく、時間が戻ったとしても、微妙になにかが違う、微妙にずれていく。望む結末に向かっていかない。

 唯が死んでしまうという事実は変えられないのだろうか。

 やるしかない。なぜかわからないが僕は死ぬことで時間が戻っている。最愛の人が殺される現実を変えられる可能性があるなら理由なんてどうでもいい。なんとしても、僕は唯を救う。そう決意したが、何一つ変えられない現実に心が折れそうになる。


 同じ悲劇を見ることから目を逸らしたい。もう繰り返したくない。


 だけど、唯を救うには現実を見なければいけない。目を逸らしたいが、唯の死を変えることはできない。逃げてばかりではなにも変わらない。


 何度でも繰り返そう。


 そう決意して、薄明色の空に向かって僕は飛んだ

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