仮設置
かわくや
約束
女神。
もし仮に、そんなものがこの世界に居るとするのなら、きっとこんな姿をしているのだろうと思った。
月明かりを受けて輝く床に広がった白髪に、儚む様に、慈しむようにこちらへ向けられる蒼白の瞳。
それだけでも美しい物だと感じるのに……何故だろう。
僕は異常としか言えないその他の部位に強く目を惹かれているのだった。
例えば、未だとろとろとチョコレートのような鮮血を吐き出し続ける腕の断面。
例えば、本来決して人目に触れる筈もない内臓が終わり掛けの生を維持しようと脈動する様。
本来なら一つの生の終わりを告げるだけの危険信号は、今ばかりは僕を淫靡に誘う性的差異としか思えないのだった。
それを意識するだけで僕の息は自然と荒くなり、溢れんばかりのよだれが一瞬で口内を満たす。
据え膳食わぬは……と言うように一度手を着けたのなら、決して毛の一本残す気は無かったが、僕には良く分かっていた。
この先にあまり時間は無いことが。
だから……そうだな。
次に会うことが有るとすれば、それは紅の月明かりの中。
僕らを作った水辺の傍らで、いずれまた。
仮設置 かわくや @kawakuya
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