夜道とかげろう

糸色海

夜道とかげろう


 私は暗い夜道をひとりで歩いていた。用はなかった。宛もなかった。目的も目標もなかった。だから今になってこんな寂しい道を歩いているのだ。

 空を見上げると、いつの間にか星々の明かりがなくなっていた。月は闇に霞、ぼやけている。もしかしたら私の視界がぼやけているのかも知れない。だが、それを確認する術はない。私は歩みを続けるしかなかった。

 そうして歩いているうちに、背後から懐かしい風が吹いてきた。どこか生ぬるくて、爽やかな風だった。

 私はなぜだか歩みを止めた。そして振り返ってみると、遠くの方に夕陽が見えた。黄昏の空の下では、陽炎がゆらりと揺れていた。ゆらゆらと歪む陽炎が人の形となり、こちらに手を振った。

 私は陽炎に向かって走ろうと試みたが、足元から伸びる無数の手が、それを阻んだ。一連の動きを見ていた陽炎は、哀しげに微笑んで消えてしまった。私はそれをしっかりと見届けて、再び夜道を歩き出した。

 もう一度空を見てみると、月も闇に隠れていた。希望は潰えた。それでも歩き続けた。どれほど歩いたかは分からない。そもそも歩けているかも分からない。そんな時、ふと儚い光を纏ったカゲロウの番が、私の目の前を横切った。刹那、私の脳裏には絶望の文字が浮かび、自らの死を悟った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夜道とかげろう 糸色海 @GZkit

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ