第7話 新たな魔法

「いやいやいや……そんな無茶苦茶な仮説、ありえるかよ」


「それがありえるかも?」


「だって倒してた」


「確かに……」


 突拍子もない考えだとは思うけど、筋は通ってるんだよなぁ。

 言われてみれば下層で無属性魔法を使ってきた、なんて話は聞いたことがない。

 大抵は炎や水といった属性魔法が超強化されて襲いかかってくるとかだ。


 で、無属性魔法があまり存在しないということは?

 Sランクモンスターも無属性魔法をあまり経験したことがないという事。

 

 つまり無属性に対して十分な耐性を得られなかったのではないか、ということだ。


「納得するしかないかぁ……」


「なんでもポジティブに捉えた方がいいと思うよー?」


「れなは元気だなぁ……」


「当然!! アタシはいつでも元気だからねぇ……エッチな意味でも♡」


「そっちはポジティブにならんでよろしい」


 こいつの下ネタは何とかならんのか

 と、妹の方に視線をやるが、首を横にブンブン振られてしまった。


「さーて!! 面白くなってきたし、アタシ達も頑張らないとなー!!」


「その前にまず怪我を治すところからだろ」


「あはは……そうだったね」


「姉さんはいつも慌てすぎ」


「真白ちゃんにまで言われちゃった……しゅん」


 わざとらしい落ち込み方だ…… 


「あ、そうだ!! よかったら無名くんもウチの事務所に来ない!?」


「あぁ、事務所……事務所……俺が?」


「うん!」


「ダンジョン配信者の事務所に?」


「うん!!」


「人気ライバーが所属している、超大手に!?」


「うん!!!」


 俺の問いかけに、れなはキラキラした顔でどんどん迫ってくる。

 そんなに入れたいのか俺を!?


「また姉さんの思い付き……ウチは真白達二人しかいないのに」


「尚更気まずいわ!! 悪いがお断りさせてもらう……」


「えー!! Sランクモンスターをソロで倒した謎の美青年って超配信映えすると思うけどな―!!」


「字面だけ見たら面白そうだな……ってダメだダメだ!!」


 一瞬傾きかけたけどNO!!

 後、俺は美青年ではない。勝手に盛るな。

 

「せめて理由だけ教えてよー」


「まず第一に俺は配信スキルがない」 


「うん」


「配信のプロがいる場所に、素人が行った所で迷惑をかけるだけだ」


 妥当な理由だと思う。

 ただ、ダンジョンを探索するのと、探索しながら配信をするのは勝手が違う。

 攻略すればいいのではなく、攻略して楽しませなければならないのだから。


「それはアタシが教えるよ? 先輩にまかせなさーい!!」


「くっ……」


 確かに頼りになる先輩がいた。 

 登録者140万人超えの配信者から教えてもらえるなんて、いくら積んでもいられない経験だろう。


「き、機材とか何もないし」


「アタシ達の機材は基本、事務所が貸してくれるよ」


「しかも最新鋭のドローンカメラまで搭載」


「ぐぅ……!!」


 再び心が揺れる。

 ドローンカメラかぁ。一度試してみたかったんだよなぁ、どんな風に映るんだろう。

 

 ってダメだダメ!!

 強く、もっと心を強く持て。


 カオスドラゴンの件だって偶然だろうし、俺は彼女達の足を引っ張ることしかできない。

 俺は一人がちょうどいい、他の事を学ぶ余裕なんて……


「そういえば真白達の事務所、徒歩三分の距離にダンジョンが……」


「え、マジ? ちょっと話聞きたい」


「くふふ……欲望出しちゃったねぇ♡」


「あ」


 舌をペロっとだして悪い笑みを浮かべる悪魔の美少女

 ハメられた……

 

「どうするー?」


「一度お邪魔してもよろしいでしょうか……」


「どうぞー♡」


 ここまで外堀を埋められたら、行くしかないでしょうよ……

 バカにされ続けた人生を歩んでいた俺にとって、こんな輝く道を提示されて困惑している。


 果たして俺に向いているのだろうか。 


「でも怪我を治してからだぞ?」


「あっ……はーい」


「今から行くつもりだったろ……」


「てへ」


――――――――――


「さて、まずは俺の実力を試すところからだな」


 ここはAランクの新宿ダンジョン。

 スライム感覚でAランクモンスターがうじゃうじゃいる、高難易度ダンジョンだ。

 本来なら一人で潜るような場所ではないのだが、少し行く程度なら問題ないだろう。


(あれからスキルカードを見てたけど、いくつか魔法が増えてたんだよな……)


 スキルの覚醒ボーナスというやつだろうか。

 知らない魔法がいくつかあり、その魔法の詳細な効果を実践で試したいと思った。

 亜人姉妹が退院するまで少し時間はかかるし、その間に色々と試してみようと思う。


 と、何から試そうか魔法一覧を眺めながら考えていると、洞穴の奥からモンスターの気配を感じた。

 しかも一体じゃない。


「ブルル……」


「ブモオオ……」


「ブオオオ……」


「マジかよ……」


 赤黒い体に鋭い二本の角を生やした牛のようなモンスター。

 推定Aランクのデーモンバッファローが三体も現れ、こちらに敵意を向けながら近づいてきた。


 さすがAランク……いきなり3体も現れるなんて。

 ちょっと覗くだけで済ませようと思ったのに、いきなりハードモードすぎるだろ。


「「「ブモオオオオオオ!!」」」


 興奮状態のデーモンバッファローが勢いよく突進してくる。

 まずは足止めからかな……

 新しく覚えた魔法の一つの準備を始める。


「”剣山”」


「「「っ!?」」」


 無属性の魔力を込めると地面に半透明の剣が大量に現れ、草のように広がっていった。

 凄いな、刃の地面を生成できるのか。

 これだけの範囲を一瞬で……ん?


「「「ブモオオ……」」」


 突然現れた刃の地面に体をズタズタにされ、デーモンバッファロー達は力つきてしまった。

 死体になったデーモンバッファローは粒子となって消え、魔石と素材に変化する。

 

「まじかよ……」


 足止めのような魔法でAランクモンスターが即死?

 一体なぜ……あ


「固定ダメージか?」


 【無属性・極】に書いてあった、攻撃を当てるたびに固定ダメージを与えるというもの。

 まさか剣山でジワジワ体力を削るたびに、固定ダメージも一緒に入っていたのか?

 恐らく固定ダメージというのはそこまで高いダメージではないと推測しているが、何度も攻撃されれば話は別。

 積み重なったものが大ダメージとなって、相手に襲いかかる。


「塵も積もれば何とやら、ってやつかね……やばすぎぃ……」


 俺の潜在スキル、とんでもないみたいです。


◇◇◇


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