06-12
「ゴメンマチ家とオニヅカ家――ノアボックスの対立についてはアオヤギから聞いたね?」
「……あぁ、聞いたよ。オリーブのことも。……人類の危機ってどういうことだ」
静寂に包まれる純白の「部屋」で、見た目の爽やかさに反した、サイカワの低い声が響く。
「文字通りだよ。人類はその命運をミレイというAIに握られている。電脳空間『ボックス』はミレイにとって都合の良い人間だけが生きることを許される、そんな世界になりかけているのさ」
「……どうしてミレイにそんなことができる?」
純粋な疑問だった。
人の手で作られたAIだとしても、できることには限りがあるだろう。何桁もある数字の計算が瞬時にできるとか、超人的なことはその設計次第でできるだろうとは思うが、自分の能力だけでは完結しないところ――法律とか、規則とかシステムとか、周囲の人間による制止とか、そういったしがらみまでも簡単に超越できるわけではあるまい。
何らかの手段も無しに、それらを無視して自分の思い通りに事を運ぶなんて不可能だ。
「気に入らない人間を意のままに消すことのできるプログラムの権限を手に入れてしまったのさ。……正確には、10年前に奪い、かけられていたプロテクトを解除できてしまったのがここ最近という状況だ」
「アオヤギがその存在のみならず、人々の記憶からも消されたのがまさしくそれだ。ミソノが隠蔽工作を施した『虫』の拡張機能が使われている」
「……そんな、ありえないよ! そんな人権を無視したようなこと! 警察とか政府が見過ごすわけ……!」
ヒカリが珍しく声を荒げた。
自分にとって都合の悪い人間を消す?
そんな横暴、声を上げる人がいないわけ……。
「……消された記録が残れば、ね。その人がいた記憶すら消されてしまうんだ、気付く人がいない。気付かなければ騒ぎようがない。違和感を覚える人はいるかもしれないが、そんな人こそ消せば良いだけの話だ」
それほどまでに意のままにできる手段を手に入れてしまったのか。
ミレイの意思に反してしまったら最後、消されてしまう。人々の記憶にも残らずに。……なぜそんな危険な権限がミレイの手に渡ってしまったんだ……?
「……そんな強硬手段、いくらノアボックスでも、止める人がいないわけない! ミレイちゃんのお父さんは?」
「…………彼女の父に当たる人間はいないよ。彼女は作られたAIだから。……もちろん穏健派はいてミレイに抗議する動きもあったけど、そんな人達はみんなミレイに消されてしまったよ。現社長オニヅカ ケイ――ミレイがお父さんと表現した男は、ミレイがマスコミ向けの顔として使う被り物で、中身はミレイそのものだ。社長としての権限を持っているのはミレイで、ノアボックスの人間は誰も彼女に逆らえない」
「ここ一ヶ月ほどで、かなりの数の人間が消されている。それまではノアボックス社内の人間がほとんどだったが、この一ヶ月はそれに限らない。記憶までいじられているから騒ぎになっていないだけで、ここ一ヶ月で数百人は消されている」
そんなにも沢山の人が……。
開いた口が塞がらなかった。
「……もう少し経緯をお話ししようか。僕たちの生まれとその因縁の経緯を」
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