狼を食べた赤ずきん
小田牧央
一
教室は朽ちかけていた。すべての窓は夜の闇に塗りつぶされている。明かりは足元にあるランタンの形をしたLEDライトのみ。かすかに黴と埃の匂いが漂う。終わりのときが訪れるのを木造校舎は無言で待ち続けている。
暗い教室に二つの椅子がある。座面と背もたれだけ木製の板を鉄パイプにネジ留めした簡素な椅子だ。若い女と少女が向かいあって座っていた。
「
「事故でも自殺でもない」
――イエス。
「るららテラスにいる誰かが犯人だよね」
――イエス。
よし、と菜々歌は頷いた。ここまで来れば後は簡単だ。一人ずつ名前を挙げて確かめればいい。誰からにしよう。やっぱり男の人のほうが怪しいか。
「犯人は、
少女は首を左右にふった。ノーということだ。
「犯人は
――ノー。
「それじゃあ、
――ノー。
菜々歌はとまどった。もう犯人になりそうな人がいない。
「まさか
長雨の影響による川の増水で橋が水没している。事件発生当時、千香はここへ帰れなくなっていた。凄いアリバイトリックでも使ったんだろうか。頭が良さそうだし、ミステリードラマに登場する犯人みたいなことを本当にしたのかもしれない。
薬子は首を左右にふった。ノーということだ。足元にあるランプから斜め上に照らされているせいか、まだ中学生とは思えない妖しい笑みが一瞬浮かんだように菜々歌は感じた。
「そんなわけないと思うけど……薬子ちゃんが?」
――ノー。
どういうことか理解できず、菜々歌は混乱した。これでもう全員確かめた。この山中のシェアハウスでは五人が共同生活を送っていた。一人ずつ名前を挙げて確かめた。他に見知らぬ者がいるはずもない。それなのに五人全員が犯人ではないという。
(ひょっとして)
ふくらんだ風船に針を突き刺したように、混乱が一気に萎んだ。
なんだ、そんなことか。こんな小さな女の子が不思議な力で真相を知るなんて現実に起こるわけがない。本当かどうかじゃなくて、この子がどんな推理をしたかが大事なんだ。
「はいはい、そういうことね」
菜々歌は胸を張った。私は
「犯人はこの私、春洲菜々歌なんでしょ」
薬子は首を左右にふった。眉の上で切り揃えられた前髪が左右に揺れた。
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