第26話 同期3人の配信はわちゃわちゃだ
『動画編集終わったのでリンク送ります! 確認お願いします!』
ある日の夜、下井草からグループにメッセージが届く。3曲目の歌ってみた動画が完成したようだ。全く何も知らないため、これが初めての試聴になる。どんな感じか緊張しながらリンクを開いてみた。
「え…… ラップ??」
思わず声が出てしまう。なんと3曲目はちゃんみなの「美人」だ。有名な曲ではあるが、まさかのラップ。しかも素人目にもかなり難しい曲であることはわかる。
「歌えるのか……?」
しかしそんな懸念はすぐに解決した。歌い初めからバッチリハマった水咲ネネは、そのまま一気にサビまで歌い上げる。美しいがダークな雰囲気の動画と曲がよく似合う。
「おお、いいじゃないか! この発想はなかったなあ」
結論から言うと全く問題ない、むしろかなり良いクオリティだった。ラップ部分も全て綺麗に歌えている。練習したんだろうな。
『聞いたぞ! 最初はびっくりしたけどかなり良かった! まさかラップとは思わなかったよ』
『良かった〜 3人で話した時に敢えてギャップを出してかっこいい女性路線で行くのも良いかな、ってなってね。最近K POPが流行っているけどかっこよくて強そうな感じじゃん? 高木ちゃんもその路線で行ったらどんな反響が出るのかなと期待しているんだ』
『動画も本家を意識してちょっと暗いけど前向きな感じを出してみました! 伝わりますか?』
『ああ、問題ないと思うぞ。これで行こう! 明日、同期とのコラボがあるから、コラボが終わった時間に出そうか』
『了解―』
翌日はVキャスト新人同期とのコラボだ。事前の話通りにファッションチェックになったらしい。どんな感じになるか、リアルタイムで視聴することにする。
「こんばんはー。鬼丸ですー。今日は、新人3人衆のファッションチェックということで司会兼審査員をすることになりました。どうぞよろしくー。あと、視聴者による投票もあるから是非投票してくださいねー!」
「まずは、「友達と遊びに行く時の服装」です! では天野すうさんからどうぞ!」
画面に、マネキンと服が映し出される。服は、ゴスロリ!?
「すうちゃんは可愛いフリフリの服が好きだから、友達と遊ぶときはこういう服が多いかなあ。コスプレっぽくならない程度の服をチョイスしてみました!」
「な、なかなか個性的だね…… じゃあ次は、水咲ネネさんどうぞ!」
高木は、ピンク系のロングワンピースにしたようだ。無難で悪くない。
「友達と遊ぶときはこんな感じのワンピースが多いですね。気軽に着れてちょっとおしゃれな感じ!」
「おお、女の子っぽいね! ガーリーって感じの可愛い服だねー」
「可愛い服が好きなんですよ! すうちゃんとはちょっと嗜好が違いますが……」
「私はもっと派手な可愛い服が好きな感じかも! まあでも系統は似ているよ!」
「似ている、のでしょうか…… さて、最後は勇気レオナさんどうぞ!」
勇気レオナの服はTシャツにジーンズというラフスタイルだった。
「私はボーイッシュな服が好きだからこういう感じの組み合わせが多いかな。どんな場所に行っても浮かないしね」
そんなこんなで企画は進んでいく。天野すうはあまりにも独創的なファッションを披露し続け視聴者をドン引きさせ、水咲ネネはザ女の子の服装を、勇気レオナはボーイッシュなファッションを披露し、コメント欄で意見が分かれ盛り上がっている。3人でわちゃわちゃとお互いを攻撃しながら、審査は進んでいく。なんとなく高木が圧勝するかと思っていたが、高木も意外と変なファッションセンスなところがあったり、勇気レオナが意外とまともな服装をしていたりで、いい勝負になっている。
「デート服なら地雷系でしょ!」
「なんでそうなるの! 普通に考えたらシャツにミニスカートでしょ!」
「いや、スリムなデニムに短めのTシャツを合わせたスタイルこそ至高だ!」
コメント欄でも色々な意見が盛り上がっており、コメント速度も速い。いい感じだ。
「まあ視聴者の皆様はあまり女性とデートしたりしたことないと思いますが……」
鬼丸の一言でコメント欄がピタッと止まる。
:は?
:そんなことないんだが?
:取っ替え引っ換えよ
コメント欄は全否定、今まで以上に荒れている。Vtuberリスナーと恋愛は最も遠い存在である、それは認めよう。しかし直接言及されると心に響くものがあるな…… まあ今が楽しければいいんだもん!
そんなこんなで無事ファッションチェックは終了し、投げ銭も大いに飛び交った盛況な企画となった。自分が提案した企画だったので失敗したらどうしようと不安だったが、なんとかなって何よりだ。
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