第一章 小学生≠大人 6

 六


「結果としてやることとしては、ぼくらの得意分野の、自然公園や山林の保護の重要性を訴える、ということだ」

「塚さん、主任。あと二十分で出発します。準備をしておいてください」


 塚はまだ口をあんぐりさせたままだったが、三人のミーティングはここで一度終わった。


「わたし、いや、わたしたち、こんなお仕事もするんですか?」

「するよ。内容としてはいつも通りだしね」


 仁楠は平静を装ったが、当然、対象が暴徒と化した小学生というのは初めてだった。


「本当に暴徒だったら警察の出番なんだがなぁ」


 と、仁楠は少し頭を悩ませ始めていた。椅子の背もたれに思いきり体重をかけて、ギイと音を立てながらのけぞった。


 塚はバタバタと備品棚を漁ったり、急に走ったり、戻ってきたり、と大忙しだった。


「どうしたの、塚さん。落ち着いて準備したら?」

「でも、ちょっと怖いじゃないですか」


 大きめのハサミ、分厚めのバインダー、朱肉。事務用品の中では比較的攻撃的なものを机に広げて、どうやってトートバッグに入れて運ぶか思案していた。


「あ、胸に裏紙を何十枚か入れておく方がいいですかね」

「銃で撃たれるんじゃないからさ」

「わたし、仕事中は、万が一に備えるようにしているので!」


 下手なことを言って機嫌を損ねてしまうよりは好きにさせよう、と思った仁楠は、和井得のデスクへ向かった。


「先方は今どんな状況なんだろうね」

「ちょっと先生へ電話してみますね。ちょうど、もうすぐ給食の時間に入るころですし」

「うん。ありがとう。学校に着いたら、まずはヒアリングからだね」

「小学生相手にヒアリング、というのもおかしいですがね」


 二人は困り眉になりながら苦笑した。


 和井得はボルドー小学校の降江(フリエ)へ電話をした。スピーカーモードにして、仁楠も聞こえる状態になった。


「どうですか。お昼には来れそうですか」


 降江の声は焦っていた。六年生は一クラスのみで、降江は教頭であった。


 降江によれば、立てこもっている五人の生徒の先導により、六年生に限り、他の生徒は全員休んでいるとのことであった。


「ひとまず、最低限の資料は用意しました。あとは実地調査をしつつ、接触を図ろうと思います。ただ、あくまでわたしたちは環境コンサルタントが仕事なので、事態の収束自体はできないかもしれません」

「そんな悠長な話じゃあ困りますよ!」


 困るなら警察に行ってくださいよ、仁楠は思ったが、そのあたりの事情も会って話すほうがいいな、と思い、黙っておくことにした。


 塚は、あ、わたしを差し置いて話を進めていますね、と言わんばかりにソロリソロリと近づいてきたが、仁楠が気付いて手で制し、ちぇっ、と口を尖らせて座席へ戻った。怒らせてしまったのでは、と仁楠は脂汗をかいた。


「五年生以下は通常通り授業を展開しています。できれば六年生も、午後から通常に戻したい。いや、明日からでもいい。今日、なんとか解決してほしいんです」


 降江は泣きそうな声になっていた。分かりました、すぐ行きます、と和井得は通話を切った。


「主任。塚は連れては行きますけど、彼らとの接触にはかかわらない方向でいいですよね。何を言い出すか分かりませんし。校庭と、要求している自然公園の範囲の撮影にまわってもらおうと思います」


 仁楠は同意して、塚を手招き、三人は立川へ出発することとなった。

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