キリムスビ!!~異能力者を隔離する島で繰り広げられる、日常とは言い難い異上ライフ

イズラ

愛吐夏(いととか) - 0「切結島」

0-1.天使のような

 ──その時、静寂は破られた。




 朝日が昇っている。

 空は晴れ渡っている。

 私は朝の散歩に出て、のんびりと住宅街を歩いていた。


 散歩コースの折り返し地点、ふと、空を見上げる。

 青い空、おだやかな太陽、心地の良い春の朝だ。

 

 だが、なんだろう、このモヤモヤとした気持ち。

 そうだ、忘れてた。

 今日は──

『バッ』

 その時、一羽の烏が日の光を遮った。

 次の瞬間にはまた日が差し込む。

 ──そう思っていた。

 だが、飛翔体は、突然死んだように止まった。

「……あれ?」

 日の光を遮る光。

 逆光を受けず、自ら発光する飛翔体。

 だが、少しも眩しくない。

「あれは……」

 何だろうか。

 空中で静止している飛翔体、太陽に被さったまま止まっているのだ。

「死んでないの……?」

 死んだ鳥なら地面に落ちるはずだ。


 ──次の瞬間、私は目を見開いた。

 光速にも思える速さで飛んできた、黒い飛翔体。

 その黒は”逆光”ではない、”闇”だった。

 それは光に衝突し、それを吹き消した。

「……人だ!」

 信じられないが、今、青空を背景に人が二人、もみ合っているのだ。

 胸ぐらを掴んでは投げ飛ばし、頭を三角締めにし、手刀を叩きこんだと思えば、今度は何かを突き刺したり──。

 ただ事ではなさそうだ。

 いや、今、この場で起きていること”全てただ事ではない”。


 闘いの最中さなか、喉に詰まっていた言葉が飛び出す。

「──来て‼️」

 声が届いたのか、私の前に舞い降りた、 ”光の正体”。

 その必死の表情は、文字通りまるで『死』を恐れるかのようだった。

「助かる! お前ちょっと、ついてこい‼️」

 背の天使のような翼に似合わぬ、会社員スーツ姿で、金色長髪の少女。

 それは私の腕をがっしり掴み、そのまま翼を奮ったかと思うと、一気に舞い上がる。

 いつの間にか空を飛んでいた私は、ようやく自分の愚行に気が付いた。

「(なんで……‼️)」

 後悔する間にも、少女は私を肩車し、地に腹を向けて飛んでいた。

「――――‼️」

 少女は私に何かを言うが、激しい風の音が、その全てをかき消している。

 そのスピードは、ジェット機など簡単に追い越せそうな感覚だった。

「……ッ‼️」

 あまりの恐怖のせいか、風で肺が圧迫されているせいか、声が出ない。

「(死ぬッ‼️ 終わるッ‼️ 消え失せるッ‼️)」

 それまでガッシリと少女の頭を掴んでいた私だったが、ついにその手が離れる。

 風で体が反り返り、一瞬後ろが見えた。

「(追ってきてる……‼️)」

 信じられないほどの速さで飛んでいるのに、向こうもそれに相応する速さで迫ってきている。

 しかし、それを心配する余裕はなく、ただただ恐怖で一杯だった。

 私は力を振り絞り、再び少女の頭につかまる。

 簡単に意識が飛びそうな体験は、もうこれっきりであることを祈った。

「——巻き込んじゃったことは謝るけど、覚悟はしといてね」

 それまで強風の音に支配されていた私は、久々な人の声で少しだけ落ち着いた。

「(……でも、なんだか人生レベルで後悔しそう……)」

 私──女子高生・冥道或目くらいどうあるめ、巻き込まれた模様。

 直後、風が止んだ。

 少女が飛ぶスピードを落としたのだ。

 飛びながらホッと息をつく少女を見るに、ようやく振り切ったのだろう。

 とにかく、事情を聞かなければ。

 そう思った矢先やさき、視界がぐにゃりと歪む。

「(おっ、しぬ────)」

 私の意識は、空の向こうに置いて行かれていた。

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