REDとパン焼き娘コンテスト
山田露子☆12/10ヴェール漫画3巻発売
1.町の嫌われ者
王都の外れに、一軒の小さなパン屋さんがある。
ゆるやかにカーブする坂を上がっていくと、左手に三角屋根の建物が見えてくる。
尖った形の、可愛らしい赤い屋根。白い壁を這う、緑あざやかな蔦(つた)。
扉の上にはパンのイラスト入り看板が下がっている。
見た目は素敵なパン屋さん――だけどお客はひとりもいない。
お店の前を三人の子供が通りかかった。子供たちは奇妙な歌を歌っている。
『♪悪魔のパン屋に気をつけろ~
パン屋に住んでる怖い魔女~
そいつが魔法をかけてくる~
昔、子供がさらわれて~
魔法をかけられ、ネズミにされた~
悪魔のパン屋に気をつけろ~
子供をさらって食べる気だ~
お店のパンは毒入りで~
食べるとカエルにされちまう~♪』
歌い終えた子供がにやにや笑いながら、ポケットから卵を取り出した。
それを振りかぶって、パン屋の扉に投げる。
――グシャ!
卵が潰れて、扉のガラス部分に張りついた。それがゆっくりと下に垂れていく。
――カランカラン!
扉が内側から開き、上についている鈴が鳴った。
中から十八歳くらいの女の人が出て来た。金色の髪がキラキラ輝き、瞳は優しいスミレ色。見た目はとても可愛らしい女の人だ。
彼女は潰れた卵を見て、怒った顔をしている。
「――こら! 食べものを粗末(そまつ)にするんじゃありません!」
パン屋の女の人が腰に手を当ててそう言うと、子供たちは目を丸くして叫んだ。
「わぁ、魔女が出た!」
「逃げろ、魔法をかけられるぞ!」
「捕まったら、殺されちゃうぞ!」
子供たちは一目散(いちもくさん)に逃げ出す。
「待ちなさい! 悪いことをしたら、まず『ごめんなさい』でしょ!」
女の人が注意をするけれど、誰も聞いていない。子供たちはネズミよりも速く駆けて、あっという間にいなくなった。
ひとりになったパン屋の娘は小さくため息を吐き、汚れた扉を眺める。
まったく困ったものね……娘はバケツに水をくんできて、雑巾を濡らして掃除を始めた。潰れた卵を拭き取りながら、
「うちのパンはどこよりも美味しいのに」
と寂しそうに呟く。
味は最高なのに、この店にパンを買いに来るのは、たったひとりだけ。
この店でパンを買おうという変わり者など、ほとんどいない。
……どうしてこの美味しいパン屋が、町の皆から嫌われているのだろう?
それには深い理由があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます