第零章 おわりとはじまり

モノローグ

 がれきのやまから、けむりがあがっている。くらくておもいくもが、もうもうとそらをおおいつくしている。


 まわりにあったものは、ぜんぶくずれおちている。ざんがいが、ちのうみのなかにしずんでいく。


 じめんには、おびただしいきれつがはしりつづけている。あのうつくしいしぜんも、ごうかなたてものも、にぎやかなひとびとも、おもかげすらない。


 おれたちがすごしていたじかんは、ただのまぼろしでしかなかった。さいしょから、ただのあれちだった。そういわれたほうが、なっとくできるくらいのさんじょうだ。


 ゆうきも、えがおも、なにもかもきえさった。ごうおんとともに、くずれおちるせかい。きょうふうが、はへんとこいしをまきあげる。ひふのあちこちにぶつかって、きずをえぐりにくる。


 ねむってしまいそうなめを、なんとかこじあける。はじめにみえたのは、くろいりゅうせいだった。もえあがりながら、そらからふってくる。しょうげきはによって、くうきがゆれうごく。


 おくがわには、らんらんとひかるほのおがみえた。それはまっさらなぜつぼうに、そめあげられている。くびがちぎれるほどみあげても、しかいにはおさまらない、きょだいなかげ。


 あくむが、おれのめのまえにいる。おれのともだちをつれて、あざわらっている。



 うつくしいきみ。かわいいきみ。


 どうもうなきみ。おもしろいきみ。


 しずかなきみ。かっこいいきみ。


 まじめなきみ。かがやくきみ。



 みんな、むこうにいってしまった。てをのばしても、とどかない。ならくのそこまで、おちていった。きぼうは、もうわらってくれない。


 きみすらもいない、このせかいで。たったひとり、おれだけがいきのこったって。たたかうことも、さけぶことも、あるくことすらも。なにかも、できない。


 あくむが、てをさしのべた。またいしきが、とおのいていく。からだが、うごかせない。もうおれにはなにひとつ、ききとることはできなかった。


 もしも、きみとであわなかったら。こんなにつらくてにがいおもいを、いちどもしなくてすんだのだろう。もう。なにもかも、あきらめてしまおうか。


 …………なのに。


 なぜおれは、ないている? なぜおれは、たちどまっている? なぜおれは、ぜつぼうしている?


 そのりゆうをしるひとは、いない。おれにしか、わからない。わからない、はずなのに。おれは、なにをしたかった? なんのために、ここへきた?



 どうしておれはまだ、いきている?



 このからだは。


 たましいは。



 どこへむかっている……?

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