第14話 見たくないですよね……

「一応補足するが、夕市は夏目は読んだことはない。故に『月がきれいですね』イコール『アイラブユー』ではない、妹よ! そしてさすが我が妹よ!」


 げし! げし! げし!


 縁側に颯爽と現れた兄恭司を遠慮なく芹葉は足蹴にする。聞かれていたのと自分の勘違いを見抜かれたことで、ダブルの殺意を抱いた。


「ど、どこから聞いていた! この!」


「はい、軟弱者は脳筋妹が、しどろもどろで兄の親友を買い出しと言う名のデートに誘うところから。正確には親友が正座させられてるところからだから、ぜ~~んぶ聞いてました!」


「シ……シにたい……」


「いや、でもなんだなぁ、昨今のラノベ界隈では、幼馴染枠及び親友の妹枠は負け確なんだが?」


「何が言いたいのよ(泣)」


「いや、せめてもう少し優しくしたら? って話。出来んだろ? 根は優しいんだから」


「し、仕方ないじゃない! なんか、イラッて来るの! 剣道だって筋はいいのに、打ったら相手が痛いから、とか考えちゃう人だし! そこもいいトコなんだけど!」


「妹よ、キレながらノロけないで欲しい。お兄様からの要望です。しかし、妹よ。その長きにわたる葛藤の日々も今日で終止符が打たれた!」


「はいはい、相変わらず何言ってるかわかんない。寝言は寝てからどーぞ」


「見よ、この写真を!」


「ん……瀬戸藍華? CМのまんまだ! そう言えば、お兄ちゃんの高校に通ってるって言ってたね。隠し撮り? マジキモい~~」


「キモい自覚はあるので改めて言わなくていい。そして更にこちら!」


「うわっ……かわいい~~お兄ちゃんの高校の制服だよね? それにしてはロリ顔ね~~ホントに高校生? あっ! コスプレ⁉ 制服コスって……兄ながら引くわ~~」


「いや、ロリ顔だがコスではない! あと、チャンスがあったら引くのやめない? 因みに、このおふたりは」


「ふたりは?」


!(ドヤァ~~)」


「ぶぅ~~っ⁉ な、なに言ってんの? そ、そんなの有り得ないよ、だってきょどるのが日課の人だよ? そ、そ、そ、そんな彼女だなんて……」


「しかもふたり共な?」


「ぶぅ~~っ⁉ そうそう、そんなハーレムアニメじゃあるまいし『まいん』のIDだって、学校のグループ『まいん』以外で女子は私だけだし!」


「その事実をなんでお前が知ってる?」


「えっ? 普通に『ケータイ見せてよ』って」


「この彼女気取り‼ おまっ、兄の親友に何してくれてんの⁉」


「えっ? 普通でしょ? 他の女のIDとか……ははっ、ないない! 許さない!」


「怖ぇから……お前らもしかしてそういう関係?」


「そういうって?」


「セ○レみたいな?」


「セフ○⁉ せめてエッチな関係とか言え! あ、あるワケないでしょ、そんなの! そりゃ、そのにょ、しょ、将来的にはあるにはあるかなぁみたいな感じ? いや、ちゃんとしたお付き合いを重ねたら……やぶさかではないけど」


「あの態度で将来見据えてるお前のメンタルすげーな……」


「で、冗談よね? 彼女がふたりなんて。ましてやひとりは芸能人、ひとりはロリっ娘」


「あぁ……ロリっ娘って呼ぶのはここだけにしような? 俺の命が危ない」


「お兄ちゃんは死なんでしょ、でどうなの?」


「彼女だよ、しかも夕市を取り合う感じ。もう、取っ組み合いの勢い。因みに愛のキューピットは俺な?」


 げし! げし! げし! 三段足蹴り!


「何してくれんの、クソ兄貴! はぁ⁉ 妹を親友に取られるのが嫌とか? マジキモいんですけど! このシスコン兄貴!」


「お言葉ですが、ミリもシスコンではないが。まぁ、親友に劣化ウラン弾みたいな妹押し付けるのは些か気が引ける」


「誰が劣化ウラン弾なの? 明日の朝日が見たくないようね。まぁ、いいわ。うん、大丈夫、地の利は私にある! ギリギリでセーフティーネットが働くはず」


「なんだ、そのセーフティーネットって」


「お母さまよ、お母さま、並の精神力じゃムリムリ。もう心を無にしないと削れちゃうくらい無関心だから。だから私普段から剣道で鍛錬してるの! あと文字の乱れは心の乱れっていうから、お習字も欠かせないわ!」


「お前が剣道頑張ってるの割と邪な理由なのなぁ……でも、確かにお母さんは……」


「ねぇ……」


 □□□

 ちゃぷん……


 ここは戸ヶ崎家の浴室。


 現在芹葉は入浴中だ。髪を洗い終えてタオルが撒かれた青髪。浴槽に口まで沈めて芹葉は曇った浴室の天井を睨む。


(なによ、芸能人って……あと、もうひとりの人も……私なんかよりかわいいじゃない……なによ、腹立つぅ)


 だいたい何? 夕市あの子は私が育てたも同然なんですけど? 小学1年からず~~っとよ、ず~~っと!


 だいたいお兄ちゃんだって親友なんて言うけど、小学時代話もしてなかったじゃない!


 どいつもこいつも、トンビに油揚げじゃない!

 端正込めて育てたんですけど、私が‼


(はぁ……バカみたい、私)


 ちぃろん♪


(ユウちゃんからだ。いま帰ったんだ。何してたんだろ……遅くない?)


(芹葉)『帰るの遅くないですか?』


(夕市)『卵買わないとだったんで。母さんが御菓子作るらしくて』


(ユウちゃんのお母さん、仕事帰りに行けるよね……便利使いばっかじゃん! もう、もう、もう! どいつもこいつも腹立つ! 高校男子でも事故とかあるし! 夜だよ! もう! こっちは心配で待ってるつぅの!)


(夕市)『今なにしてました』


 今お風呂なんだけど……ビデオ通話とかしたら驚くかな……

 チクリ。


 私なんかの裸見たくないか、でも……


(芹葉)『今お風呂です。話したいことがあります、ビデオ通話しませんか?』


(夕市)『お風呂でビデオ通話は……』


(芹葉)『そうですよね、私芸能人じゃないし、かわいくないし、私の裸なんか見たくないですよね……ははっ。すみません』


 あぁ……何やってんだ私。あんなに稽古では偉そうにしてるのに……はぁ……消えたい。


 ちぃろん♪


 えっ……ユウちゃん? あんな事言ったから怒られるかも……


(夕市)『見たいって言ったら……嫌いになりますか?』


 み、見たい……⁉ 私のを? 芸能人でもかわいくもない私のことを?


 ドクン、ドクン、ドクン……













 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る